11-3
「その年でこっちに入ってくるなんて、流石ルフィの兄貴だな!」
「俺は海賊王になるんだ!ワンピースは俺が見つける!」
世界一の海賊になって、俺は俺の名前を轟かせる。
くそうぜぇ父親の名前なんて関係なく、自分自身の力でそれを手に入れる。
その為にはもたもたしてらんねぇ。
早くしねぇと誰かが見つけちまう。
「こっちはそう甘くないぞ?どこもかしこも俺たち四皇の縄張りだ。」
「強ぇやつぶっ飛ばさねぇと上には行けねぇだろ!なぁ、誰が一番強いんだ?」
いつか倒さなきゃいけねぇなら、早いところ潰す。
目指すは四皇でも、一番強いヤツ。
「あー、白髭のおっさんか?いやでもカイドウもビッグマムも中々の化け物だ!」
「あんたは?」
四皇のツラなら新聞やら手配書で見たことはある。
その中でも、この人だけが一番全うな人間らしい姿形をしていた。
他のは見た目からして本当に化け物だ。
「俺か?俺は強ぇぞ!!」
「…だろうな。でもあんたは最後で良い。」
ルフィの恩人だ。
できることなら戦いたくはない。
ならば他のヤツ。
中でも今一番海賊王に近いヤツ。
「とりあえず白髭だな!見ててくれ!!すぐにあんたと肩を並べてやるさ!!」
「やめとけって一応言っとくぞー。」
ばかにしたような顔で鼻くそほじりながら言われても何の説得力もない。
あっても聞かねぇ。
試したい。
コーティング屋のじいさんにはしてやられたけど、あれは組み手だった。
能力も使って良いなら、俺はもっと強い。
四皇白髭、海賊王に最も近い男。
記憶にあるそいつの顔を想像しただけで、ぶるりと全身が震える。
武者震い。
わくわくする。
早く戦りてぇな。
ちらりとウイの様子を見れば、海賊達と飲み比べをしながらけらけら笑ってた。
大分酔ってるのか、いつにも増した笑い上戸。
その様子に鼻の下を伸ばすおっさん達を、笑いながらバタバタと地に沈めて行く。
アイツ、本当に強ぇよな。
二人で飲んでてウイより長く起きてられたこと、ねぇもん。
「っつーことで白髭と戦りに行くぞ!」
「「「「「おう!!」」」」」
マジか。
こちらスペード海賊団の船の甲板。
青空作戦会議室。
「どこ行きゃ会えんだよ?」
「取り敢えず縄張り荒らせば出てくるんじゃね?」
「傘下の海賊もすげぇいんだろ?」
なんで誰もびびったり逃げ腰になったりしないんだ。
流石男の子で海賊。
血の気が多い。
「傘下だろうがなんだろうがぶっ飛ばす!そのうち出てくんだろ!親玉が。」
いや、うん。
そうだね。
子分達がコテンパにやられ続けたら、そりゃ親分は黙っちゃいないでしょうよ。
「エース船長!近くに白髭の縄張りの島あるぜ!」
「よし!次の目的地はそこだ!」
仕事早いな航海士。
そして決めるのも早いなエース船長。
「ウイは危ねぇから沖に居ろ!」
「……うーん。」
そりゃ着いていっても足手まといにしかならないんだろうなって思うんだけど
一人で沖で待ってるのって、凄くやだ。
危ないことしに行ってるの分かってるのに
何かあった時にそれを知る事も出来ずに沖で待ってるのって
とんでもなく不安。
「んな顔すんな!俺は強ぇ!」
「それは知ってるけどさ。」
エースが強いのなんて知ってる。
でも、四皇って桁違いに物凄く強いんじゃないの?
信じてない訳じゃない。
でも心配。
私の心配を余所に作戦会議は着々と進んでいって
皆の顔は凄く晴れやかというか、楽しそうだった。
何するつもりなのかは分かんないけど
その縄張りに住んでる人達に被害が出たりもするんじゃないの?
なんか、やだな。
皆の士気が上がる中、ぽつんと置いてけぼりを食らった気分だった。
それからと言うものの
エース達の白髭縄張り荒らしは着々と進んで行った。
最初のそれは、もう心配で心配で気が気じゃなかった。
心配で夜も眠れないし、かと行って沖からじゃ島は見えてもそこで何が起こっているかまでは分からない。
毎回エース達は2、3日で大した怪我もせずに戻って来てくれて
やっぱりいきなり大将が登場って訳には行かないみたいで
騒ぎを聞いて駆けつけた傘下の海賊達をエース達は事も無げに返り討ちにしていった。
心配してた民間人への被害もなくて。
エース達は領主や国王に狙いを付けては押し入って、騒ぎを起こしてたみたいだった。
そこは本当に良かった。
なんだかんだでそんな状況にも少しずつ慣れて来たある日のこと。
「あ……!!って、何やってんのよ!あれほど言ったのに!!」
カモメ新聞に挟まっていた紙切れの中に、不敵に笑う見慣れた顔を見つけた。
その顔を見て心を踊らせたものの、ふと我に返ってでんでんむしを引っ張り出す。
ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる
『なにー?』
「いや何じゃねぇよ。」
呑気なベポの声についうっかりドスの利いた声が出てしまった。
私の気遣いを無駄にしおって。
だからあれほど言ったのに。
『機嫌悪っ。なに?生理?』
「違うわっ!ロー!!ローは?」
『なんなの全く。はいはい、ちょっと待っててね。………キャプテーン!更年期ヒステリックババァから電話ー!』
あんの野郎っ!!
久しぶりのベポの毒に頭の血管が筋を立てて浮き出た気がした。
同い年の癖に!
『なんだ。更年期なら良さそうな漢方その辺で売ってんだろ。』
「しれっと乗るな!違うもん!更年期じゃないもん!!」
ローはたまに真顔でこういう冗談を言う。
でもちょっと分からないのが、それが冗談なのか本気なのか怪しい所だ。
いや、今はそれどころじゃない。
説教だ。
『なに荒ぶってんだ。どうした。』
「どうしたじゃない!!あれほど暴れる時帽子被ってくなって言ったのに!!」
なんだあの手配書。
帽子被ってるだけじゃなくしっかりキメ顔で映りおって。
格好良い。
『どこに被ってこうと俺の勝手だろ。』
「じゃあ普段は被らないでて!賞金首なんだから少しは慎んで!」
気に入ってくれてるのは嬉しい。
でも少しでも見つからないようにって、プレゼント帽子にしたとこもあったのに。
台無し。
でも格好いい。
ぷんすか怒りつつも、手元の手配書を見て顔がニヤつく。
悔しいけど、格好いい。
前のと並べてコルクボードにとめておこう。
あと保管用にもう一部ずつ欲しいな。
『これで並んだな。』
「え?」
私、今声に出した?
え、恥ずかしい。
怒っておいて手配書並べて飾っておこうとか言い出すとか
結構恥ずかしい。
しかもなんかストーカーっぽかったよな。
気持ち悪い事言った。
「いや、違う!今の嘘!!保管はしない!」
『……どうしたほんとに。頭沸いたか。』
思えば今までもローに気持ち悪がられた事はあった。
酵母の発酵した気泡を眺めてにやついたり
オーブンでケーキ焼いてる時の膨らむ様子覗いてにやついたり
飽きもせずにそれを楽しむ私を、凄いひきつった顔で暇人って呆れてた。
よく考えれば私がキモいことなんてローは分かってる筈。
それなのにローの手配書コレクションはそれを上回るキモさだったって事か。
どうしよう!
『懸賞金。アイツと同額だろ、これで。』
「え。」
手元の手配書の下の方を見れば、そこには
“二億ベリー”の文字。
本当だ。
写真に気を取られて懸賞金全く見てなかった。
え?
前8000万ベリーだったよね?
何事?
こんな倍以上に上がるもんなの?
っていうか
「なにやったのよ。」
『さぁ。どれがどう働いたのかは知らねぇな。』
いや、凄いけどさ。
凄いんだけどさ。
ってことは私は手配書コレクションの事口走った訳じゃなかったんだよね?
うん。
良かった。
でも、ねぇ待って。
「エースの懸賞金、気にしてたの?」
『…煩ぇ。』
どうしよう。
なんか、嬉しいかも。
「えへへ。」
『しかしタイミングだな。七武海か。』
ん?
「七武海……って?」
『聞いてねぇのか?新聞にも載ってただろ、今朝。』
見てないのかって聞かれても。
見てないよ。
あなたの手配書に釘付け過ぎて新聞なんて見てない。
七武海がどうしたんだろうって思って、脇に放り投げた新聞を開く。
“白髭狩り!期待のルーキー
ポートガス・D・エース!!七武海へ!!”
「え、マジか。」
『なんだ、ガセか。』
ガセかどうかは分からない。
でも、聞いてない。
んー……
「聞いてくるね!!」
『ちょっと待……』
何かローが言ってた気がするけど、とりあえず聞いて来よう!
今朝一緒にごはん食べた時は何も言ってなかったし
何か隠してる感じにも見えなかった。
本当にガセなのかな。
でも海軍がそんな記事許可する?
甲板に出て近くの船に向かって声を張り上げる。
「エーーースーーーーー!!!」
返事がない。
寝てるのかな。
「エーーーーースーーーーーーっ!!」
「聞こえてっから!どうした!」
船室から顔を出したエースがいつものごとく軽やかにフリーウィングへ跳び移って来た。
「ねぇ!これ本当?」
「……は?なんだこれ。」
新聞の見出しをエースに見せても、ポカンとした顔でそれに見いってる。
やっぱりガセ?
「えーっとこれはね、エースが七武海に入るって書いてあるんだよ!」
「バカにしすぎだろ!読めるわ!!」
まぁ、それは冗談なんだけど。
ったく、と呆れたように睨むエースに新聞を渡した。
見出し以外にまで目を走らせて、それを突き返される。
「知らねぇけど、俺は七武海には入らねぇ!」
「なんで?入ったら捕まらなくなるんでしょ?」
七武海やその一味、傘下に至るまで
その海賊達が行う海賊行為は政府に黙認される。
懸賞金も取り下げられるから海軍に追われる事もない。
「誰が政府の犬になんてなるかよ!俺が目指すのは海賊王だ!」
そう言って笑うエースの顔を見て
ああそうだ、この人はこういう人だったって思った。
政府に徴集かけられたら、それには応じなきゃいけないらしいもんね。七武海。
嫌いな筈だ。
海賊として以前に、自分の命の起源をもみ消そうとした人達なんて。
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