やぶさかデイズ

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D+S / mp100 / Minor
BIZARRE DREAM
弾丸論破サーチ

07.4月17日

 朝、平日に起きるのと同じ時間に起きると、悠もほぼ同時に部屋から出てきた。連れ立って一階に降りると、菜々子ちゃんが居間で一人テレビを眺めていた。朝の挨拶として声をかけると、表情をほとんど変えずに返してくれる。

「お父さんは?」
「もう出た。かえり、おそいって。」

 日曜もこんな朝早くから仕事なのか。職業柄、暦通りの出勤ではないのは普通なのだろうけれど、菜々子ちゃんはこれから夜まで一人で過ごすのかと思うと、出かけるのがはばかられた。
 しかし、菜々子ちゃんは私たちの様子を見て察したらしく、「出かけるの?」と問うてきた。二人して出かける準備万端といった装いで現れてしまったので、当然と言えば当然だ。
 
「るすばん、できるから。」
 
 私たちが返事するよりも早く、制するように言う。しっかりした子だ。しっかりしすぎている。天気予報を見て「せんたくもの、ほそうっと」と立ち上がる姿はもはや主婦のそれだ。
 
「……悠、頼んだ。何かあったら連絡して」
「ああ。そっちこそ、頼む」

 主語を言わずとも理解してくれたらしい。悠は「行ってきます」と言い残し、一人家を出た。

「……いかないの?」
「うん。一緒に洗濯物、干そっか。」

 腕まくりして笑いかけると、菜々子ちゃんの目が少し大きく見開かれた。
 
 
 
 
 午前のうちに早々に家事が終わり、菜々子ちゃんの学校で流行っているという折り紙で遊んでいた。
 
「これね、はなちゃんがおしえてくれた」
「へえ〜。私も真似していい?」
「いいよ!」
 
 手元の折り紙はまだ半分に折られたばかりでこれから何が出来上がるのかもわからないが、菜々子ちゃんの動きに倣って折っていく。菜々子ちゃんはかなり丁寧に紙を重ね合わせるタイプらしく、真剣な表情で角を揃えている。その可愛らしい様子にそっと笑いながら、携帯を横目で盗み見る。二時間ほど前にメールを送ったが、未だ悠からの返事はない。元々、彼はマメにメールを返すタイプではないが……この状況では不安になる。どうしたものか、と思案していると、点けっぱなしにしていたテレビからお昼の番組が始まる音楽が流れてきた。もうそんな時間か。
 
「菜々子ちゃん、おなか空かない?」
「あ……すいた」
「普段はお昼どうしてるの?」
「おそうざいかってくるの。菜々子、まだむずかしいりょうりできないから」
 
 なるほど、と言いながら冷蔵庫を覗く。あまり自炊しないわりに食材は買ってあるようだ。
 
「よし、じゃあ今日は名前さんが作りましょう!」

 
 
 
 
 親子丼と、ほうれん草のお味噌汁。少し火を入れすぎてしまってふわとろ卵とはいかなかったが、菜々子ちゃんは大喜びで平らげてくれた。ありがとう麺つゆ。和食にはとりあえず麺つゆを入れておけば味が安定する、気がする。皿を二人で洗っていると、玄関から物音がした。

「悠! もう、メールしたのに」
「ごめん。補導されてた」
「はっ?」
 
 
  
 親子丼の残りを食べながら悠が言うには、花村さんがジュネスで刃物を振り回していたところを見つかり、警察署に行っていたらしい。まあ、刃物の所持に関してはテレビの中に行くための準備だろうから、理解はできるけれど……何も振り回すことはないのに、と呆れてしまう気持ちはある。「大丈夫、補導歴はついてない」と誇らしげに言う兄に、もはや何も言えなかった。
 食べ終わったらしい悠は、チラリと外で洗濯物を取り込む菜々子ちゃんを見てから真面目な顔を作る。

「雪子が、どこにもいないらしい」
「! じゃあ、もう中に……?」
「かもしれない。それだけじゃなく、警察に疑われてるみたいだ」
 
 疑われてる、とはつまり、雪子さんが二件の殺人事件の容疑者ということか。そんな馬鹿な、と口をついて出るが、悠は「雪子の母親が、山野アナに相当ひどい罵倒をされて寝込んでしまったそうだ」と続けた。母に酷い仕打ちをした客への腹いせで、というのが警察の考える動機というわけか。だからって、ただの女子高生が死体を屋根の上のアンテナだの電柱だのに引っ掛けられるはずがないだろう。ますます馬鹿馬鹿しい。むしろ雪子さんは今、第三の被害者になる瀬戸際だというのに。
 
「……どうする気?」
「もちろん、助けに行く。けど、」

 悠は少し言い淀んでから、それでも口を開く。

「名前は、こっちに残ってほしい」

 なんとなく、予想はしていた。理由は聞くまでもない。ペルソナを持っていない私では役立たず、いやむしろ邪魔なくらいだろう。花村さんのシャドウのように強い意思のある敵が人質を取らないとも限らない。

「……わがまま言うとこじゃないよね。」
「……すまない」
「いいよ、メール返ってこないからもう行っちゃったんだとすら思ってたし。」
 
 本音では、一緒に行きたいと思ってしまっている。摩訶不思議な、他の人に話せない秘密を共有する仲間なつもりでいたから。人の命が懸かっているというのに我ながら呑気な話だ。悠たちがこれから成そうとしているのは人命救助。訳もわからず飛び込めた前回とは違う。

「死なないでね。甥っこまで変死体で発見とか、遼太郎さん過労死しちゃうよ」
「確かにな。無理はしない」

 悠が立ち上がったところで、菜々子ちゃんが居間に戻ってきた。行ってきます、とまた家を出る悠を見送り、二人でソファに腰掛ける。
 
「……行かないの?」

 今朝も聞いたような質問を投げかけられる。

「行かないよ〜」
「でも、さみしそうだよ?」

 言葉に詰まる。顔に出てしまっていたのだろうか。菜々子ちゃんにまで心配をかけるとは情けない。
 けどまあ、この聡い子に変に誤魔化す必要もないか、と白状してしまうことにした。
 
「……うん。仲間外れは、寂しいね」

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