episode 5
冬首の肌か


ビルは外に出て、雪ではしゃぐ弟たちを見やって、「さあ何をしようか」と悪戯に口角をあげた。絶対に変なことを考えている、とチャーリーはジニーにマフラーを巻いてやりながら心の中でため息をついた。きゅ、と少しきつめに巻けばジニーは息苦しそうに首を動かした。ひょっこりと顔をあげてキラキラした目で自分を見つめるジニーの頭を撫でた。

「もういい?」
「ああ、いいよ。行っておいで」

フレッドとジョージのもとへ元気よく駆けてゆくジニーの背を見つめ、ふと視界の端に寒そうに佇んでいるクレアの姿が映った。弟たちに上手く交ざれないようで、柵のすぐそばで、弟たちを見ていた。かわいそうに、鼻は真っ赤に染まり、手をこすり合わせていた。ふ、と息を吐けば白いものが零れ落ちる。冬なのだから寒いのは仕方がない。チャーリーはもう一枚もったマフラーを片手に、そっとクレアに近寄った。

「みんなと遊ばないの?」

案の定、彼女は驚いたように目を丸く開け、それから背の高いチャーリーを見上げた。

「……み、てる、の」
「そっか。こうして見てると、みんなが見えるもんな」

がたり、と柵に寄り掛かって、兄弟を見てみる。フレッドとジョージにからかわれて走り回るロンと、パーシーの背後から近寄って驚かすビル、その周りをちょんちょん跳ねているジニー。いつもと変わらない彼らに、笑みさえ漏れる。

「…見てるだけでいいの?」
「………うん」
「みんないるのに、1人で?」
「……」
「…今は僕かビルが傍にいてあげられるけど、」

興味を持っているといっても、彼等はまだ幼いゆえに、己の楽しみだけにしか目が行かない。こうしてクレアが端で立っていても、彼等は気づきはしないのだ。それを仲間の中に放り込んであげるのが、己とビルの役目なのだろうが――できるならしてあげたい。しかし、自分たちにはあまり時間がなかった。

「でも、僕たちはもう少ししたらホグワーツに戻っちゃうから。いつまでも僕は隣にいてあげられない」

ぽふり、と片手に持っていたマフラーを彼女の首に優しく巻いた。急な暖かさに驚いたのか、小さく肩が跳ねた。チャーリーはたくましい手のひらで、彼女の小さくて冷たい手を包み込んで、優しく笑った。

「ほら、行こう」

大きな瞳から、戸惑いの色が生まれる。見知らぬ家庭の中に――しかもウィーズリー家は大所帯で、男子の比率が高い。そんな中に放り込まれて、戸惑わない方が無理な話であるし、恐怖心を抱かない方が無謀である。このウィーズリー家の次男として生まれたチャーリーは、お手本となるビルを模倣しながら、自分の持てる力を把握しているつもりだった。
ビルは己にとって尊敬し、敬愛すべき兄であった。チャーリーには、彼のようなユニークさがなければ、頭脳だってない。外見だって、ビルに劣る。勝るのは運動能力のみか。――ふ、とチャーリーは自分よりも遥か下から視線を感じ、首を動かした。それでもいいのだ。この小さな手を引っ張ってあげられるのは自分であるのだから、恐らくは、他には必要ないのだろう。

「クレア?」
「…こわいの」

引っ張っても、その身体が頑なに動かない。チャーリーは戸惑うようにクレアと視線が同じになるように腰をおとす。
その時、ぽつりと小さな女の子は、呟いた。まるで捨て子のような赤い瞳を上げ、戸惑うように揺れる。悲しげに寄せられた眉の理由を、まだチャーリーには分からない。ふ、とチャーリーは優しい微笑を浮かべ、彼女の艶やかな髪を撫であげた。

「楽しいのが、怖い?」
「――…うん」
「どうしてか、僕に教えてもらえる?」
「――たのしくても、おわっちゃうから」

そう言って、また悲しげに眉尻を下ろすクレアに、チャーリーは手を止める。ロンと同じ年くらいのクレアは、精々4,5歳なのだろう。その年の子供が言う台詞ではない。そうしなければならざるを得ない環境で過ごしていたかと考えると、正直、胸が痛む。チャーリーの顔色が曇ったのが分かったのか、クレアは彼の顔を覗きこむように、腰を屈ませ、――彼の瞳と視線がかち合うと、戸惑ったように首を傾げながらぎこちなく微笑んだ。――その、歳で、人を気遣うように。

「クレア」
「……?」
「大丈夫。僕らはずっと一緒にいるよ。もちろん、クレアがお嫁さんに行くまでだけど。それまでは、ずっと。僕らはもう、家族なんだから」

その瞬間、クレアの大きな瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちた。チャーリーはその一粒一粒を受け止めるように、涙を拭った。それでもあふれ出るのは涙なのだから、最終的にチャーリーは己の服の裾で涙を拭う。
2人が応酬を重ねていたちょうどその時、のっそりと二つの影が、2人に近づいた。

「「どっかーん!!」」
「うわっ!」
「……!!」
「へへ!驚いただろ!……アレ?クレア、泣いてんの?」
「え?マジ!?ビ、ビルー!!チャーリーがクレア苛めてるー!!」
「ばっ!ちがう、僕はただ!」
「へへ、」
「クレア…?」
「ふふ。おもしろいね」

それは、本当に花も恥じらうような笑顔だった。愛らしく、愛おしい。思わずチャーリーは、後ろからタックルしてくるフレッドとジョージの首にその逞しい筋肉がついた腕を回し、ぐ、と引き寄せる。「何するんだよ!」「はなせ!」バタバタと暴れる二人をしっかりと腕の中で固定させ、に、と笑った。

「仕返しだ!」
「「うわ!やめろよ、チャーリー!!」」
「なあに、楽しそう!」
「フレッド、ジョージ。もっと頑張れよ」
「全く、何をしてるんだか…」
「うわ、痛そう…」

いつの間にか、個々で遊んでいた兄弟たちが集まり、彼らを囲む。その輪の中には、勿論クレアも含まれていた。
その様子を見ていたモリーとアーサーはにっこりとお互いの顔を見て微笑む。アーサーはモリーの肩に手を回し、モリーは寄り添う。愛しい家族の世界が、ここから始まった。



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