「けどね、」


 そう言うイヴモンは、何故か、悲しそうだった。


「僕にとっては、君は、光なんだよ」
「え…?」


 思わず声を出し、顔をあげれば、微笑むイヴモンと目が合った。気まずさに目を逸らすけれど、彼は相変わらず栞を見つめていた。


「君が救いあげてくれたから、僕が在る。君だけが、僕の光なんだ。ね、君にとっての光は誰?―空?ヤマト?――やっぱり、太一?」
「私、」
「…うん?」

「――私も、イヴモンが、光…」


―――…す、と栞の心に、一筋の光が差し込んだ。
―――…白い毛が、栞の心の闇を払った。


 過去を振り返ってみれば、苦しい時、いつだって、イヴモンに救われていた。いつだって助けてくれるのはイヴモンで、味方をしてくれるのもイヴモンで。気がつけば、栞というレールの上には、優しいイヴモンがいた。


「…っごめんね、」


 そのふくよかな体を抱き寄せ、顔を埋める。先ほどのデジモンの言葉がぐるぐると頭をめぐって、痛みを覚えた感情のみが栞を支配していた。彼の言葉が正確だからこそ、余計に何も分からなくなってしまっていた。けれど――このデジモンは。ただ献身的に、栞の傍にいた。何の見返りも求めず、ただいつも隣にいてくれた。


「分かって、たのに、」


 心の弱い部分が、全てを否定した。未だ、信じられない部分が残る。それでも――イヴモンだけは信じようと、誓った。この優しいデジモンだけは、信じていようと。
 ふ、と栞の体に光が灯った。淡い紫色の光だった。誰かが進化を求めているような気がして――そっと、データを送り込む。何も知らないままでは、何も出来ない。右手に生まれた『知識』の光を、空の向けて放出する。パア、と辺り一面が輝きを見せ、そして静かに消えて行った。
 栞は空を見上げた。今は太陽が沈み、黒く成り果てた世界は、まるで己の心の中を映しだしたかのようだと思った。それでも、光を求め、見つけた。絶やさず、守りつづけて行かなければならぬ光を。


―――…一番大切だと思っているものが、嘘だと気づく。
―――…本当の『愛』など、存在しないのだ――。


 彼のデジモンのその言葉の意味を知るのは、もう少し、先の話だった。


17/07/27 訂正
11/04/17

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