11-2
ブラーヴェの皆が新世界に進出してくるには時間がかかる。
デロアは結構栄えた島だったから、出店候補の店舗も結構見つかって
契約はいつでも良いかって事になった。
せっかくだからスペード海賊団の皆と旅を続ける事にしたんだ。
出航してすぐ、良い天気だなーって甲板で日向ぼっこをしていたら
隣の船からエースがこっちに跳び移って来た。
「ウイ!これやる!」
「これ、ビブルカード?」
目の前でちぎってくれたそれは、見覚えがあるもので
新世界独自の技術だって言われてた事を頭のどこかでぼんやり思い出した。
エースも作ったんだ。
「私のも渡しとくね!」
「ウイも持ってんのか。」
そういえばエースには渡してなかった。
受け取ったビブルカードを片手に部屋に向かうと、エースが後ろを着いてくる。
「はい!」
「どうも。」
ビブルカードコレクションをとめてるコルクボード。
とめてあった私のビブルカードをちぎって渡して、エースのそれにも名前を書いてピンを刺した。
「いっぱい持ってんだな。」
「ブラーヴェにビブルカードを作れる人がいるの!」
へぇ、と興味なさげなエースは部屋の中をきょろきょろ見渡していて
すんすん鼻を鳴らしてる。
「ウイの匂いする。」
「匂い?え、くさい?」
部屋の中を歩き回ってるエースがそんな事言うから
自分の体のにおいを嗅いでみた。
においするかな?
自分じゃ分かんない。
「甘いような独特の匂い。」
「独特って言われると気になるんだけど。」
それって何臭?
甘いってことは臭くはないの?
甘臭いにおいって、ないよね?
鼻に腕を当ててにおいを嗅ぎ続ける私をエースはけらけら笑いながら見てて
なんだよって思う。
「俺は好きだぜ!ウイの匂い。」
「……それはどうも。」
なんだか恥ずかしくなって、下戻ろうって声をかけて部屋を出た。
私もね、エースの匂い嫌いじゃない。
たまに汗臭かったり酒臭かったりするけど
お日様みたいな暖かい匂い。
「待てって!」
そんなこと、本人には言ってあげないけどね。
慌てて着いてくるエースをちらっと眺めながらそんな事を思った。
「本当にこんなとこに居るのー?」
「知らねぇよ。他にアテがねぇ以上しらみ潰しに行くしかねぇだろ。」
見るからに薄暗くてなんだか嫌な雰囲気のする森。
ここはエースが調べて来たルフィくんの恩人さんが居るかもしれないらしき島。
「ねぇ、会ったことないんでしょ?その恩人さんに。名前だけで本人かとか分かるの?」
「分かるさ!相手は四皇だぜ?こっちでは知らねぇヤツがいねぇくらいだ!」
ほぉ。
ルフィくんの恩人さんは四皇だったのか。
どんな人だろう。
ルフィくんを助けてくれるくらいだ。
きっといい人な気がする。
ドフラミンゴと取引があるか、聞けるかな?
新世界に向かうって決まった頃、エースから頼まれごとをした。
手土産に持っていきたいから極上の酒を作ってくれって。
極上かどうかは分からないし、人によって好みとかもあると思うけど
海賊って言ったらラム酒かなって思って
風味とかを極力残した癖の強いラムを作ってみてた。
熟成用にオークの樽を買って、原料もサトウキビから手作りして
副産物の黒糖がいっぱい出来て、それはそれで良かったんだけど
蒸留酒って面倒くさい。
アップルブランデーはいつも一升瓶単位で作ってたけど、樽だ。
なんでこんな大きい樽買っちゃったんだろうってげんなりしながらせっせと作ってた。
それが今、エースの背中に担がれてる。
私からも手土産にって、足しにもならないだろうシードルを持ってきたんだけど
一本でも重いのによくあんなの担いで歩けるな。
体力馬鹿なエースにげっそりしながら、ただ足を動かした。
「ウイ見ろよ!当たりだ!」
「え?」
へろへろになりながらエースが指差した先に目を向ければ、そこには一隻の海賊船。
クロスした剣をバックに従える、左目に三本のラインが入ったドクロの海賊旗。
入江に船を停めているのか、その脇の洞穴みたいな所からは陽気な声や明かりが漏れていた。
「っていうか約束とかしないでそんな凄い人に会えるもんなの?」
「知らね。良いんだ!ルフィの礼言わなきゃいけねぇんだから!」
大丈夫だろうか。
個人的な挨拶だからって、他の皆は船で留守番してる。
エースはロギアだからいざとなれば脱出くらいは出来るだろう。
まさか置いていかれるとは思わないけど、状況的に凄く不安なんですけど。
ちょっとエース。
本当にどうしてくれんのよこの感じ。
「おれに…挨拶?」
洞穴の中央の岩に腰掛けていた、赤髪の男の人。
目付きが悪いとかじゃない。
特に普通にしてるんだと思う。
でもなんだか、圧倒される。
「いや…そうゆう意味じゃねぇんだ!」
なんでエースはこう、憶さないというか
平気なんだろう。
私達を取り囲むようにこっちに目線を向けている海賊達も、なんていうか強そうで
流石に怖い。
エースの後ろにそっと隠れた。
「弟が命の恩人だってあんたの話ばっかりするから、一度会って礼をと。」
「ルフィの……!?へぇ…!兄貴なんて居たのか!」
途端に声のトーンが明るくなって、威圧感を放っていた顔が綻ぶ。
よ、良かった。
大丈夫っぽい。
恩人さん覚えてなくて
知らねぇよ帰れくそガキ的な展開も心配してたから本当に良かった。
「そうかー!よく来たな!!話を聞かせてくれ!」
にこにこ笑う恩人さん、シャンクスさんは少年のようだ。
本当にさっきまでの人と同じ人だろうか。
「ウマイ酒持ってきたんだ!あんたに飲んで貰おうと思って!」
「おお!気が利くじゃねぇか!野郎共宴だー!!」
周囲から怒号のような雄叫びが聞こえて来て驚いたけど
なんかもう、怖くない。
それは見慣れた、酒飲みを楽しむ人達の風景だった。
「あの、これ少しですけどよろしければ。」
「ん?そうだった!!嬢ちゃん誰だ?」
エースと楽しそうにラム酒を酌み交わすシャンクスさんに、持ってきたシードルを手渡した。
どっかで見たことあんだよなーとまじまじと顔を覗き込まれる。
手配書だろうか。
「この酒もウイに作って貰ったんだ!旨ぇだろ!」
「ウイ?……!?おまえらどういう関係だ?なんで商人が海賊と一緒にいる。」
手土産に渡したシードルのラベルを見て目を見開いたシャンクスさんは、どうやらブラーヴェのことも知ってるみたいだ。
「護衛してるんだ!ウイほっとくとすぐ拐われんだよ!」
「一回しか拐われてない!!」
話を盛ってけたけた笑ってるエースに反論すれば、そんな私達を見て
シャンクスさんも笑ってた。
「商売は楽しいか?」
「はい!まだ駆け出しですけど!」
そりゃ良い!とニカッと笑ったその顔は
結構良い歳いったおじさんの筈なのに可愛く見えた。
商売の話が出たし、聞いちゃっても良いかな。
「あの、いきなり失礼かもしれないんですけど。シャンクスさんは七武海のドフラミンゴと取引とか、ありますか?」
「ねぇな!あーゆーのは好きじゃねぇ!」
あっさり否定され過ぎてちょっと面食らった。
でも確かに、シャンクスさんとドフラミンゴ、凄いウマが合わなそう。
「ですよね、変なこと聞いてしまってごめんなさい。」
「いや?……仲間とやってるんだろ?仲良くやってるか?」
「…?はい。」
ん?
なんだか、私の返事を聞いたシャンクスさんの顔が一瞬だけ凄く優しい顔をした気がした。
なんで?
ちょっと気になったけど、二人は何事もなかったかのようにルフィくんの話で盛り上がってる。
他の人達もルフィくんを知っているのか、代わる代わる二人の元を訪れては、話を聞きたがっていた。
ルフィくん愛されてるなって思ったんだけど
その話をするエースの顔が、誰よりも楽しそう。
一人じゃ何もできねぇ、弱ぇ、泣き虫。
そんな文句を口にするエースの、だから俺が居てやらないとダメなんだって言いたげな顔とか
そんな心情すらも読み取って微笑ましそうに笑ってるシャンクスさん達の様子とか
なんだか良いなって思った。
「告白しねぇの?好きなんだろ?」
「した。……振られてる。」
そうか若いな!ってガシガシ頭を撫でられて
こっ恥ずかしくてそれを振り払った。
好きだけど
そんなに駄々漏れか?俺の気持ちは。
「エースもウイの商売仲間、会ったことあるのか?」
「何回か。」
どんな奴ら?って聞かれて、悩む。
どんな、奴ら?
「心配性で愉快なヤツラ?激しい女と煩ぇ男と、腹に何か飼ってそうな男と女、あとチビガキ。……なんで?」
「…ただの興味だ!ウマイ酒作ってるヤツの仲間に興味が沸いた。」
そういうもんか。
確かに極上の酒を作ってくれって頼んだけど、これはウマイ。
天才だな!ウイは。
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