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side YAMATO
まだその時、俺たち皆、何も知らずにいた。
それが、誰も知らない世界への冒険の始まりになる事を。
003 可能性のはなし
真田への第一印象は、とても苦手な女の子だった。
「真田さん、これもお願いしていいー?」
猛暑の中、俺たちサマーキャンプにやってきた。今は班員で昼飯の支度に取りかかっているのだが、先ほどから女子は一人しか動いていなかった。同じクラスの真田栞――大人しくて、あまり目立たない女子。だからこういう時は恰好の的にされるのだろう。ふうとため息をついた。戸惑ったように、少しだけ泣きそうな顔をしている。危なっかしい手つきで野菜を切ろうとしているのに、見ているこっちがハラハラしてくる。
「……っ」
あれなら俺の方がうまいな、おそらく真田は包丁を使ったことがあんまりないんだろう。手がふるえてるし、…何よりとても危なっかしい。
「!…真田」
「え…っ?」
包丁の刃が真田の指めがけ振り落とされる―――前に、その腕をとる。危なかった。真田の指をマジマジと見る。…よし、切れてないな。腕を伝い、真田の顔を見れば、顔を赤く染め泣きそうな顔をしている。いそいで真田の腕を離し、彼女の手から包丁をひったくる。
「俺がやるから、お前は野菜の皮でも剥いててくれ」
「で、でも…」
「見てるとハラハラするんだよ」
「…ご、ごめんなさい」
びくりと肩を揺らし、うつむく。…やっぱり、俺は真田が苦手だと思った。
「…天気、悪いな」
「…え…?」
「さっきまで、天気よかったのに」
それでも俺が泣かしたと思われるのは嫌だし、何よりそんな顔をしていられたら、余計に気まずい。話題を変えれば、真田は顔をあげ、俺と同じように空を見上げた。
遠くで聞こえるざわざわとした声は、この空間では適応しないように、俺と真田のこの場所だけは静かだった。
真田と話したのはこれが初めてだった。特に話すことはないし。人と接することが苦手なのか、それは俺も同じだけど。こうやって一緒に作業していても、何を話すわけでもない…ただ、そこにいて、その存在だけが確かにあると言うことだけをお互いが認知している。そんな感じだ。
「…きれい、」
「え?」
俺の野菜を切るのをじっと見つめていた真田は、ぽつりと言葉を漏らした。
「ご、ごめん…」
「いや、べつに…。これくらい、普通だろ」
「ううん、すごい」
少しだけ、…そう、少しだけだけど。
初恋の女の子に、似ていると思った。