おあいこ、と。
お互い様、と。
ウイのいうそれは大事なものを預かり合うという意味では成り立つが、負荷や恩でいえば片方がぶっちぎりで重く もう片方は空っぽだ。
「おまえはそれで良いのか」
この相手がどういう人間で シチュエーション毎に何を思うのか。
それを推し量るのは不可能で試みるだけ時間の無駄だとローは判断したのだろう。
だから、聞いた。
「なにが?」
またしても浅瀬で水蹴りをするウイが 私何聞かれてるの顔で振り返る。
通じない事に慣れて来たローは 想定と違う返答やリアクションへの耐性がついてきた。
なにより“良いよ”と返事をしないウイは、恩を売ろうとしている感覚がそもそもないからこそ検討がつかないのだろうと。
「あ、それあげるんじゃないからね!ちゃんと船屋さん着いたら返してよ?」
「……」
そこか、と。
貰ったつもりになってはいないかの確認か、とローは呆れた。
この海賊には恩人の大切な物は盗めない。
立ちはだかる他人であれば、斬って捨てて奪う事に躊躇い等微塵もない。
内側の人間への義理人情が厚すぎる それがこのローという男の偏り尖った人間性。
そんな男の内側に、これまでの入室経路とは全く異なる方法で入り込んできたこの女。
返事をしないローに、あげねぇなからなとでも言わんばかりの睨みを送りつつ、足は未だに水をパシャパシャやっている。
「ウイ」
名を呼ばれたウイは驚き、ローに顔を向ける。
「もういいだろ。さっさと戻るぞ」
それだけ言うと ローは待ちもせず来た道を戻り始めた。
何秒か ウイは動く事が出来なかった。
初めて、名を呼ばれた。
固まったウイの顔が次に作ったのは照れくさいような、嬉しさを隠せていない そんな顔。
日に日にくまが濃くなるローを心配していたのも事実。
疑われている事にも気付いていて、それは海賊団の皆を心配しての事なのも理解していた。
大好きになった皆が慕う船長であるローは とても魅力のある人物なんだろうなと推測も出来たし 疑われた中ですら、ローにその片鱗を感じてもいた。
仲良くなれたら良いなと思ってもいた。
けれど名前を呼ばれたことを 想定の何十倍、何百倍も上回る勢いで嬉しく思うウイがいた。
「ねぇ待って待って!歩くの早いってば!!」
文句を言いつつローの背中を追うウイは楽しそう。
文句を言われる側の男もまた 振り向くことも立ち止まる事もしない代わりに、その歩幅は少し小さくなった。