やぶさかデイズ

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D+S / mp100 / Minor
BIZARRE DREAM
弾丸論破サーチ

ストレリチア

雨が降り出しそうな初夏のある日、私は年下の幼馴染の部屋にいた。
別段、意味はない。あえて言うなら、顔を見に来ただけだ。
放っておいてはいけない危うさのある男。それが音石明だ。もっとも、むかし一緒に遊んでいたころは普通のかわいらしい男の子だったし、趣味だって音楽には違いないが好きな子供向けアニメを一緒に歌ったりした。それがどうしてこうなったのか。

「明、短期間で物増えすぎじゃない…?」

前回の訪問までは私の知らない海外バンドのポスターを一枚貼って床に雑誌が落ちているような、これまた普通の男の子の部屋だったのに。いまや彼の部屋には所狭しと名も知らぬ奇抜なエレキギターや彼自身興味のなさそうな高価に見えるもの、明が店の前を通るたびにほしいほしい唸っていたジャケットなんかが溢れているじゃないか。散らかっているというより、物の絶対数が多すぎて整理してもしきれない状態のようだ。

「ンン? 臨時収入だよ、リンジシューニュー」

私に答えたあと、明は機嫌よく笑う。ヒャハッなんて昔の彼からは想像できないような下品な声で。

何かが変わってしまった。
そう直観的に感じる。というか、客観的に他人が今の彼を見てもおかしい奴だと思うだろう。

臨時収入、なんて彼は言うけれど、おかしな話だ。「親御さん?」とダメ元で聞いてみると予想通り強く否定された。彼と彼の親は仲が悪い。近頃は学校にも通わなくなったらしいし、そんなときにお小遣いなんて渡すわけもない。
けれどそれ以外に収入なんてあるわけがない。だって働いてない。

「お前にも小遣いやろうかァ〜?」

親御さんの話で虫の居所が悪くなったかと思えばすぐに上機嫌な声でそう言う。あいにく明から施しをもらうほどお金には困っちゃいない。断りの言葉を口にするのも面倒な話だ。
それよりも、聞きたくない、けれど聞かなくてはいけないことがある。

「……人の道外れたことしてないよね?」
「…………」

信じたいからこそ聞いたの、わかって、と頭の中で言い訳する。それなのに彼は口緩めたまま真顔になり黙ってしまう。
信じるよ、信じる。だから答えて。お互い視線を合わせたままだけれど、緊張しているのは私だけなのだろう。冷や汗が出そうになるのを感じる。

「なあ」
「……なに」

明は私の質問に答えない。心の曇りは晴れないままなのに緊張が緩む。

「ヤラせろよ」
「……………………は?」
「金払うぜ」

あまりに想定外な話題をふっかけられたせいで素っ頓狂な声が出た。軽薄な表情を見つめても真意は読み取れない。
けれど口で言うだけで近づいても来ない明を見て、やっぱり私の知ってる明だ、大それたことなんてできない、と安心する自分がいる。そう、床にあるものは断じて盗品なんかじゃないんだ。そうでしょう。
だからいつも通りリラックスして、接すればいいんだ。

「いや……ゲスすぎだし、何より普通にイヤ」
「あ゛ぁっ!?」

今のうちにヤッとかねーと損するぜだの大スターになるだの、大口を叩くのはいつ通りだ。

「お金の出所わかんなすぎだし、そもそもお金出すとかありえない!」
「なんだよ、襲ってほしいならそう言えよ」
「違うから。私そういうの無理。恋人同士でするもんなのよ普通は」

金絡まなきゃいいってことじゃないから!軽く返したけれど、明はまた急に黙ってしまう。なにがそうさせたのかわからず、私はまた困ってしまう。

「どうしたの?」
「アンタ、高校んとき男いたよな」
「彼氏ね」
「そいつとはしたってことかよ」

今度は私が黙ってしまう番だった。今日の明は意図のわからないことばかり言う。
私がこういった手合いの話を好まないのは知っているはずだし、私もいつもならはぐらかしていたのだけれど、こんな時に限って音石は口角を下げて睨んでくる。威圧されている。

「……関係ないでしょ」

この一言が音石の癇に障ったらしい、と気づいたのは、彼が近くにあった(これまた高そうな)置き時計を私の背後に投げつけた音を聞いたときだった。

いや…………
いやいやいや。

「明は散々遊んでるじゃん……」
「アンタは本気だったんだろ」
「……そりゃまあ、付き合うからには真面目に付き合ったよ……ッ!?」

私が言い終わる瞬間、何かに左腕をつかまれる感覚があった。反射的に振り向くけれど、物だらけの景色に壊れた置時計が加わっているだけだった。
もう一度、明に向き直り見た彼の表情で、これをやっているのは明だ、と確信した。憎々しげな、悲しい表情だ。何が起こっているのかわからない。腕を掴む『それ』の力はどんどん強くなる。今度こそ冷や汗が額と背中か流れるのを感じる。

「……あき、ら」

明が歩み寄る。せまい部屋がさらにせまく感じる。たった数歩で眼前まで来てしまった。
視界の端で明の手が上がるのが見えるのに、明の目を見つめるのをやめられない。
やがてその手は決してやさしくない手つきで私の頬を包み、苦痛で歪んだ眉間を親指がなでた。

「……付き合ってやるよ。真面目に?」

「………………は、え……え?」

気づくときつくつかまれていた何かの感覚はなくなっている。けれど明の顔は近いままで、また軽薄な笑みを浮かべていた。

「……つき、あ……えっ!?」
「やっと理解したか?お前でも顔赤くなるんだな」

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2016- やぶさかデイズ