やぶさかデイズ

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D+S / mp100 / Minor
BIZARRE DREAM
弾丸論破サーチ

オンリーロンリースウィーティー(1/2)

「俺と付き合っても、つまらないっすよ」

 放課後、教室、夕暮れ、二人きり。
 告白にはぴったりな空間で、机に軽く腰かける彼。それと向かい合って立ちすくむ私。
 言葉の意味がわからなかった。これは振られたんだろうか。告白してきた女の子みんなにそう言ってるんだろうか。そうだとしたらタチが悪い。天海くんの言う台詞は曖昧で、こんな振られ方をされた女の子は、彼に焦がれる気持ちを諦める気には到底なれないだろう。
 現に、私がそうだ。「つまらなくなんかない、だってあなたが好きだから。」 そんなフレーズが頭の中で跳ね回って、言おうか言うまいか迷う。
 きっと、他の女の子と同じ台詞だ。そんな月並みな言葉を、引く手数多な彼に言って心を動かすことができるんだろうか。

「それでもいいんすか?」

 返事を出来ないでいる私を見かねたのか、念押しするように訊ねてくる。
 なんて返せば特別になれるんだろう。そんな打算をしてみても、答えは出ない。当然だ、それがわかっていたら私から告白する必要なんてきっとなくて、今頃は二人きりの教室を甘い雰囲気で満喫できているはずなんだから。
 結局、恋愛初級の私には私の心の内を正直に明かすという選択肢しか与えられなかった。

「少なくとも、ただのクラスメイトとして接してるだけでも、私はすっごく楽しいよ」

 彼の澄んだ目が私を映している。表情からは感情は読み取れなくて、ただ続きを待ってくれている。

「けど、好きになっちゃったから……ただのクラスメイトだと、辛く感じるようになっちゃったから」

 勝手な言い分だ。勝手に好きになって、勝手に辛くなって、一方的に好意を伝えて。申し訳なさと情けなさで鼻がツン、と痛んだけれど、それじゃあますます天海くんに失礼だ。まぶたを強く閉じてから、天海くんに向き直る。

「だから、クラスメイトとしてじゃない天海くんのこと、知りたいし、もっと好きになりたい」

 言いたいことは言えた、と口をぐっと閉じて彼を見ると、先程よりも少し表情が柔らかくなっていた。そうであってほしい、と希望を込めて私が思い込んでいるだけかもしれないけど。
 さあ、どうなる、私の恋心。
 判決を待つ被告人よろしく、彼の口が開くのを待った。

「わかりました」

 ただ一言、私の好きなその声で、下された。
 それ以上語る気配もなく、混乱だけが私の頭に渦巻く。わかった?何を? それは告白に対する「了承」ではなくて、私の想いに対する「理解」という事では?この二つは似ているようで全く違う、私の求めている帰結とは全然かけ離れていた。

「わ、わかったんですか」
「はい」

 オウム返ししか出来ない私に、天海くんはいつもの人好きのする笑顔を向ける。

「ぐ……具体的に、私たちはどうなりますか。その……クラスメイト以上の……関係というか……」

 動揺しすぎて敬語になってしまう。それは、先程の告白で使ったような言葉をもう一度改めて聞き直さなければいけない羞恥心から来ているのかもしれない。率直に言えば、「恋人になってください」というただそれだけなのだけど、どうにも恥ずかしい。

「そうっすね。付き合いましょうか」

 事も無げに告げられる最終判決。この言葉が聞きたくて今日ここに意中の彼を呼び出したというのに、出てくる返事は、え、なんて間抜けで意味の無い音だけ。
 天海くんが「連絡先、知らなかったっすよね」と言いながら携帯を取り出すのを、私の意識は遠くの方で見ていた。





 かっこよすぎて自慢する気にもならない恋人が出来た翌日、私はやっと正気を取り戻した。
 正直「付き合いましょうか」と言ってもらった辺りから記憶があやふやで、どうやって帰路に着いたのかさえ定かでないのだけれど、連絡先に天海蘭太郎の文字が追加されているのを見るに、昨日の出来事は現実らしい。今日からはクラスメイトではなくて、天海くんは彼氏で、私は彼女なんだ。そう思うと足取りも軽く、人生で一番学校が楽しみな朝だった。

 だった、のだが。
 私の彼氏になってくれた人は、教室にいなかった。
 急いで携帯を取り出し、初めて画面に浮かんだ天海蘭太郎の名前を押す。指をもつれさせながら、メッセージを送る。「天海くん今どこにいるの!?」 少しして返ってきた答えは「空港っす。今回は南アフリカにいくんで、お土産楽しみにしといてください」だ。
 ふーん、そっか、お土産があるなら楽しみだなあ。

「そうじゃない!!」
「な、なんじゃ!?ウチがなんかしたか!?」

 机に携帯を叩きつけたところをちょうど通りかかった夢野さん。彼女は何も悪くないのに、恨みがましい視線を送ってしまう。

 そこで私は理解するのだ。
 「俺と付き合ってもつまらない」という言葉の意味を。

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2016- やぶさかデイズ