―――…見つかるといいね!
―――…うん!


 そう返事をするタケルの表情は、生き生きとしていた。輝く湖の果てにある島へと向けられた瞳の中には、くっきりとヤマトの姿が映っている。――早く、会いたいな。心が躍る気持ちを抑えて、タケルは桟橋に座り込んだ。


―――…おまたせえ!


 程なくしてピコデビモンは再び現れた。その表情は行きと差して変わらず、しかしその後ろにも横にもヤマトの姿はない。立ちあがったタケルは、少しだけ首を傾げたが、ピコデビモンが陽気な声でやってくるものだから、直ぐに笑顔を浮かべた。


―――…お兄ちゃんは!?お兄ちゃんに会えたぁ!?
―――……会えたけどぉ…。


 相変わらずの笑顔だったが、ピコデビモンは、言葉を濁した。その些細な変化に気づかないタケルではない。窺うように小首を傾げ、ピコデビモンを見やる。


―――…何処に居たの?
―――…うぅん…。ね、タケル。伝言があるんだ。ヤマトから。


 何故か、言いづらそうに、ピコデビモンは空を旋回し始めた。ぱっと顔を輝かせたタケルだが、やはりピコデビモンは言いづらそうにしていた。しかし、その瞳が鋭く輝いていたことなど、タケルは知りもしない。


―――…ヤマトねぇ、君にもう会いたくないって。
―――…え?
―――…君のこと、大大だーい嫌いだって!


 無邪気な顔で、残酷なことを言ってのけた。タケルの時が止まる。え?戸惑いを隠せず、もう一度だけ聞き返す。ピコデビモンは、やはり、鋭い瞳で微笑んでいた。


―――…もう兄弟で居たくないって!


 突然、抑えていたリミッターが外れ、タケルはわっと泣き出した。「嘘っ!」脳内でヤマトは優しく微笑んでいる――ヤマトはいつだって、タケルのために、頑張ってくれていた。そんなこと、あり得るはずがない。そう思う心と裏腹に、ピコデビモンの言葉が反響する。もしかしたら、ヤマトは、泣き虫のタケルのことが嫌になってしまったのかもしれない。だから、待っていても、戻ってこないのかもしれない。


(…ヤマトくんが、そんなこと言うはずないって、分かる。でも、…嘘でも、そんなこと言われたら、辛い、)


 頭を振っても、あの日の残像が、脳内のど真ん中でちらつく。雪が舞い散る中、かじかむ指先を抑え、裸足で駆けだした。ただひたすらに、大好きな兄を、追いかけて。


(…待っていてって言われたから、待ってた。ウソつくことなんて、なかったから、お兄ちゃんは、嘘つかないって、信じて、)


 タケルの気持ちが、痛いほどよく分かる。忘れかけていた想いが、一気に栞の心の中に溢れだした。どうしようもない苦しみを隠すように、ペンダントを握りしめた。


(それでも、いくら待っても、帰ってこなかった)


 ちょうど、タケルと同じ年の時だった。――一馬は、兄は絶対に帰って来ると言ってくれた。おじとおばからは諦めろと言われたが、決して帰って来ないとは言われなかった。嫌いになったからだとは言われなかった。――もし、このピコデビモンがタケルのためを思って行動してくれていたとしたら、このようにはっきりと物を伝えることなど出来はしない。例え、ヤマトが本当にそう言ったとしても、言葉を濁すなり、間接的に言うなりするだろう。雑念を振り払うように、一度頭を振った。
 トコモンの話は続いた。


「タケルは、ヤマトのことだいっきらいって言って、走って行っちゃったんだ、」


 泣きながら走り出すタケルの背中を、一生懸命追いかけた。暫くして涙は落ち着いたタケルは、湖の畔に座り込み、ひたすらに石を投げ続けた。その間も、トコモンは必死に説得を続けた。―ヤマトはそんなこと言うヤツじゃないと。

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