登場人物設定
真経津晨一郎:大学生で銀行の地下賭博場に現れるギャンブラー。人間ボウリングが趣味で、ストレスが溜まると人間をピンに見立ててボールを全速投球する危険人物。一人称は僕だが、本気を出すと「俺」になり、目の色がトランプそっくりな赤色に変わる。
獅子神敬斗:アメリカ人。銀髪のイケメン。昔は貧乏で、段ボール肉まんを食べていた。気分が高揚すると「Hey!」や「Come on!」と英語をしゃべり出す。


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登場人物設定
獅子神敬斗:アメリカ人。銀髪のイケメン。昔は貧乏で、段ボール肉まんを食べていた。気分が高揚すると「Hey!」や「Come on!」と英語をしゃべり出す。
漆原:弁護士ギャンブラー。ヤクザの牙頭の顧問弁護士兼代打ち。バトル鉛筆が得意。
牙頭:飲食店経営者。飲食店経営は表の仕事で本業はヤクザ。趣味は晨一郎と同じく人間ボウリング。


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幼馴染のけいちゃんとの再会に、謎の大学生・真経津くんとの出会い。久しぶりに取った有給ではいろいろなことがありすぎて、出来上がったコーヒーの香りに思わずほっと息が漏れた。まさかこんな風に、職場で家に帰ってきたような安心感を感じる日が来るなんて。

「お疲れ」
「わっ、漆原先生!コーヒーくらい持っていきますよ」
「まあそう言わずに。ちょうど机から離れたい気分なんだ」
突如現れた事務所のトップに肩を跳ね上げる私の手から、先生がコーヒーポットをするりと取って自分のマグカップへとついでいく。休憩、とおどけたように肩をすくめる漆原先生に、こちらもつられてクスリと笑みが漏れた。
「そうだ!先生も良かったら召し上がってください」
「ああ、そういえば有給だったか。しっかり休めたかい?」
「ハハ……」
むしろ疲れた気がします、とは言えずに乾いた笑いを返すと、察し顔になった先生は「おいしそうだね」とさり気なくお菓子の方に話題を変えてくれた。大人だ。全部自分のペースな真経津くんや彼のお友達は漆原先生を見習ってほしい。
「ところで急で悪いんだけど、今日の夜お茶出しお願いできるかな?」
「今日の夜……」
夜にやってくるのは漆原先生を顧問弁護士につけている誰かだ。急な予定となるとさらに絞られる。当日やって来て話すことがあるような急ぎの依頼は大抵面倒だけれど、来客予定を仄めかす先生の機嫌はほんの少し良い。
これは十中八九、「彼」が来るのだろう。
「分かりました。用意しておきます」
来客が誰なのかあたりをつけながら返事をすると、先生は「そう言ってくれると思ったよ」と薄く微笑んで給湯室を去っていった。さすが弁護士、交渉上手だ。雑談から仕事を1個増やされたのに、嫌ではない。
だって私は「彼」のことが好きだ。何故なら――。


有給中の仕事もしていると時間はあっという間に過ぎ去り、来客はすぐに来た。受付で待つことなく、自分の家のようにフロアを突っ切ってきた彼はどっかりと来客用ソファーを陣取っていた。
「よォ。オメーまだ雑用なんかやってんのか」
「はい、牙頭様」
やっぱり突然の来客はこの人だったか、と返事をしながらローテーブルにお茶を置く。
「あン?こんな洒落たもん食わねえぞ」
「すみません、たまには洋菓子もいいかと……。一口だけでもどうですか?白みそフィナンシェ」
牙頭さんは和菓子が好きだ。もっと正確には、どうやら味噌が好きなようだ。味噌せんべい、味噌まんじゅうをこの人の前に出すとイリュージョンのようにたちまち消える。だからこれもたぶん好きだろう。
お茶も並べ終わったので退出しようと一礼すると、「おい」と背中へ声がかかった。
「はい?」
何か不備でもあったかと自分の行動を振り返る。社長相手にしゃべり過ぎたのが良くなかったかと構えてはみたが、牙頭さんは「あー」と言い出しにくそうな声を出した。まさかスカートがストッキングにはさまってパンツが見えているとか、そういうことかとこっそりお尻に手をやって確認したが、ちゃんとスカートは履けている。この人がこんなに言いよどむって何の話だろう。
「この前言ったこと、考えたかよ」
「この前……?」
この前。……何か、あっただろうか。考えて返事をするようなやり取りがあった記憶はない。お茶を出して世間話をしていたら漆原先生がやって来て、夜遅いからと先生に勧められてそのまま退社した。
うん、ないな。心当たりがさっぱりない。
「どなたか別の方と間違っては……?」
「あ?オメーに言ったろうが。俺のトコで秘書やんねェかってな」
言ってただろうか。そういえば聞いた気がするような……?
「てっきり社交辞令かと」
「バカ言え。ンなこと軽はずみに言わねえよ」
……この人、見た目に反してかなりまじめなんだよなあ。牙頭さんは訴訟を何件も起こされるくらいには嫌われまくっているし、チンピラじみた見た目でこの事務所の職員からも遠巻きにされているが、私は牙頭さんの根がまじめなところが好きだ。
「個人的には牙頭様のことが好きですが、この職場が気に入ってるので」
「チッ。いくら欲しいんだ」
あ、牙頭さんそういうところだぞ。胸ポケットからおもむろに裸の札束を出すんじゃない。まるっきり悪役金持ちの仕草じゃないか。
「まず一本でどうだ?言い値になるまで積んでやる」
「ストップ。スタッフの引き抜きは勘弁してくれ、ガッちゃん」
「よォ伊月。遅かったじゃねェか」
ぐいと抱き寄せるように掴まれた肩への力に振り向くと、漆原先生が牙頭さんを威嚇するように睨みつけていた。ベロンと札束を出したままの牙頭さんは、悪びれもせずにガラの悪い笑顔を漆原先生に向けている。
「困るよガっちゃん。彼女は結婚式で昨日休みを取ったばっかりなんだ」
「結…婚……?」
不意打ちを食らいましたとばかりに牙頭さんが停止した。
どういう反応だ。私にだって結婚式へ呼んでくれるくらいの知り合いの一人や二人はいるのに。そんなにびっくりされるくらいぼっちな子だと思われていたんだろうか。
「私だって式に呼んでくれる友達くらいいますよ」
「あ?友達?」
一瞬キョトンと目が点になった牙頭さんが、どういうことかと漆原先生へ視線を送った。
「別に彼女自身が結婚したなんて言ってないよ」
「バッ……!伊月、テメェ……」
騙され、からかわれたことがそんなに恥ずかしかったのか、牙頭さんがボンッと火がついたように真っ赤になりながら先生にくってかかっている。
ああ、やっぱり牙頭さんが好きだ。いつも変に悪ぶっているけれど、根が真面目で、自分のやりたいことに一生懸命で。
そんなところが、
「けいちゃん……」
けいちゃんに似ている。牙頭さんは悪人顔と豪胆さのせいでチンピラのように見えてしまうが、根は真面目で意外と慎重だ。男子らしく悪ぶろうとしてはあまりうまくいっていなかった小さい頃の優しいけいちゃんがなつかしい。
「ハ?誰だそいつは?」
「誰だい?知らない名前だな」
小さく呟いただけなのに、2人がずいっと詰め寄ってくる。怖い。仏頂面の牙頭さんはもともとの悪人顔のせいでヤクザ顔負けの怖さだし、漆原先生にいたっては負けの目しか見えない面倒な訴訟を持ってきたクライアントに事実確認する時と同じシビアな目つきになっている。
「えっと、敬一くんっていう小さい頃の幼馴染で、牙頭さんと少し性格が似てるんです」
ガッチリと筋肉質なところも似ているかもしれない。胸筋のラインが浮き出ている牙頭さんのインナーを見ていたら、昨日けいちゃんに抱き抱えられたときのことが頭に浮かんでドキドキしてきた。
思い出さないようにしようとすると抱える腕の熱なんかをかえって思い出したりしてしまって顔が火照る。様子をおかしく思ったのか、先生と牙頭さんはアイコンタクトで会話するように無言で目を合わせていた。
「つまりナマエ、君はガッちゃんじゃなくて——」
「待て伊月」
「……そうだね。ナマエ、お茶ありがとう。遅くなるから帰っていいよ」
「ではお言葉に甘えて。牙頭様も、お先に失礼します」
「牙頭でいい」
「はい?」
「様はやめろ」
……ダメでは?牙頭さんは漆原先生の友人であり、この事務所にとっての大口顧客だ。一般職員の私は様付けで呼ぶべきだろう。助けを求めるように漆原先生へ目をやると、微笑みを返された。
「いいと思うよ。本人がいいって言ってるんだから」
「呼ぶまで帰れねェかんな」
新手のパワハラか。なんだか妙なタッグを組まれてしまった気がする。
「何なら苗字じゃなくて名前で呼んでみなよ」
「おい伊月、やめろ。俺の下の名前なんて分かるかよ」
「たけはる」
あ、つい。名前なんか分かるわけないと、一瞬だけれどさみしそうな顔をした牙頭さんに、つい呼び捨てで呼んでしまった。息を飲んだ牙頭さんが、無言で凝視している。
「すみません呼び捨てで。猛晴さん、ですよね。豪快でイメージぴったりの名前だったからちゃんと覚えてますよ。格好いい名前ですよね」
竜や虎の似合いそうな名前は、強く突き進んでいく牙頭さんにピッタリだと思う。字面を見ただけでするりと頭に入る名前だった。
「僕は?」
「はい?」
「僕の名前も呼んでみてよ」
「伊月先生」
何なんだ、いきなり。流石に自分の雇い主のフルネームくらい覚えているのに、一体何の確認なんだ。
「うん、いいね。明日からそれで行こう」
「えっ」
「じゃ、お疲れ様」
「あ、はい。お先に失礼します」
2人へ礼をして、応接室の扉を閉めて自分のデスクを目指す。
本当に、一体何だったんだろう。そして最後、地味に大変なことが決められた気がする。確かに、漆原というちょっと長い苗字よりも伊月の方が呼びやすい。けれど、私の知る限り漆原先生を名前の方で呼んでいる人間はいない。
私は今までと同じく、目立たずに生きていきたいのだ。自分だけが他と違う呼び方をして目立つようなことはしたくない。
……聞かなかったことにして、明日はいつも通り漆原先生と呼ぼう。


牙頭の向かいのソファへと腰を下ろした漆原は、目の前の旧友を面白そうに眺めた。時折アグレッシブすぎる揉め事の相談を持ち込んでくるこの友人は、恋愛面ではものすごく純情だ。
「ガッちゃん、顔真っ赤だよ。名前呼び、そんなに良かった?」
「うるせえよ。テメェだって名前呼びの約束してたろーが」
むすっと口を尖らせ、赤みのひかない顔を隠そうとする牙頭の姿につい微笑ましくなるが、先ほど取り付けた約束の先を思い描いた漆原は少し温くなった茶へと視線を落とした。
「ああ。でも無価値な約束だよ。彼女はきっと明日も僕を漆原先生と呼ぶさ」
確信を持って放たれた「無価値」という言葉に、牙頭の目元がピクリと動いた。
「ならナマエは俺が貰う。後から文句言うなよ、伊月」
「そのつもりだったんだけどなあ……」
人生はくじ引きだ。何をしても無価値ならせめて、親友や好きな人にはなるべく当たりくじを引いて欲しい。そう思うから、友人が来る度にソワソワするナマエの様子や、恋愛に不得手な親友が不器用にナマエを口説く姿を見て、無価値な自分の気持ちには蓋をしてきたのに。
「『けいちゃん』に取られるなら話は別だよ」
もしもナマエの気持ちがガッちゃんではなく「けいちゃん」に向いているなら、「けいちゃん」とやらにみすみすナマエをくれてやる理由はない。その時は何十通り、何百通りも手段を講じなければと考えながら、目の前の鉛筆を軽く転がす。コロコロとローテーブルの上を転がった鉛筆は、当たりのニコニコマークが上を向いていた。



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