「さあてと、俺達も出発しようぜ」
ぽん、と太一の手が優しく頭に触れた。頷けばそれに伴って涙が零れ落ちそうだったから何も言えなかったけれど。
「頑張ってデジモンワールドのゆがみをただそう!」
いつものように太一の号を受けて、他の子どもたちも少しだけヤマトが去っていった背後を気にしながら歩き出す。
しかし、一人だけ、その場で立ち止まった者がいた。
「ミミちゃん…?」
栞を支えながら後方を歩いていた空が、そのことに気づく。自分よりあとにいるはずのミミの足音が聞こえなかったからだ。
「…ごめん、空さん。あたし、行かない…」
「行かないって…ここに残る気?」
「…もうこれ以上誰かが傷ついたり、死んだりしていく姿を見たくない…」
心優しい純真の心を持つミミには、もう耐え切れなかったのだろう。そのことを知っているからこそ、責めるものは誰もいなかった。誰も、責めることなどできなかったのだ。
「ミミ、ちゃん」
「…栞さん、ごめんなさい。でも、あたし、」
「ミミちゃん」
「……っ」
「あなたの、とても優しい気持ちはね。この世界の病を払ってくれる、とても大きな力だと思う」
何故だか、自分が自分ではないように、言葉があふれ出す。手を伸ばして、固く握りしめられた手を、優しく包み込んだ。暖かさが共有される。ミミのうるんだ瞳が、栞へと向けられた。栞の兄の、狩人の話を聞いたのに、という気持ちと、彼女の誰も傷つけたくない傷つく姿を見たくないという気持ちが交錯していたのだろう。
栞は穏やかに笑う。
「だから謝る必要なんてないの。大丈夫だよ。…無事を祈っているね」
ミミは大きく頷いた。ありがとう、と小さな声のつぶやきが聞こえ、華奢な体が栞にしがみつくように抱き付いた。その背中を何度か撫でる。
この優しい少女が心を痛めずに済む世界になるように。
ゆっくり離れ行く少女を思って、栞も強い決意をした。
「…僕も残るよ」
「丈さん、」
「ミミちゃん一人だと危険だから…」
丈は笑ってそういった。
「説得して、説得できたら、太一たちの後を追いかける。いいよな?」
「ああ、頼むよ、丈」
「丈さん…」
丈はずれかけた眼鏡をなおして、強く、拳をにぎった。
「栞くん。必ず、戻るよ。大丈夫さ!」
「…はい。信じています。丈さんはいつだって、嘘は言いませんから」
その言葉に丈はニッと笑った。
「よしっ!」
「あっ、待ってよ、丈!」
ミミのもとへと駆けていく背中を、残った者で見送る。ひとり、またひとりと欠けていった。それでも何故だろう。不思議と、先ほどのような不安はなかった。
そう。“信じているから”。言葉を口にすると、不思議とそう思えてくる。
「…またみんな、離ればなれになるの?」
「折角9人そろったのに…」
「――アンタたち何にも分かっちゃいないのね」
「え?」
「行く道は違うけど目的地は同じってこと。どの道も茨の道だろうけど」
そうして子供たちは別々の道を歩き始める。いつか、同じ道を歩むために。
2018/02/22
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