外に繋がる廊下への出口は反対側の襖だったのか。引き返そうと振り返ると、そこは何故かただの壁になっている。
どうして、と思わず小さく呟くと、机の奥側からコトン、と何かを置いたような物音がした。咄嗟に机の方へ視線を戻すと、そこには絶対になかったはずの湯呑みと赤い紙が置いてある。
この部屋に入ってきた時には、机の上には何もなかったはずだ。訳が分からない現象が続いて頭がおかしくなりそうだ。それでも、提灯の明かりだけではよく見えなかっただけで湯呑みと紙は最初からあったのかも知れない、とむりやり結論付けることで何とか正気を保つ。
小さな物音が聞こえただけで胸から飛び出さんばかりに弾む心臓を押さえ付けるように、胸に手を当てながら机に近付いていった。提灯の淡い明かりに照らされた湯呑みからは、仄かに湯気が上っている。
恐る恐るそれに触れると、それはまだ確かな熱を保っていた。まるでつい先ほどまで誰かが飲んでいたかのように湯呑みの縁は微かに濡れている。そんなはずはない。あるはずがないのだ。そこにある座布団に残る温もりと、まるで誰かが座っていたことを暗示しているかのような窪みには気付かなかったことにしなければ。それを認めてしまったら、完全に発狂してしまう。
湯呑みを調べてから、次は赤い紙に手を伸ばした。広げてみると、それは手紙か何かのようだ。延々と文字が綴られているのは分かっても、自分が知っている言語ではない。内容が分からないものを読もうとしても時間の無駄だ、と諦めて元に戻そうとした時、最後の行にだけ確かに読める言葉が記されていることに気付いた。
そこに書いてあった言葉は───
1. 右の部屋へ
2.左の部屋へ