episode 2
冬のアルベド


ロンが初めて彼女の姿を記憶したのは、5歳の時であった。銀色のおさげは雨で濡れていたが、彼女は特に気にも留めないように小さく俯いていた。ジニーや母親以外の女の子がこの場に居るということがロンは少し照れくさくて、柱の陰からひょっこり彼女を見つめていた。大人の話しには入っちゃだめだよ、と以前ビルから云われたことがあったので、忠実にそれを守っている。彼女を連れてきた老人と、両親は真剣な面持ちで話し合っていた。
あの女の子は一体だれなんだろう――そんな疑問がふと頭をよぎり、ふるふると頭を振った。燃え盛るような赤い髪が散る。この赤い色の髪の毛は、この家では普通だった。だからこそ、銀色の髪の少女の存在は異質だった。

「ロン」

後ろからふわりと頭を撫でられ、ロンは上を見上げた。自分より幾分年が上のビルとチャーリーの目線も彼女をとらえていたが、すぐにロンへと向けられた。

「早く寝な。…明日は、忙しくなるだろうから」
「でも、」
「朝起きられないとママに怒られるぞ?」

チャーリーは言うや否やロンの髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜて、彼の小さな体を抱き上げた。たくましい兄の腕に、ロンは少しだけ照れくさそうに眼を瞑った。

「チャーリー頼んだよ。…あ、あとジニーのことも見ててあげてくれ。僕はフレッドとジョージを見てくるから」
「分かったよ。おやすみ、ビル」
「ああ、おやすみ。ロンも、良い夢見ろよ」
「うん、…おやすみなさい」

はにかんだように笑った弟へビルは優しく笑みを浮かべ、自身も軽やかに階段を上り、階段上から下を見ていたフレッドとジョージの首根っこを掴んで部屋の中へと放り投げた。何するんだよ、横暴だ!と喚く二人をぎゅうぎゅうに押し込め、にっこりと笑っておやすみを言うと、扉をがちゃんと閉める。一部始終を見ていたパーシーは顔色を真っ青に変え、いそいそと自分の部屋に入って行った。

「よし、僕の仕事は終わりだ」

いつもながら手際がいいというか、ジョージの言葉を借りるのならば横暴というか。思っていてもそんなことを口には出せないチャーリーは、ロンをベッドに寝かせると、眠るジニーの頭を撫でてやる。死んでも口には出すものか、と心に誓った。
ビルが階段から降りると、先ほどの老人が玄関先で帰り支度をしていた。ビルは老人に駆け寄り、ぺこりと頭をさげる。彼は、茶目っけたっぷりに自分にウインクをした。

「お気をつけて、ダンブルドア校長先生」
「ああ、ありがとう。…あの子を、頼んだぞ」

ダンブルドアの視線が、先ほどの少女へと向けられる。雨にぬれたせいか、ずいぶん寒そうに身体を震わせていた。今ちょうどモリーが彼女の肩へとタオルケットをのせていた。銀色のおさげが、ふるりと揺れた。ずっと俯いていた彼女の視線が、ふ、と自分を射抜く。もしかしたら自分ではなくダンブルドアだったのかもしれないが、それでもビルは彼女と目が合った気がした。血のように、真っ赤な瞳。自分の髪と同じように、燃え盛る赤い瞳。少しだけ、ぞくりと背筋が凍った。

「どうか、どうか。あの子を守ってあげてほしいのじゃ」

そういうダンブルドアの瞳は、憂えていた。思わずビルはこくりと頷く。社交辞令かもしれない。けれど、それでもダンブルドアはよかった。しわくちゃの顔を緩め、彼はありがとうと呟き、ウィーズリー家を後にした。

「明日、みんなの前で話すよ」
「パパ―」

いつからそこにいたのだろう、とビルは目を瞬かせた。アーサーは少し禿げた額を輝かせ、ビルの肩を引き寄せる。その行為だけで、本当にアーサーの言わんとすることが分かった。長男として、みんなの見本になるようにと育てられた自分だった。やがてビルは小さく頷いた。アーサーも、ありがとうと呟いた。
ビルは振り返る。そこには少女はいなかったが、もしかしたら母親に連れられてお風呂にでも行ったのかもしれない。


少女との出会いが、運命の歯車を回すとは、まだ誰も知らない。





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