やぶさかデイズ

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BIZARRE DREAM
弾丸論破サーチ

08.4月18日

 今朝は、悠と登校することにした。テレビの中についていけないとはいえ、やはり関わってしまったからには気にしないなんて無理な話だ。昨日の探索だけでは雪子さんを助け出すに至らなかった、とは悠から聞いたけれど、花村さんからも話を聞きたい。朝のHR前の短い時間だけだが、二年の教室について行こうと思ったのだった。

「二人ともー! おはよっ」

 校舎が見えてきた頃、馴染みのある声が背後からかけられた。

「千枝さん。おはようございます」
「体調は大丈夫なのか」

 挨拶より先に千枝さんを気遣う悠。私は違和感を覚えたけれど、当の千枝さんは不思議には思わなかったらしく「ヘーキヘーキ」と手を振った。

「千枝さん、風邪か何かだったんですか?」
「あー、ううん。昨日さ、例のテレビの中に入ったから⋯⋯ちょっと疲れたけど、もう大丈夫!」
「⋯⋯え、あれ、千枝さんも行ったんですか? 昨日」
「うん。雪子が危ないってのに、ほっとけないもん」

 なるほど。
 千枝さんと雪子さんは親友だ。じっとしていられないのも無理はない。それはわかる。わかるけど。
 私には来るなと言っておいて可愛い同級生の事は連れて行くんだ〜、という視線を悠に送ってしまうのも、それはそれで無理もないことだと思う。
 横にいる兄はそれを察してか、思い切り目を逸らしている。

「けど、私にも戦う力が出来たから。絶対、雪子のこと助ける!」

 頑張ろう!と私にも笑いかける千枝さんに、曖昧な笑みしか返せなかった。頑張りたくても、私にはその「戦う力」がない。今の口ぶりだと千枝さんにも自分のペルソナが宿ったということだろう。
 いよいよ、私の出る幕じゃない。
 校舎に入って、二人に向き直る。

「二人とも、あと花村さんも。頑張ってください。それじゃ」
「こっちの教室寄るんじゃないのか?」
「ううん、やっぱいいや」

 悠は何か言いたそうにしていたけれど、気づかないふりをして自分のクラスに向かった。




 席について、鞄を抱える。

「はあ〜」

 我ながら幼稚すぎて嫌になる。私は、拗ねているだけだ。悠達がやっていることは遊びじゃないというのに、どうしても、「同じ秘密を共有した仲間なのに」なんて考えてしまう。
 クラスにまだ特別仲の良い友達ができていないのも原因の一つかもしれない。以前悠に友達がいるかどうか聞かれた時は肯定したけれど、やはり、あの非日常を一緒に体験したみんなと比べてしまうと⋯⋯まだそこまで深い仲とは言えない。友達を比べるものではないけど⋯⋯花村さんや千枝さんと一緒にいさせて欲しいのが本音だ。

「オイ⋯⋯オイ!」

 突然頭の上に降って来た声にびくりと体が揺れる。見上げると、隣の席の彼、巽くんがなかなか恐ろしい形相で私を見下ろしていた。

「は、ハイ!」

 その迫力に思わず立ち上がり背筋を伸ばす。なんの用だろう、と巽くんの様子をうかがっていると、大きな拳が眼前に迫った。殴られるような勢いではなかったのに、ついたじろぐ。
 ん、と更に突き出される拳。その仕草でやっと、何かを差し出されていることに気づき、巽くんの拳の下に自分の両手を皿のように広げる。
 ぽてっ、と軽く落ちて来たのは、先週ひったくりのように我が手を離れていったクマのぬいぐるみがついたキーホルダーだった。まじまじと見てみると、外れかかっていたはずの紐部分がしっかりとクマの頭にくっついていた。むしろ新品の頃より頑丈そうに見える。

「⋯⋯あ、」

 ありがとう。
 そう言うはずだったのに、出て来たのは言葉にならない嗚咽だった。

「!? お、おい⋯⋯」
「え、何アレ⋯⋯やばいんじゃないの」

 教室がざわつくのが聞こえる。
 だめだ、泣き止まないと、巽くんが誤解されてしまう。そう思って涙を拭うけれど、一度溢れてしまうと自分の意思ではなかなか止まらない。
 他のクラスメイトが心配してくれたのか近づいて来る気配がすると、巽くんは私から離れて教室を出て行ってしまった。

「鳴上さん、大丈夫? 巽になんかされたんじゃ⋯⋯」
「ち、違うの!」

 なんとか否定の言葉だけ絞り出し、キーホルダーを握りしめて、巽くんの後を追った。




 必死に階段を駆け上ると、屋上に広い背中がぽつんと佇んでいた。上がった息を整えて、声をかける。
 
「巽くん」
「おわっ⋯⋯な、なんでついてくんだよ」「ごめんね、急に泣いたりして⋯⋯意味わかんなかったよね」

 深く頭を下げ、もう一度謝罪する。返事は無い。
 握りしめたままだったキーホルダーが目に入り、ただ謝罪するだけではダメだと姿勢を直した。
 
「あの、ぬいぐるみありがとう。直してくれた⋯⋯んだよね」

 巽くんはやはり黙ったまま、背を向けて座り込んでいる。
 
「⋯⋯これさ、前の学校の友達がくれたんだ」

 反応がないのに話し続けるのはひょっとしたら迷惑かもしれない。そう思いつつも、目の前の不良然とした彼の意外な親切に報いたくて、言葉を続ける。
  
「私まだ転校してからクラスの人に馴染めてなくて⋯⋯一個上にお兄ちゃんがいてさ、その友達とは仲良くなれたと思うんだけど、なんていうか⋯⋯その人達がやらなくちゃいけないこと?に、私はスキルがないっていうか、全然役に立てなくて⋯⋯一緒に居づらくなっちゃって。⋯⋯はは、ちょうど友人関係で悩んでたから、このぬいぐるみ見たらなんか寂しくなっちゃって。」

 だから、直してくれて本当に嬉しかった。
 聞かれてもいないことをペラペラと、と自分でもどうかと思うが、半分心の整理も兼ねて語ってしまった。
 微動だにしない背中は、それでも話を聞いていてくれた気がして、返事を待ってしまう。
 
「⋯⋯そんなんいらねーだろ」
「え?」
「役に立つとか、ダチに求める奴いねーだろ」

 本当に返事をしてくれた、という驚きで、一瞬言葉の意味が理解できず、ぽかん、と口が開く。
 落ち着いて彼の言う事を咀嚼して、理解して、これ以上ないほど優しさを持って言葉をかけてくれている、と気づいて胸が熱くなる。息が詰まって何も言えないでいると、やっと振り向いた彼が「なんか言えや!」と真っ赤な顔で叫んだ。

「⋯⋯そうだよね」

 求められてもいない力がないからって、私が勝手に不貞腐れてただけだ。
 直接テレビの中に行けなくたって、何かしらできることはあるかもしれないし。ペルソナの力は私にはないけれど、悠や千枝さんたちといたいし、雪子さんのことを助けたい。友達だから。
 何も知らないからこその彼の言葉で、頭の中の霧がすっきりと晴れた気持ちになる。
 途端、下の方からの喧騒が耳に入る。グラウンドからだ。
 
「ごめん、もう授業始まっちゃってるよね⋯⋯」
 
 冷静になってみると、ここに来るまでで始業のチャイムを聞いた気がする。それどころではなくて無視してしまったけれど、これはひょっとしなくてもサボりだ。

「⋯⋯別に、元から真面目に出てねーし」
「私は初めてだなあ、サボり」
「⋯⋯落ち着くまで出なくても良いだろ」

 ちらり、と視線を感じて巽くんに視線を返すが、目が合うことなく逸らされる。そして、あ、と気がつく。

「目、腫れてる?」

 予想はしていたが返事はない。自分の手でまぶたに触れてみると、かすかに熱を感じる。きっと赤くなっている。泣くんじゃなかったな、と思いながらしゃがみこんで、腫れが引くまではいいか、と目の前の背中に倣って授業を諦めることにした。

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