2
「…あれ、あの子…」
「…?」
「何してるんだろう…」
真田の視線が、前方に向く。おそらくは独り言だろうが、そんなにでかい独り言をされてはこちらも気になってしまう。ちらりと、真田の目線をたどって、前を向く。
「――タケル、!」
瞬間、俺はかたんと包丁を置いて、飛び出していた。
「い、石田くん…?」
真田の名前を呼んだ声が、遠くに聞こえた。それくらいのスピードで俺は駆けた。きょろきょろとあたりを見回している小さな少年の肩を掴んで、視線を合わせようと屈む――タケル。高石タケル。名字こそ違うが、れっきとした俺の弟だ。
「タケル!何してるんだ、危ないだろ!」
明らか何かを探していて、どこかへ足を踏み出そうとする。まだ小学二年生なので、しかも親には俺が責任持つ、と言って連れ出してきたので何かあっては大変だ。
「だって暇なんだもん。ねえお兄ちゃん、ちょっとあっち行ってきてもいい?」
「あ、あぶないだろ!おまえに何か合ったら…」
「大丈夫だよ、僕も男の子だもん!」
にっこりと笑うタケルに、くらりとした眩暈が襲ってくる。
―その時だった。びゅう、と言う突風がそのキャンプ場を襲う。
「うわっ!」
「おにいちゃ、ぼ、帽子が!」
タケルは緑色の帽子を被っていた。その帽子が突風によって飛ばされそうになっている。タケルも必死に抑えているが、その小さな両手では抑えきれないのだろう。今にも飛ばされそうなのが、それを物語っている。
「うわあっ!帽子っ!」
ついに帽子はタケルの頭を離れ、飛んでしまった。風に乗って、帽子はどこかへと飛んでしまったみたいだ。とたんに、風がぴたりと吹き止んだ。
「なん、なんだったんだよ、あの風―」
「帽子、僕の帽子が…」
「…っタケル、あっちに飛んでいっただろ?探しに行くぞ!」
「え、でもお兄ちゃん…」
「いいから」
大事な弟の帽子が無くなってしまうのは心苦しい。あの帽子は、父と母が離婚するまえ、父にタケルが買って貰った少しサイズの大きい帽子だった。そのことを幼い乍らにして分かっているのだろう。
「ほら」
「…うんっ!」
途端に笑顔になったタケルの手を取って帽子が飛んでいった方向へと走った。それが、例の祠の方向だということに、まだ俺は気付いていなかった。それは、誰が決めた偶然なのか。それが、俺やタケルが、そしてあいつらがデジタルワールドに行くはずの祠に行くきっかけとなることを、俺はまだ知らない。