登場人物設定
真経津晨一郎:大学生で銀行の地下賭博場に現れるギャンブラー。人間ボウリングが趣味で、ストレスが溜まると人間をピンに見立ててボールを全速投球する危険人物。一人称は僕だが、本気を出すと「俺」になり、目の色がトランプそっくりな赤色に変わる。
獅子神敬斗:アメリカ人。銀髪のイケメン。昔は貧乏で、段ボール肉まんを食べていた。気分が高揚すると「Hey!」や「Come on!」と英語をしゃべり出す。


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弁護士には休みがない。顧問先がトラブルを起こすのが平日の定時だけとは限らないからだ。
急ぎ渡したい書類があると電話をすると、漆原先生はオフにも関わらず快くOKしてくれた。しかも、「ちょうど近くのファミレスにいるからそこで受け取るよ」と駅から近くて行きやすいジョイキッチンを指定してくれた。ジョイキッチンといえば、漆原先生の古くからの友人である、牙頭さんが経営している大手チェーンだ。休みの日も顔を出すあたり、漆原先生は友人想いだと思う。
そうほっこりしながら歩いて来た平和な道中。そして今目の前に広がる——脅威。

「やあナマエ。休日なのにすまないね」
「いえ、漆原先生こそ……」

ファミレスの入り口を抜けると、漆原先生がいた。席に座る滑らかなロングヘアーを見て声をかけようとした私は、目のあった彼が微笑みとともに立ち上がった瞬間に漆原先生を呼ぼうとした「う」の口のまま固まった。
いつも真面目で、大人の余裕がある、あの漆原先生が。原宿の竹下通りでも見るか見ないかの珍妙なファッション……ファッション?を身につけて手を振って来た。

私は、ミョウジナマエは今まで目立たないことをモットーに生きて来た。誰のどんな言動にどんな無難な反応をするかは心得てきたつもりだ。
でも、でも——。この、人間界に初めてやって来た天狗が頑張って集めた衣装みたいないでたちにはどう反応するのが正解なんだろう。某魔法映画のマグル界に初めてやって来た純血魔法使いでも、もうちょっと街に馴染む服を着ているぞ。

「じゃあ私はこれで失礼します」
「まあ待ちなよ。せっかく休みの中来てもらったんだ。好きなの奢るよ」

服の衝撃に思考を持って行かれていたせいで、席に座り直した漆原先生に倣うように向かいの席に着いてしまった。これでは何かを食べてからでないとここから出られない。
漆原先生は、私と同じ側の、なるべく目立たないことを選ぶ人間だと思っていた。強いて言うならカワイイものが好きなんだと思っていた。だって、趣味がお菓子作りだと言って見せてくれたお菓子の写真はどれも可愛かったから。あの可愛いお菓子を作っている人がどうしたらこんな服を選んでしまうんだ。
未だ動揺が胸の内で激しくのたうち回っている私をよそに、「新作のパフェもおいしいよ」といつもの落ち着いた声音で可愛らしいパフェを勧めてくる。
漆原先生には申し訳ないけれど、悪夢を見ている気分だ。何色も使っているからか若干目に痛いし、この服たちの向かいに座り続けていたら目眩と吐き気を催しそうだ。パフェなんかのお腹に溜まるものは食べたくないかもしれない。コーヒー1杯でサヨナラしたい。

「じゃあコーヒーで」
「気を遣わなくていい。ケーキセットなんかどうだい?」
「じゃあケーキセットで……」

どうしよう。この感じだと30分はこの席にいないといけない感じだ。女の人が虚空…いや、ナメクジ(?)に向かってキッスしてるこのTシャツにばかり目が行って先生の話が全然頭に入ってこない。私一人で今日の漆原先生と談笑するのは厳しい。誰でもいいから誰か、この状況から助けてくれないだろうか。

「おう伊月。ナマエも来てたのか」

剃り込みの入った金髪に、逞しい体躯に纏われた襟元の派手なスーツ。いつもは少しガラが悪く見えてしまうこの派手な見た目も、大人のフォーマルな装いに見えてしまう。
「牙頭さん……!」

今まででこれほど牙頭さんが輝いて見えたことはない。助っ人として頼もしすぎる人物の登場にバンザイしたい気持ちになりながら隣を譲った。

「オイ伊月!テメーまたその服着て来たのかよ」

すごい、さすが親友。最初からド真ん中に切り込んで行った。

「言ったろ。分かる人には分かるのさ」

そう言ってさらりと髪を耳にかけた漆原先生はタブレットを取り出して、大変なドヤ顔でウェブページを見せて来た。
ファッションスナップランキング。月間ランキングトップ100という見出しのついたそこに目の前よりも若干ファスナーの少ない上着を着ている漆原先生のスナップショットが角度を変えて写っている。
どんな難しい案件の勝訴を勝ち取った時よりも自信たっぷりな笑みで見せられたそれに、隣の牙頭さんがワナワナと拳を震わせた。

「だァからイロモノ枠で伸びたんだって言ってんだろーが!」
「好きに言えばいいさ」

ダメだ、漆原先生、すっかり有頂天になっている。牙頭さん、そして私の魂の叫びが届く気配はない。
……ケーキだけご馳走になって、あとは牙頭さんにおまかせしよう。
早速運ばれて来たケーキセットが目の前に並ぶのを見ながら小さく決意した。

「オイ、オメーもなんか言ってやれ!」
「ハイ!?」

突然の矛先に肩がこれでもかと跳ねた。考え得る限りで最悪のパスだ。

「えっと、何か、とは……」
「ア?この伊月のダセー服に決まってるだろうが!」

やめて、やめて牙頭さん。雇い主に「服ダサいですよ」なんて言う勇気が私にあると思っているのか。

「よく考えろよ。ここでハッキリしとかねェと、そのうち伊月は職場にも宇宙人みてーなスーツ着てくぞ」
「いや大丈夫だと思いますよ。いつも着てらっしゃるスーツ、シックで大人の男性って感じがして似合ってますもん」
「アレ選んだのは俺だ」
「ワァ……」

言われてみると、そんな気がする。光沢を抑えたマットな質感の黒スーツに、滑らかな黒いシャツ。本来であればビジネスシーンに向かないはずの黒シャツは、黒で統一されたコーデによって品格すら感じられる。この下品になりすぎないギリギリを行こうとする感じは牙頭さんのセンスだと言われると納得だ。
それはさておき。
職場に先生が今日のような服装をしてくるのはものすごく困る。事務課は間違いなく阿鼻叫喚。いや、内部で済むならまだいい。この破壊的なセンスの弁護士が出て来たら初見の人は相談せずにササっと帰るだろうし、顧問契約をしているところは契約更新を考え直してしまうんじゃないだろうか。けれどダサいとハッキリは言えない……。

「……私は、普段のスーツの方が好みですね。大人の男性って感じがして、漆原先生の魅力が出てると思いますよ」

不自然でない程度に言葉を選びながら答え、変なTシャツの絵柄から漆原先生の顔へと視線を上げる。アイスラテを飲んでいたストローから薄い唇を外した先生は、心中複雑そうな顔をした。

「伊月。服、買いに行こうぜ」
「ええっ、また!?」

……またってことは、以前もあったということか。きっとコレに見かねた牙頭さんがこうやって漆原先生を誘い出したんだろう。チンピラじみた見た目の割に面倒見のいい人だ。変に悪ぶろうとしないでそういうところを売り出していけばいいのに。2人とも頭も要領もいいはずなのに、変なところで不器用だ。

「今日はコイツがいンだろーが」
「ん!?」

コイツ、と牙頭さんのがっしりした指の先がこちらに向けられているのを見て、フォークを咥えたまま軽くむせた。親友同士で出かけるんだと思って安心してケーキを食べていたのに、巻き込まないでほしい。

「私がいてもお邪魔ですし、どうぞお二人で……」
「アン?仕方ねーな、いくらだ?」
「そうやってすぐ札束出すのやめましょうね?」

世の中お金で解決しない問題だってある。例えば、今目の前に広がる致命的なファッションセンスとか。だから、お金を懐から出そうとするのはやめてほしい。うっかり頷いたらこの漆原先生と街を練り歩く羞恥プレイが待っている。絶対に私は頷かないぞ。
お金で私が動かないことを理解したのか、牙頭さんは渋々札束をしまったあと、顔をこれでもかと近づけてきた。

「いいから来い。オメーが選んだのなら伊月だって文句言わねーで着るはずだ」
「親友の牙頭さんが言って無理ならムリですよ!」
「なら俺の服選びに付き合え」

何がどう繋がって「なら」なのか分からない。けれど、漆原先生と牙頭さん、今どっちと出かけたいかと言われたら迷わず牙頭さんだ。突然迫られた究極の2択に頷きそうになっていると、「異議あり」という声が向かいから聞こえた。

「ガっちゃん、堂々と抜けがけかい?」

カタ……と圧を感じさせる席の立ち方をした漆原先生だけど、あいにくこの格好である。威厳も凄味もあったもんじゃない。というか、立って全身で見ると改めてすごい服装だ。服だけでなく、靴下やスニーカーまでキマってらっしゃる。

「ウルセー、早く行くぞ。文句あんなら伊月も選んでもらえ」
「……お願いしてもいいかい?」

遠慮がちに小さく首を傾げる漆原先生。断れるなら断りたい。けれど、牙頭さんと服を選びに行くのは確定路線に入ってしまったようだから、ここで断ったらこの服装の漆原先生を1人で置き去りにすることに……。それはそれで、こっちがいじめているみたいで嫌だ。
……仕方ない。

「男性の服なんか分かりませんからね!」

ヤケクソで言うと、2人はやれやれとでもいうように少し笑って肩をすくめた。私がゴネたみたいになっているけど絶対違う。


この後、体格の良い2人に似合いそうな服を選ぶのは案外楽しかったけれど、お店へ行く途中でお巡りさんに職務質問された(珍妙な服の長身とガタイの良いチンピラ風に両脇を固められていたことで企画モノのAV撮影を疑われているらしかった)ので、2人には絶対に私の選んだ(無難な)服を着るようにお願いした。ちょっと本気で怒っているのに2人はどこか嬉しそうに頷いていた。



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