「ヤマト、くん…?どうして、」
「そうだよ!丈だって仲間じゃないか!なのに、」
「っ何が仲間だ!そうやってお前がみんなを引きずりまわしたんだ!おかげでもうくたくただ…!!お前はもう1人で好きなようにしろ!栞と二人で、どこかへ行けばいいだろ!!」


 栞に、『仲間』を教えてくれたのは、彼等だった。それなのに――何かが、崩壊していく。
 どなり声が怖くて、無意識のうちにペンダントを握りしめた。傍に寄り添ってくれる空の存在が無いからこそ、不安で、恐怖が胸を支配する。


「落ち着けよ、ヤマト!お前、自分が何言ってるか分かってるのか!?」
「ああ、分かってるさ!!俺はタケルと二人で行く!!」
「待ってよ、お兄ちゃん!皆、友達じゃ、」
「うるさい!お前は俺についてくればいいんだ!!」


 ざっと草を踏み分ける音が聞こえ、栞は振り向く。たまご型のデジモンが優しい表情で、栞の直ぐ近くに立っていた。驚いて身を引けば、彼はまた少し、こちらに近づいた。


「おや〜?みなさん、こんなところで何をしていらっしゃるんですかー?まーさーか、ここから脱出しようなんて考えてるんじゃないでしょうねえ?」


 穏やかに丸かった瞳が、ぎらりと鋭さを増す。「そうそう。そんなことされちゃ、困るんですよね?」猫なで声が、そこに響いた。


「アイツは、ピコデビモン!」
「タケルを騙そうとした悪いやつだ!」
「っな、なんだって!?」
「じゃあ、人間がいるっていうのも…!まんまと騙されたってわけか…!」


 驚愕に満ちた顔を見れば分かる。おそらく、ヤマトや丈も彼の口八丁手八丁に騙されてしまったのだろう。パタモンやアグモンは怒りを堪え切れず、ベビーフレイムやエアショットを繰り出したが、ピコデビモンは軽く身を捩ってその攻撃から逃れる。その大きな羽を駆使して、彼は飛んで行ってしまった。太一とタケルはその後を追った。
 その隙をついて栞は先ほどのイヴモンの行動や言葉を思い出し、店の中に隠れようと身を翻し――「どこへ行くんだ!?」デジタマモンの体により、捕えられる。


「わっ、!」
「栞っ!」
「栞!?――くそっ!」

「ああ、この娘は――そうか、守人か…、これが守人の力か!!」


 デジタマモンが、己の中に膨大なる力が目覚めるのが分かった。この力をずっと、自分のものとしておきたい。ずっと、求めていた力だったのだ。心の奥底に芽生えた漆黒の布で、心が覆われていくのが分かる――恍惚とした表情を浮かべるデジタマモンに、栞は恐怖を覚えた。離れようと身をもがくが、彼の力は益々増すばかりだ。


「栞を離せっ!」
「――そうだ。君たちの借金の代わりに、この子を頂くとするよ」
「何言ってんだ!!借金分は働いただろ!!足りないっていうなら俺が働く!!だから、栞は離せッ!!」


 ヤマトは必死だった。今さらになって、イヴモンの言葉が甦る。――栞を守ってくれと、言われたというのに。目の前に居たというのに、簡単に囚われてしまった。拳を握りしめて、必死に叫ぶ。デジタマモンに捕まった栞は、恐怖故か、震えていた。助けなきゃ。守らなきゃ。それは単にイヴモンに頼まれたからとかいう問題だけではない――初めて好意を抱いた女の子を守れなくて、何が男だ。それでも、何もできない。何をすることもできない。もどかしい気持ちだけが、心に甦る。


「そうだねえ。君たちはよく働いてくれた…。それにこの子ももらえるんだ。十分すぎるほどおつりを出さなきゃねえ!」


 声色は随分と高らかだった。瞳は随分と黒く満ちていた。栞の体を突き飛ばしたデジタマモンは、頑丈さを誇る殻にこもり、そのままの勢いでヤマトに向かって突進してきた。丈は慌てて栞を受け止める。
 ヤマトは持ち前の瞬発力でその攻撃からは避けるが、デジタマモンは機転を利かして身を翻す。その時、栞は祈りを込めた――ヤマトがもう自分たちと行きたくないと言われた時、心が痛くなった。『仲間』だと思っていたのに、それを真っ向から批判された気がしたからだ。けど、もしそうだとしても、――自分が助けない理由にはならない。ヤマトは友達思いの男の子だ。自分がデジタマモンに捕まったさっき、ヤマトは必死に叫んでいた。だから、栞は祈りをこめ、指を組んだ。

―――…しゃらん。しゃららん。

 鐘の音が、頭の中で響き渡った。進化の合図だった。


17/07/27 訂正
11/04/17

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