034 夜になったらこの町ともさよなら




 夜は更け、子供たちとデジモンたちは疲れた身体を癒すために早めの眠りについた。イヴモンは、そっと栞の腕から抜け出し、ぐっすりと眠っている彼女の横顔を見つめる。


「栞。僕は、たとえ君がどこへ行こうとも、何をしようとも、君のために傍にいるから」


 あどけない横顔を見つめ、小さく笑顔を漏らす。何一つ変わらない彼女の顔、ずっとずっと守ってきた。そしてこれからも、守っていくと決めた。


「だから…負けないで…闇に、負けないでね」


 そうなった姿を、見たくはない。彼女が変わり果てる姿は、誰も望みはしない。
 愛する守人、誰もが愛する守人――我らが、秩序。


 「僕が守る。たとえ、この命に替えたとしても、――そうだろ、シキ…?」


 果てしなく続く空に問いかける。返事がかえってくることはない。だが、空の向こうで、彼が笑ったような気がした。


★ ★ ★




 朝早く目覚めた彼らは、すぐに作業に取りかかった。ぐっすりと眠ったおかげで、身体の疲れも取れていたので、取りかかるのも早かった。まさか泳いでなんて、やはり無謀な考えなので、地道に木でいかだを作ることに決めた。
まずデジモンたちに木を倒してもらうことから始めることにした。


「木を切るだけでもずいぶんかかりそうですね…」
「焦っても仕方ないわ!ゆっくりやりましょう」


 半そでだが気合いを見せるために腕まくりをする空の後に続き、1人、1人と己に出来ることをさがすようキョロキョロし始めた。


「守人」
「…え?」


 栞は聞き慣れた声が聞こえて、後ろを振り返った。そこにいたのは、デビモンとの戦いで共に戦ったレオモンだった。


「レオモン、」
「え?レオモン?」


 栞の言葉を聞いて、空も後ろを振り返った。栞が嬉しそうに笑うのを見て、レオモンは優しく微笑み、子供たちの方まで寄ってきた。


「サーバ大陸へ行くそうだな」
「え?なんで、それを」
「噂好きのモンスターたちもいるんだ。何か手伝えることはないかと思ってな…」
「ホントに手伝ってくれるの?」
「頭数ならたくさんいるぞ…。みんなお前たちを、…守人を手伝いたいと言ってな」
「マ、当タり前だよネ」


 にっこりと笑って、イヴモンは空中に浮いた。レオモンを前にすると、彼のふんわりとした物言いが、少しだけきつくなるような気がしたが、栞が嬉しそうに笑うので、誰も口には出せないでいた。


「タケル、パタモーン!きたぜ!」
「エレキモンだ!!久し振り!」


 黒い歯車に侵され、子供たちの活躍によって生気を取り戻したデジモンたちが、次々と子供たちの前に現れた。


「あ、モジャモン!」
「ケンタルモンもいますよ!」
「もんざえモン!」
「わーい、ユキダルモンだ!」
「メラモン!」


 おーい、と嬉しそうに子供たちは手を振る。デジモンたちも、笑顔で返した。


「よォ、俺たちも手伝いに来たぜ!」
「わーい!!ありがとう、エレキモン!!」
「『希望』は、俺たちにもあるんだろ?」
「うん!」


 彼らの助力もあってか、すぐにいかだを作ることに成功した。大きなものではないし、果たしてこれで渡りきれるかどうかも分からない。しかし、たくさんの協力を得て作ったいかだはどんなものよりも強い気がした。

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