「今まで本当にありがとな!!」
「連絡するね!!!」
黄色い潜水艦が港から離れると
船縁から顔を出したシャチとベポが笑顔で手を振ってくれている。
二人を挟むように、片方の端ではペンギンが面倒臭そうな顔でやる気なく手を振ってくれてるし
反対側では、やっぱりローが背中を向けたまま船縁に寄りかかっていた。
私を好きな筈の二人の素っ気なさが
なんだか逆に面白い。
少しずつ小さくなっていく皆に、
感謝の気持ちを込めた笑顔で力いっぱい手を振った。
死ぬわけじゃないんだから、走馬燈って言うのはちょっと違うかもしれない。
でも、これまでの皆との思い出が
つい昨日のことみたいに鮮明に脳裏に蘇る。
手を振り続けながら
頭の中で、そんな思い出旅行が始まった。
北の海の酒場で偶然出会って
フリーウィングの癇癪を食らってずぶ濡れで鍵を返しに来た皆。
初日にはローに水風船をぶつけて、シャチとペンギンはローに怒られてた。
初めて皆でダイニングで食べたご飯。
調子に乗ってローをキャプテンと呼んで怒られたこと。
私をこっそりつけて来たローと、綺麗な湖で初めてまともに話をした。
名前を呼んでくれて、笑顔を見せてくれて
あの時はまだ好きじゃなかったけど、凄く嬉しかったのを覚えてる。
リバースマウンテンに入る前、不規則な海流のせいでローが死にかけて。
ベポは責任を感じて大泣きするし、アレには本当に参った。
皆で行った遊園地。
海賊に捕まったのを助けに来てくれた皆。
10億の懸賞首になって皆と離れ離れになって
再開できた時、ローのことが好きなんだって気付いてしまった。
暫くぎくしゃくして、記憶を飛ばしたローに素敵な夢を見させて貰って。
仲間になるのを諦めると言われた私が泣いてしまった所をベポが助けてくれた。
ステラさんの事件があって、ローにも気持ちを伝えてしまって、ペンギンの気持ちも知ってしまって。
本当に、色んなことがあった。
ほぼ毎日何かしらのゲームをしてた日常も
とっても、とっても楽しかった。
皆を乗せた船はある程度港から離れると少しずつ潜水を始めた。
「私を見つけてくれてありがとう!!皆、めちゃめちゃ大好きっ!!!」
私の声に手を振って答えてくれた皆が、船室へと入っていく。
皆の姿は
私の視界から、ついに消えてしまった。
「……行っちゃった。」
少しずつ海の中に消えていく黄色の潜水艦。
行って欲しくなくて
本当は離れたくなくて
無意識に踏み出した足に自嘲がこぼれる。
もう遅い。
今から追いつこうと思っても
フリーウィングは海中を進むことはできない。
行かないで。
置いて行かないで。
私を一人にしないで。
「ぐすっ。」
もう、我慢しなくて良いよね。
泣いたって、誰にも見られる心配もない。
自分で決めたことだって分かってる。
皆と一緒に居られるように
ローに好きって伝えられるように
私はちゃんと
人の気持ちに依存してはすぐにへこたれてしまうこの腐った根性を叩きなおさないといけない。
でもやっぱり寂しい。
パウリーが手掛けてくれたマストが
完全に海面から姿を消してしまったのを見て
耐えきれなくなった私は顔を覆ったまま声を上げて泣いた。
もう、皆に会いたくても
彼らがどこに居るのか、知る術もない。
「ルーム、スキャン。」
「んだよ。結局そうやって美味しいとこ持ってくのな。」
やたらとウイに素っ気なかったキャプテンが
船室に入るとともに
覗きに最適すぎる悪魔の実の能力を発動した。
どうせキャプテンはシャンブルズでウイの元に行ってくるんだろう。
お互い様と言われればそうなのだが
実際に良い所で邪魔が入るというのは
思った以上に苛ついた。
何も言わずに目を閉じているキャプテンには
ルームの端にでも捉えているウイの姿が見えているんだろう。
せっかく暫くは
ウイの脳内を占領できると思っていたのに。
絶対こいつは
ウイの中の俺の記憶を塗りつぶして、なかったことにでもしかねないような事をしてくる筈だ。
「シャンブルズ。」
予測通り消えやがったキャプテンの代わりに現れたウイお手製のビーズ。
あの確信犯はこの為にちゃんと
自分を彼女の元へと運ぶこれを、いつの間にか仕込んでいたらしい。
「アホらし。」
何だかんだで想い合ってる二人を
少し憎たらしく思った。
「ひっく……。ぅう……。」
こんな所で一人で泣きじゃくっている私は相当変な人だろう。
泣きやもうって思う度に
皆の笑った顔が瞼の裏側に現れて
それがもう傍には居ない事を思うと
何度だって涙が込み上げてくる。
海から吹く風が
流し過ぎた涙で濡れた首元をそよぐと
その冷たさにぞくりと体が震える。
寒さと一緒に
風が懐かしくて大好きな匂いを
運んで来てくれた気がした。
「何泣いてんだ。全く。」
匂いだけじゃない。
この声も
抱き締めてくれる腕の強さも
硬い腹筋も
暖かい温もりも
「なん、っで。なんでぇ……。」
来てくれた
大好きな人が
私を抱きしめに、戻って来てくれた。
私は泣きすぎて絶対不細工な顔をしていたから
こんな顔、ローになんて見られたくなかったのに。
そんな乙女心を分かっていないローが
私の顔を無理やり上に向かせる。
「ふっ。ひでぇ顔。」
そう言って呆れたように笑ったローが
あんなに絶対してくれなかったのに
未だにしゃくりの止まらない私の口を優しく塞いだ。
「んっ。ロ……ぉっ!ロぉっ……。」
ペンギンも、キスは上手いと思う。
でも違う。
私が欲しいのは
ずっと欲しかったキスは
何故かいつも私の頭をぼぉっとさせて
体を疼かせる、このキスだ。
求めあうように絡み合う舌の味が
これはローだって
ローとキスしてるって
ローが私を必要としてくれていることを
求めてくれている事を私に教えてれてる。
もっと
もっと深くまでローに触れたい。
この人と
ずっと一緒に居たい。
暫くずっと
私達は飽きる事なくお互いの舌の感触を味わっていた。
軽く舌先を吸い上げられる感覚に
ローが離れて行ってしまう気がして必死で首にしがみつく。
やだ。
行かないで。
唇を合わせたまま
縋りつくような目でローを見つめると
ローの瞳に映った自分自身と目が合った。
反射だって分かってるけど
彼の内側に居るかのようなそんなもう一人の私に
羨ましいなって、ヤキモチを感じた。
ローの首に回した腕に力を込めて縋りつこうとしても
ローが離れて行こうとするその力には敵わない。
優しく髪を撫でてくれるローが
いつもみたいに、私の髪を耳にかけてくれる。
「え?」
ローが私のピアスを弄っていると思ったら
片手なのに器用にそれを外して
今まで付けていた物とは違う
冷たい物が耳朶の穴を通った。
「こっちは俺が貰っとく。」
「ピアス?え。なにこれ。くれるの?」
ローが私が今まで付けていたピアスをポケットにしまったのを見て
今私の耳に付いているらしい
ローがくれたピアスを指で触った。
引っ掛ける式じゃないのは分かるんだけど
どう頑張っても自分じゃ見えない。
「後でゆっくり見ろ。」
「うん。ずっと付けてるね。」
なんだ。
私は潜水艦が海面から消えたとき
本当にお別れだと思ってあんなに大泣きしたのに。
あまりにも素っ気なさすぎるローの態度が
本当に悲しかったのに。
こんな物まで準備してくれていて
それを今渡してくれるなんて。
初めからローは
こうやって戻って来てくれるつもりだったみたいだ。
「俺も大概お前に甘いな。」
「厳し過ぎるよ。もっと甘やかしてよ。」
優しい手で頭を撫でてくれるローと見つめ合いながら
やっぱりこの人は想像もつかない魔法ばかり使って私に幸せをくれる、本当にとんでもなく素敵な人だなって思う。
そっと触れるだけのキスをして
ローが私を力いっぱい抱きしめてくれた。
今までローの全力だと思っていた力は
大分加減されていたらしい。
息ができないくらい強く私を抱きしめるその力は
ローも本当は私と離れたくないって
離したくないって思ってくれているみたいで
凄く痛くて苦しかったけど
心の底から嬉しいって感じた。
「頑張れよ。」
耳元で聞こえた、低いけど優しいローの声。
これは今朝話した、私がへこたれそうな時の為のおまじない?
ピアスに口付けたローの唇が離れてしまうと
私を締め付けていた力は
嘘みたいに消えてしまった。
しゃがみこんで
大好きな人の代わりに現れた見慣れたビーズを拾う。
夢みたいな出来事だったけど
夢じゃない。
彼が来てくれた証のピアスに手を触れながら瞬きをすると
地面にひとつ
丸い染みができた。
ありがとう。
さよなら。
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