6-57

「今更何か俺に言う事ある?」
「確かにいつも鬱陶しがられるくらい、話聞いて貰ってるもんね。」



流石だベポ。
最後の最後まで腹黒スタンスを崩さない。



「じゃあ今日は、俺が話すからウイは聞いてて。」
「うん。」



ベポは照れる事なんてしない。
ただ目を合わせて、私を見下ろしている。



「俺、ウイの前が、一番言いたい事言える。」



いつも私に向ける
仕方ないなって呆れた顔じゃなくて
ぽつりぽつりと呟くように話すベポは

真剣な顔をしていた。



「本当は思ってないような酷い事言う時もあるけど、そんな冗談もウイなら安心して言えるし。何言っても構わず纏わりついてくるウイとのこんな関係が、俺は結構好き。」



私もそうだよ。
どんなに私がしつこくしても
どんなにダメな自分の話をしても

うざいとか、面倒くさいとか、キモいとか
そんな事言う癖に
ベポは絶対私を拒絶することも否定することもしない。

むしろ、そんな本音とか冗談を言い合える私たちの関係が

本当に、本当に大好きだ。



「本当は、離れたくない。でもどっかの誰かさん達揃いも揃って頑固だから。」
「それって私も含まれてる?」



むしろ戦犯はウイでしょと中々キレのある返しをしてくるベポにふっと息が漏れた。



「絶対にまた、一緒に暮らしたい。10年後も20年後も、おじいちゃんとかおばあちゃんになっても、ウイのくだらない話聞きながら、一緒にお酒飲んだり寝たりしたい。」





だめだ。
流石に涙腺が限界だ。

上を向いて必死に瞬きを繰り返す。
真っ青な空は雲一つなくて

これじゃ涙を誤魔化してくれる
あの日みたいな雨も期待できない。




「ウイに会えて良かった。キモくてウザくてしつこくて、面倒だけど、素直で優しくて可愛い、頭おかし過ぎるウイが大好きだよ。」
「……私も、熊のくせに腹黒くて、人が困ってるとこを陰から嘲笑ってて、泣き虫で撃たれ弱くて、優しくて男前な、私の事大好きでいてくれるベポが、大好きだよ。」



まだ普段より
目を覆う水分は多かったけど

大好きな親友に笑顔を向けて、私達はきつく
ガシリと握手を交わした。





絶対また、一緒に遊ぼうね。



ベポが船に乗り込むと
なんだか今朝から避けられてる気がしてやまないペンギンがこっちに歩いて来た。


良かった。
特に無視されてるとかそんなんじゃないんだけど

なんだか素っ気ないペンギンに
挨拶さえなくお別れになってしまうんじゃないかって

少し怖かった。


私の前に辿りついて足を止めても
ペンギンは何も言わない。



「ねえ。今朝から何か、怒ってる?」
「俺が素っ気なくて、寂しかった?」



確信犯かよ。
本当に何かしちゃったんじゃないかって

結構心配してたのに。



「俺さ、今朝のアレ。結構ショックだったんだけど。」



つまらなそうな顔で私を見下ろすペンギン。

今朝のアレって、アレか。
皆に聞かれてるとは思わず結構な事を口走っちゃった、アレのことか。



「キャプテンと二人の時のお前、あんな感じなんだーって思ったら、結構へこんだ。」
「……なんだか本当にごめんなさい。」



へこむって言うのは、聞き分けなくキスして欲しがった私の欲たかり部分に引いたって事だろうか。







それとも

ニシキを出て以来、全然そんな素振りなんて見せないペンギンは今も私の事を好きで

私のローが大好きすぎる発言に
ショックを受けたんだろうか。






相変わらず拗ねたような、面白くなさそうな顔で私を見ているペンギンに
何て言ったら良いかが分からない。

ペンギンをヘコませた原因がどっちであるにせよ

気の利いた言葉が思いつかない。



「ペンギン、あの。本当に今までありがとね。沢山お世話になりました。」



とりあえずお礼とか、そういうのは言っておかないとって思って
ぺこりと頭を下げた。

いつも一緒にふざけてばかりだったペンギンだけど
実質一番お世話になって、迷惑をかけた気がする。

別れ際に気まずいとか
なんかやだなって思うけど

この人にお礼を言わないとかは絶対ダメなやつだ。
















「んぅっ!!?」



何も言わないペンギンのリアクションに
どうしたもんかと下げた頭を上げられずにいると

急に腕を引かれて
唇には柔らかいけど、少しカサついた感覚を感じた。





ペンギンは驚きに目を丸くした私のそんな様子を見て






悪戯でも思いついたような顔で笑ってた。



まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった私が呆気に取られていると

ペンギンは舌で唇を割って私のそれをいとも簡単に絡めとる。




「ふっ……、ンん、んーっ!!!」




ペンギンの胸をバシバシ叩いて逃れようとするけど
やっぱりそれが敵う事はなくて。



ローとは違う、ペンギンの舌使いは
流石のチャラ男大先生から与えられるキスは



何ていうか、体から力を奪っていく。



触れるだけのキスだったけど
最後の唇の記憶はローのものだった筈なのに。



それを上書きしやがったペンギンに
いくらとんでもなくお世話になったとは言え
これは酷過ぎるって、
頭ではそう思っているのに



力が抜けていく感覚に、自然と彼の服を握りしめて
縋りつくような恰好になってしまう。



「んぅ……。」



強く吸い上げられて彼の唇の中へと誘い込まれた私の舌を
歯で挟んで放してくれないペンギンと目が合った。






なんだかこれって
とっても恥ずかしい。







やわやわと甘噛みするように舌を噛みながら、ただ見つめてくるペンギンは
恥ずかしすぎて顔を赤くしながら目に見えて動揺している私の様子を絶対に面白がっている。




「ん?」




からかう様に、私の舌を噛んだままそんな声を上げるこの色々と手慣れ過ぎたチャラ男は

一体これまでこうやって
何人の女の人の腰を砕いて来たんだろう。




結局されるがままの私が解放された時には
もう本当に腰が抜けていて

何てことない事のように私の腰を支えているこの人の恐ろしさを
私は初めて身に染みて実感した。




「へこたれそうになったら、俺のこと思い出して頑張ってよ。」




何ていうか、もう何も言えない。


ペンギンの肩越しに見える皆の潜水艦では
ローが相変わらずこっちに背中を向けていて

そんな態度取ったりするから
あんたの見てない所でとんでもない事されたじゃないかって
相変わらず素っ気ないローを恨みたくなった。




「なに。そんなに気持ち良かったの。」



くつくつと笑うペンギンに否定の言葉を述べたいものの
腰まで抜かしておいてどの口がそんなことを言うのかと自分でも思う。

何も言えねえ。
本当にたまげたチャラ男だよ全く。



「一人が不安なら、俺がお前の傍に居てやろうか。」
「え。」



この人は何を訳の分からん事を言ってるんだろう。

私が一人になるのは
ペンギンも含め、ハートの海賊団とここで別れてしまうからであって
そのクルーであるペンギンが、私と一緒に居れる訳ないだろう。

相変わらず真剣味のない顔のペンギンはさらっと爆弾発言をかました。



「俺お前の為なら、船降りても良いけど。」
「なっ……!!なに、訳分かんないこと……。冗談、やめてよ。」



腰に力が入るようになってきたのを感じて
ペンギンから体を離す。

いくら人を揶揄うのが好きなペンギンだって
ハートの海賊団の船を降りても良いとか

冗談だって笑えない。




「本気。ウイにキスしたら、離したくなくなった。」




頬を優しく撫でてくるペンギンに

どくんと、胸の鼓動が強く脈打つのを感じた。








あれ。

なんでだ……?









今までローにしか感じた事のない心臓の異常現象が
ローが傍に居ない今、起こっていることに

内心凄く動揺している。



「なあ。俺で良いじゃん。俺を好きになって。」



心臓の音が、どんどん加速していく。










やばい。
これは何かやばい気がする。





ローの事が好きなのに


ペンギンの言葉を
嬉しく思ってしまっている自分が居る。





こんな、結構格好いい告白をしてくれたと言うのに
相変わらずペンギンはいつものやる気のなさそうな顔で私を見下ろしていて。





「あ、あのっ……「これであいこだな。……さっさと船に乗れ。」




いつの間に現れたローが

頬に触れていたペンギンの手を叩き落として
首根を掴んで私から引きはがした。



「いつの事言ってる訳?執念深っ。」



放り投げられたペンギンは不服そうな顔でローを睨んでいたけど
ローに何か意見するだけ無駄だって、ペンギンの方が私より分かってる筈だ。






ねえ、遅いよロー。

もっと早く、来て欲しかったのに。



「じゃあウイちゃんまたね。」
「え……あ、うん。」



ローの牽制に話の続きは無理そうだと諦めたらしいペンギンは
ポケットに手を突っ込みながら気怠そうに潜水艦へと向かっていく。








「むぅ。」
「おい。早速これとは良い度胸だな。」


最近ローにこうやって頬を掴みあげられて説教される事が多い気がする。

っていうか
ローがそっぽ向いてるからいけないんじゃん。

眉を寄せて苛立ったように見下ろしてくるローを
負けじと睨み付ける。

あんなに朝勇気出してキスしたのに。



さっきペンギンにキスされてしまったからって
今朝のアレがなくなる訳じゃない。

でも
不覚にもドキドキさせられてしまった今

ローのキスを思い出そうとしても
絶対にペンギンの顔が浮かんでしまう自信がある。



「責任取って。」
「お前俺の話聞いてたか。」



呆れたように更に手に力を込めるローは
さっきのキスに、気付いていないみたいだった。

意外とヤキモチ妬きなローは
ペンギンが私にキスしたって知ったら、絶対むきになってキスしてくれるって思ったのに。



まあ、流石に気付いてないなら言わないけどね。
ドキドキさせられちゃった手前、なんだかとてつもなく罪悪感だ。



「そろそろ行く。」
「ねえ。……好き?」



キスして貰えないなら、言葉が欲しい。
鼓膜に焼き付けるように
ずっと、ずっと覚えておくから

最後に好きって、ローの声で聞かせて欲しい。



「言わなきゃ分かんねえのか。」
「分かってるけど聞きたい。」



なんでこの人は
こっちの心の準備ができていない時には

結構嬉しい事、たくさん言ってくれたりするのに
私が欲しいって思った時にはくれないんだろう。


不機嫌そうに目を細めているローに
私に元気をくれる愛の言葉は、望めそうにない。

仕方のない事だけど
しゅんと落ち込んでしまう気持ちがやるせない。

犬みたいな耳でもついてたら
今の私は確実にそれを後ろに伏せて
寂しいって、ローに無言のアピールができるのに。
















「愛してる。」



耳元に顔を寄せてそう囁いたローは、私と目も合わせずに踵を返してしまった。








もう。

好きって言って欲しかったのに。





でも、愛してるって言葉の方が
百倍嬉しい。





destruct at reality.