ビルの後に続いたのはフレッドとジョージだった。堰を切らしたらしく、2人は息をそろえてぴったり立ち上がり、ビルを押しやって少女の前に立った。彼女はやっぱり吃驚して一歩下がる。
「僕はフレッド・ウィーズリー!こっちは相棒の、」
「自分の名前くらい自分で言えるさ!僕はジョージ・ウィーズリー!僕たちは双子なんだぜ」
「僕たちのことも兄だって思ってくれて構わないよ!なんなら」
「フレッド、ジョージ!」
金切り声のようなどなり声の主は腰に手をあてて、いかにも貫禄を出していた。フレッドとジョージはしまった、と目を合わす。
「怯えているでしょう!全くあなたたちは、どうしてそう詰め寄って話をしようとするんですか!」
「なんだよ、ママ。僕たちは、」
慌てたフレッドは取り繕うように両手を横にふって、ついでに高速で首も横に振った。隣のジョージも同様の行動をとる。妙なところでも息が合うのは、自分の半分であるからだろうか。
ふ、と少しだけ笑う声に、2人はそろって同じ顔を少女に向けた。彼女は、不安そうな中に、愛らしい笑顔を浮かべていた。何となく、それが嬉しかった。へへ、と照れたように2人は頬を掻けば、モリーもやがて優しい笑みを浮かべた。
「そういえば、名前をまだ聞いてないな…」
パーシーがぽつりと言うと、アーサーはそうだったね、と少女に視線を向けた。もちろん両親は彼女の名前を知っているが、本人から告げてもらいたかった。ジニーは自分のトーストがテーブルに零れたのも気にならないくらい乗り出して、彼女の言葉を待った。
「名前、教えてくれよ」
「そうそう。名前分かんないとなんて呼んでいいか分からないしな!」
最後に、少女の視線が、未だ呆気にとられているロンへと向けられた。2人の相反する色が混ざり、ロンは心臓が掴まれたようにドキンと大きく高鳴った。心臓に手をあて、ほとりと首をかしげるロンを見ながら、少女は解き放たれたように、ゆっくりと口を開いた。
「……クレア」
その声は、か細くて、指圧を加えればポキンと折れてしまいそうだった。ロンは思わず開けていた口を閉じて、え、と聞き返した。その声を聞き逃す少女ではなくて、彼女はウィーズリー家の面々をゆっくりと見渡して、もう一度、口を開けた。
「クレア。 クレア・ウルティア」
やっぱりどこかか細くて、頼りないような、幼い声だった。それでも胸の奥底にぽとりと落ちたものが暖かい感情であることは確かであったし、少なくとも彼等自身が『クレア』という存在を再認識した瞬間でもあった。
小さく微笑んだのはモリーで、彼女は未だ湿りぼったい自分の手で、クレアの銀の御髪を撫でた。持ち上げれば光に透かされ、キラキラと反射した。己たちとは違う綺麗で軽い銀色に、心が惹かれないわけがなかった。
「改めまして、クレア。ようこそ、ウィーズリー家へ」
アーサーが手を伸ばし、彼女の小さな手を取った。握手と言うものは理解していたし、その方法や用途は知っていた。しかし彼女は極度に緊張していたため、手汗を掻いていた。これでは相手は不快に思うだろうとクレアは余計に緊張したが、アーサーは特に気にした様子はなかった。人の良さが前面に現れるような柔らかい笑みを浮かべ、何度もクレアの手を上下に振った。最初、戸惑ったように瞳を揺らした彼女は、暖かい家族のぬくもりに支えられ、ようやく心から笑った。
「…よ、ろしく、お願いします」
そうして、ぺこりと頭をさげた。途切れた言葉ははっきりと伝わることはなかったが、それでも彼らの胸の中には暖かさとして落ちた。
さらりと肩からおさげが落ちたのを見て、ビルは小さく笑った。
「敬語はいらないよ」
ウインクをしながら言うその顔はやっぱりハンサムだった。
「僕達はこれから家族になるんだから」
「そうそう、ビルの言うとおりだよ。僕たちのことは名前で呼んでくれて構わないし、僕たちも君をクレアって呼んでもいいだろ?」
続けるようにチャーリーが言えば、クレアはこくりと小さく頷いた。それからもう一度、彼女は大きく頷いた。そのたびにひょこひょことおさげが揺れ、馬のしっぽのようだった。そして、彼女は『家族』という言葉に興奮しているようでもあった。生い立ちに何か秘密があるのかもしれないが――それは両親が話してくれるまで待てるはずだ。
「クレアはお姉ちゃんになるのね?」
そばかすの顔を赤く染めたジニーは、少し照れくさそうに、それでもはっきりと言った。ああそうだよ、とアーサーは頷く。ジニーは嬉しそうに笑った。年の割にはしっかりした女の子であるから、ジニーは椅子から降りると、クレアの腕を引っ張った。驚いたクレアに、ジニーはにっこりと笑いかける。
「私の隣に座って!ここよ、ここ!」
主人が不在である一つの椅子を引かれ、座るよう促された。ジニーの行動に驚きながら、クレアはゆっくりと椅子に座った。満面の笑みを浮かべたジニーを見て、悪い気はしない。少しだけ恥ずかしかったけれど、クレアもジニーに笑みを浮かべた。ジニーは本当に嬉しそうに笑った。
「嬉しいかい、ジニー」
「ええ、もちろんよ!今まで私1人ぼっちだったのよ?」
「やっぱり女の子が増えるといいですね」
「華やかな気持ちになるね。これはますますホグワーツに戻るのが嫌になってくるよ」
冗談混じりに呟いた言葉を洩らさず聞いていたモリーは、ビル、と窘めるように名を呼んだ。彼はさして気にしていない様子で肩をすくめ、自分の分の食器を軽く持ちあげるとキッチンまで運んだ。「先に勉強を片してくるよ。そうしたら今日はみんなで外で遊ぼう」笑顔でそう告げて、ビルは自室へと戻って行った。その後を少し遅れて「僕は――あー、うん。僕も勉強終わらせてくる。すぐしてくるから」と、釘を差すようにチャーリーが追いかけた。大方分からないところをビルに教えてもらって終わらせるつもりなのだろう。
ドタドタという足音が遠ざかっていくと、子供たちの興味はやはりクレアに向いた。フレッドとジョージに至っては事あるごとに話しかけて、パーシーに一喝されて、拗ねての動作を繰り返していた。ロンは未だ信じられないというよう、ぼけりとクレアを見つめていた。同じ人間なのかと疑うくらいに白い肌に、その肌に映える美しい銀の髪、少しだけ恐怖を誘う赤い瞳はキラキラと輝いていた。戸惑わないはずがなくて、いまいちクレアに話しかけることができなかった。
クレアは、ご飯を食べるスピードがとにかく遅かった。トーストを千切ってはちまちまと食べていたし、まだ食べ終えていないのに、たくさん食べなさいとモリーがもう一枚のトーストを上乗せしてきた。まさか初めての食卓で残すわけにはいかず、目を丸くさせた。勢いで朝食を食べ終えたころにはもうビルもチャーリーも課題をすべて終えてしまっていた。彼等は家族がテーブルの前から移動していなかったことに大層驚いたとか。