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ホエーモンの中は薄暗く、子供たちはとりあえずの対策として、身を寄せ合い恐怖をはねのけようとした。
「きっとここはホエーモンの食道ですね…。あ、もちろんレストランという意味の食堂ではありませ、」
「そんなの分かってるよ!」
飲み込まれた波と共に、勢いよく流されるため、何か物に捕まっていなくては吹き飛ばされてしまうほどだった。栞は思わず目を瞑り、片手ではイヴモンをしっかりと抱きしめ、もう片方の手で食料を詰めた木箱に捕まった。しかし極度の緊張からか、手には異常なほどの汗が溢れ、掴んでいたはずの箱から手が離れてしまった。
「うわっ!」
「栞!俺に掴まれ!」
栞が飛ばされる前に、ヤマトは手を伸ばし、彼女の手を掴んだ。彼女も応じるようにしっかりとその手を掴む。今更恥ずかしさなんてものはなかった。
「ねえ食道ってことは、私たち…!」
「このまま行けば…確実ですよ」
「うわーん!やっぱり食べられたんじゃない!」
「ミミ落ち着いて!大丈夫よ、私がミミを守るわ!」
「パルモンも同じように食べられちゃうのよ!」
ずるずると座り込んだミミは、目に涙を浮かべながら、叫び続けていた。それこそ喉を痛めるのではないかというほどで、聞いてる方が不安になってくる。
「どこまで行けば出口なんだ…?」
「おそらく、出口はおしりでしょう」
「そんなところから出るのなんて絶対イヤ!!」
「ウンチみたいね!」
「言わないで!!」
どうすれば、ここから脱出できるのだろう。
栞は必死に冷静になろうと今まで以上に頭をフル回転させ、熟考した。しかし考えれば考えるほど、頭の中はパンク寸前だった。予想外のトラブルにはとことん弱いのである。
「栞、うエ!」
「うえ…!?」
イヴモンは身を捩り、その身体全体でホエーモンの身体の上を指した。子供たちみんなの視線がそちらに行く。いち早くそのことに気づいたデジモンたちが、己の身を挺してカーブを作ったので、上から落ちてきた吐瀉物にはあたらずに済んだ。紫色の液体は、子供たちにあたることなく、子供たちの横へと融け込んだ
「な、何よこれ!」
次から次へと、紫色の液体が子供たちにふりかかる。そう、まるで意志をもっているような行動に、太一は思わず眉を寄せた。
「俺たちに襲いかかってきてるみたいだ!」
「もしかしたら僕たちのことをばい菌か何かだと思っているのかも知れません!」
「え、ちょっと!何よ、前、前ーッ!」
「前…!?あ、穴じゃないか!落ちる!!」
液体は休むことなく彼らを襲いかかり、責め立てるかのように彼らを促した。そして空や丈が言った通り、彼らが進むべき道にあるのは大きな穴だった。落ちる、と誰が叫んだかはあまり覚えてはいなかった。その衝撃は思ったよりも早く、そして思ったよりも小さかった。
みんなが目を開け、そっと周りを窺った。
「随分、…広いところに出たわね」
「ここはどこだろう…」
「食道の先は胃、だと思うけど」
「胃…って食べ物を消化するところだよね?」
「ああ、そうだな…」
「…胃液、だよね、これ…」
栞が呟いた言葉に、子供たちはびくりと肩を揺らした。
ただ分かっていないタケルとミミだけは、首を傾げている。
「「胃液?」」
「胃に入ったものを溶かす消火液のことです!」
「胃、胃液って!危ないじゃないか、溶かされてしまうよ!」
「ここ溶けてる!」
既に胃液に浸かっているいかだは、じわりと浸食され始めていた。ヤマトは急いでタケルを木箱に上に乗せ、子供たちは再び身を寄せ合った。
「落ちるとまずいぞ!みんな溶けちまう!」
「た、太一さん!変なこと言わないでよぉ!」
「だから早く通りすぎないと危ないってことだよ!」
「ア…。みンな、見テ、あそコ」
「え?」
再びイヴモンは身体全体で上を指した。そこに埋められていたものは、彼らが見慣れた黒い歯車だった。
栞は思わず口を押さえ、瞬きをせず黒い歯車を見つめた。デビモンは、ファイル島で地に伏した。ならば何故まだ黒い歯車が燻っているのだろう。
「だからホエーモンは暴れてたんだ…」
「だったら何とかしてあげようぜ!」
「でもどうやるんだよ。あそこまでじゃデジモンたちの技は届かないだろ」
「…そ、それは…」
「そうだ!私につかまって登ればいいんじゃない!?ほら…ポイズンアイビー!」
パルモンの手から伸びたポイズンアイビーは、しっかりと黒い歯車を掴んだ。
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