何回、投げ出されたことだろう。それでなくともヴェノムヴァンデモンとの闘いのあとすぐこちらへきたのだ。身体はもうくたくたになっていた。固い地面に放り出された子供たちは、体をさすりながら起き上がり、辺りを見回す。
 森の中でもない、霧の中でもない、暗闇の中でもない、サーバ大陸で見たような、コロッセオだった。


「ッ…イヴ、モン…嫌な予感がするの…とても…とても…」
「栞…」


 先ほどまではまだ気丈に保てていた栞の体が、音を立て、震えている。大丈夫だなんて、そんな言葉は気休めにすらならない。彼女は恐らく感じ取っている。これまで以上の、悪夢の存在に。
 イヴモンが声をかけようとしたその時、陽気な声が耳に届いた。


「良い子のみんな。今日はとっても面白い話を聞かせてあげよう!」


 柱の陰から現れたのは、ボールの上に乗った、なんてことない、どこにでもいるような恰好の道化師だった。
 呆気にとられる子供たちはさておいて、そのピエロは懐から紙芝居を取り出し、彼らに披露した。クレヨンで描かれた、まるで子供が描いたようなイラスト。しかしそこに描かれているのは紛れもなく、彼ら八人の子供、八匹のデジモンだった。


「昔々、とあるところに八人の選ばれし子供と八匹のデジモンがいました」


 そして一枚、ページをめくると、そこには長くなびく黒い髪を持った女性、そして黒い塊のようなものがいた。


「八人と八匹は守人の力を使って、愚かにもスパイラルマウンテンに登ろうとしました。そしてダークマスターズにやられてしまい、守人はそのダークマスターズに力をとられ、乗っ取られてしまいました。――おしまい」
「何それ!全然面白くないよ!!」


 地面に散らばった紙芝居をにらみつけて、タケルはピエロの食って掛かろうとしたが。


「タケルくん、ダメ…!!」


 震える体を抑え、栞はタケルの身体を抑える。
 ―先ほどまで体を支配していたのは恐怖ではなかった。もしかしたら憎悪の感情が強かったかもしれない。だがこのデジモンには、やはり憎悪よりも、恐怖が先行される。なぜだろう。先ほどのデジモンたちだって同じく恐怖されるべき対象であるのに、どうしてこのデジモンだけがこんなにも恐ろしく思えるのだろう。

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