「何か、ヤな感じ…」
「僕、見てくる!」
嫌な雰囲気を俄かに漂わせ始めた空間の中を、パタモンは飛び出て、階段の向こう側へと消えて行った。パタモンが様子を見にいくと言った以上、自分たちは自分たちのしなければならないことを全うすべきだ。子供たちは再び視線をカードへと向けた。
「こんなのはどうだ?」
「うーん…そうね…」
「…無駄だよ」
やがて。丈が、諦めの言葉を口に出した。彼の瞳は随時カードへと向けられていたが、その奥からは僅かながら落胆で染まっていた。「無駄なんて言わないで!」ミミが言った。確かに、このままでは埒が明かない。ヒントなど何もなくて、渡されたのはカードと、ねぎらいの言葉だけなのだ。
「例え、それらしい分け方ができても、何の根拠もないじゃないか」
「それは…そうだけど…」
ずれた眼鏡を直しながら、丈はきっぱりと言い放った。確かに、彼の言うことに一理ある。「…でも…」じっと、微動だにもせずに石板を見つめていた栞は、ぽつ、と小さく呟いた。全員の瞳が、彼女に向けられる。
「…そうだとしても…諦めたく、ないです」
それは今まで生きてきた中で、初めて口にした言葉かもしれなかった。
栞は、思い出す。デビモンの巧みな罠にはまり、洋館の中で襲われた時、太一に言われた言葉を。「諦めるな」、彼はそう言った。兄を探すことも諦めて、誰かと共にいることを諦めて、全てを中途半端に投げ出してきた栞にとって、それはどれほどの価値のある言葉だったのだろう。
目の前にある扉の向こう側には、大好きな家族が待っている。守るべき世界も待っている。それらを投げ捨ててまで、諦める必要などない。
「私は――諦めない…」
振り返り、しっかりと、子供たちを見つめた。灰色の瞳が、やけに、明るく光を放つ。それが元来、彼女が持つ強さの証だった。
「栞…」
空は、彼女の名を呟いた。
周りと溶け込もうともせずに、一人で隅っこで座っていた少女がいた。グループで何かをする、という授業になっても、中々グループを作れず、最終的には先生から助け船を出される少女がいた。そんな少女とは正反対に明るく面倒見の良い空だから、先生からその少女のことを頼まれた。最初は仕方なく付き合っていたのかもしれないが、どんどんとその少女の魅力に引き込まれた自分が居た。泣き虫で、寂しがりで、それでも心の奥底はしっかりと地面に足をついて、立っていた。彼女は、大きく成長した。それが、空にしたら寂しいことだけど、それでも喜ばしいことだった。
「ここまで来たんだ」
その後を掬いあげるように、太一はニッと笑った。
「最後まで、頑張ろうぜ」
ぽん、と丈の肩に手を置いて、彼はやっぱり笑った。太陽のように明るく、輝く太一の笑み。そして、宵闇の中を照らす月のように優しい栞の瞳。丈は、す、と心の中の何かが解けて行くのを感じた。
その時、ぐらりと大きな揺れが、彼等を襲う。「わっ!」「うわあ!」お互いを支え、その場に立つことに必死になった。
「たいへーん!!」
様子を見に行っていたパタモンが慌ただしく帰ってきたかと思えば、「城が崩れていくよ!!」「なんだって!?」彼の報告は彼等にとって後にも引けない状態を生みだした。
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