「―――だろ!!」
「―どい!―そ―――の!?」


 太一とタケルの声が聞こえる。栞は俯いていた顔を、少しだけ上げた。
 アグモンがピコデビモンの足を掴んでいて、タケルの腕の中にはトコモンがいる。太一がタケルにデジヴァイスとタグ、紋章を渡し――瞬間、栞の心に小さな光が灯った。淡い、黄色の光。タケルの紋章が同じ輝きを放っている。


「それじゃ、俺が困るんだよ!!」
「タケルは僕が守る!!」


 獰猛な歯をむき出し、トコモンは高らかに声を上げた。『守る』――ただ、ただそれだけのために。
 タケルはデジヴァイスを掲げ、栞は黄色い光を放つ。進化だ。先の戦いで、儚き命を散らせたパタモンは再びデジタマからやり直し、トコモンにまで成長した。それから、進化することはなかったが――「トコモン進化ァ!!…パタモン!」今、再び、大きな羽根を羽ばたかせピコデビモンに向かって行った。
 パタモンの体当たりによって、一時バランスを失ったピコデビモンだったが、直ぐに感覚を取り戻し同じように体当たりを喰らわせた。先ほどまでの機嫌を取りつくろうような様子など一切なかった。もはや本性を剥き出しにし、楽しむようにパタモンをいたぶりはじめた。
 足を持って引きずったり、お得意のピコダーツで翻弄したり、空の上でのことなのでアグモンでは太刀打ちができない。観覧車の上で足を離し、叩きつけるように落とした。パタモンの体はどんどんと音を立て、ゴンドラの上で転がる。


「っパタモン、頑張れー!!」


 痛みを覚えた体に鞭を振るったのは、愛するパートナーの声だった。目いっぱい羽根を広げ、起き上がる。――タケルのために、タケルを守るために。もう二度と、苦しい思いなんて、させないように。
 ゴンドラの上と飛び乗り、ピコデビモンに向かって渾身の頭突きを喰らわす。思わぬ衝撃によろけた隙をついて、エアショットを当てる。吹き飛ばされたピコデビモンは、ジェットコースターのレールの上に落ち、そのまま滑り落ちていく――その前に立ちはだかり、もう一度エアショットを。更にもう一度エアショットを当てれば、ピコデビモンの体は彼方へと飛び去って行った。


「「やったァっ!」」
「パタモンっ!」


 戦いが終わり、己の元へと戻ってきたパタモンに、タケルは駆け寄る。


「…今までのこと、本当にごめんね」
「フフ。もういいって!僕もまた、タケルのおかげで進化できたんだし!また、仲良くやっていこう?」
「うん。あと、…お兄ちゃんにも謝らなきゃ」
「うんっ!そうだね!」


 二人は仲直りの印というように、しっかりと抱き合った。栞はそのタイミングで自販機の後ろからひょっこりと体を出した。タケルとパタモンをほほえましく見守っていた太一は、その姿に気づく。そう言えば、先ほどから居なかった。その表情が、少しだけ暗いことにも気づいた。


「栞?」
「ご、ごめんね、一人で隠れてて…」
「いや、別に平気だけど。…どうか、したか?」
「え…?」
「何でもないなら、いいんだけどさ。ちょっと、暗い顔してるから」


 その太一の言葉に、無意識でイヴモンの方へと視線を向ける。目の前に浮いている彼は、いつもと変わらず飄々としていた。


―――…選ばれし子供は換えが効く。そのうちまた現れる。――でも君は一人きりなんだ――君を失ったら、世界が終る。すなわち、この世界は、跡形もなく消滅する。

―――……僕は君を守るためなら、悪にだってなるよ。君が生きていてくれるなら、例え嫌われようとも残酷なことを言う。――でも覚えててね。僕は、君を守るために、在るってこと。


 今までだって幾度となく同じような言葉を言われてきたけれど、ここまではっきりと言われたことなどなかった。確かに残酷すぎるくらい、明確に伝えられた思いに、栞は何を言うこともできない。
 やがて彼女は顔をあげ、小さく笑った。何でもないと、まるで自分の罪を隠すように。

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