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船室に戻って来た二人の内の片方が、和解した筈がどこか様子がおかしかった。
表情が暗い…いや、不機嫌。

あの後、またひと悶着あったのだろうか。


「…体冷えたせい?また痛いんだけど筋肉痛」


どうかしたのかと聞かれたウイが、待ってましたとばかりにブスッとしながら不満を口にする。
ペンギンのせいだとブツブツと文句を良いながら、再び風呂に入るらしい彼女は二階の自室へと消えて行った。

一段上がるごとに、痛い、痛い、と呪いのような呟きがリビングに聞こえる。
扉が閉まった音を確認するなりハートの海賊団は号令もなしにローの元へと集合した。

風呂であればそうすぐにウイは戻って来ない。
しかし万全を期した彼らは場所を地下2階へと移した。



移動中盗聴の件を聞かされたペンギンはそれに不満を唱えたが、シャチとベポの怒りはそれを上回る。


「おまえマジ場所選べよ!!」
「何海とか見て黄昏てんのさ!拗ねるならもっと良い場所いくらでもあったよね!?本当気遣いとか配慮が無さすぎる!!」


長時間指先の力だけで体を支えるという事は、それほど過酷だったらしい。
余りにも怒り狂う二人の勢いは、聞かされて等いないそれへの配慮等不可能だというのに
ペンギンの口から謝罪の言葉を引き出した。

こうして世の中には冤罪というものが生まれる。


「その辺にしとけ。今はそれを話しに来たわけじゃねぇ」


ローの制止によりやっと本題へと話は進み、ウイをハートの海賊団に引き入れる作戦会議が始まった。


「っつーかおまえらまだ諦めてねぇの。…無理じゃね?あれは」
「ペンギンはそれで良いの!?」


主旨を聞かされたペンギンはそれに異論を唱えた。
話すだけ無駄だ、と。


「そりゃ…良くはねぇけど。本人がやりたいって事奪うのは流石に気が引けんだけど、俺は」


気持ちに現実が着いてくるとは言えない。
それをペンギンは理解したようだった。


「それはそうだけど!!でもウイだって一緒に居たいって言ってたじゃん!」
「ベポはウイのこと知ってるから実感沸かねぇんだろうけど。…おまえそこらの海賊が作った酒、飲みてぇとか思うの」


突かれたのは最もらしい核心。

海賊製の酒。
確かにそれは、毒が盛られていた所で何もおかしくはない。




「ぼったくられてる感と、そもそも安全な気がしない。それに加えておいしくなさそう」
「だろ?」


仕方ねぇじゃん、とペンギンはため息混じりに呟いた。


「海賊になっても今まで通りアイツがやりたいことをやれれば問題ねぇんだろ」


ローが発した言葉は、全ての問題点を踏まえた理想の答え。
しかしそれが無理だから彼らはこうも頭を抱え、諦めている。

超が付くほど現実主義者の彼が発するにしては珍しいその言葉に違和感を感じつつも
ならばそれをどう実現しようと言うのかと、彼らは船長を凝視した。


「今よりもっとウィングカンパニーの名が売れて、名前も質の良さも存分に知らしめてからであれば。それは無理じゃねぇだろ」
「「「…確かに」」」


どこぞの海賊が作ったともなれば確かに民衆は避ける。
しかし例え海賊が作った物だとしても、その商品の価値が確かであれば、それが認知されていれば
最初こそ購入を渋る者も後々はまたそこに戻るだろう。


「ウイの作るものにはその価値がある。名前が独り歩きしてここまでのしあがった訳じゃねえ」


彼女の酒を飲んでからその辺の酒場の酒をローがまずく感じるようになったように
ウイの酒には確かな実力がある。
それに加えて物作りへの努力や労力を惜しまない姿勢。

海賊程度の肩書きは易々突破出来ると、ローは踏んだ。


「問題は認知度だな。ノースブルーでは名が通ってるとは言え、ここではまだそうもいかねぇだろ」


グランドラインの商業事情やウィングカンパニーの知名度は不明。
しかし、辿り着くことすらそう容易ではないこの海では
今までのようにはいかないどころか、最悪無名からのスタートだろう。


「ウイには今まで以上に商売に力を入れて貰うとして、問題はすぐあったら困る造船所だな」
「もうグランドライン中の造船所潰れればいいのに」


いやそれは困るだろ、とシャチが突っ込んだ。
発言者であるベポと、それに賛同したペンギンは造船所の襲撃計画なんぞを練りだす。
いつもの悪ノリなペンギンに対して、ベポからは本気臭が漂っていた。

ひとまず
絶望的なところから、ある程度は盛り返せた状況。

葬式のような表情を浮かべていた彼らは先ほどより、大分明るいそれを浮かべていた。





「仕方ねぇんだけど、その計画だと俺ら出来ることなんもねぇな」


ウイをハートの海賊団に入れちゃおうぜ計画は
彼女に商人としての仕事を頑張って貰い、訪れる島に造船所がないことを願うだけ。

何とも他力本願運任せ。
しかし、現状でこれ以上の打開策はない。


もう策や計画と呼べるのかすら怪しいところだが、可能性がゼロではなくなっただけまだマシと言えるのかもしれない。


「なんかさ、俺ちゃんと造船所までって分かってたつもりだったんだけど。…ウイなら誘えば仲間になってくれるって、そう思ってた気がする」


約束を忘れていた訳ではなくとも
過ごす日々が増えるにつれて、ベポの中で彼女がいる毎日は当たり前になりつつあった。
いつも楽しそうなウイも、そんな日常が続くことを望んでいるだろうと。


「ウイにはウイの人生があるのに、なんで気付かなかったんだろう」


ボスンとベッドに倒れこみ布団に顔を埋めるベポの心を暗くさせるのは
仲間にはなれないと断られた事だけではなく、配慮のなかった自分への自己嫌悪。

ベポほど分かり易くはないにせよ
同じく期待しただろう彼らにも、そんな気持ちはあるのだろう。


「やっぱりアイツ、アホそうに見えてちゃんと考えてんだな」
「頭の回るアホだな」


それにシャチがゲラゲラ笑う。
くそ程タチ悪ぃな!と。

そんなアホでタチの悪い女を、彼らは仲間に入れたくて仕方ない。


「とりあえず、アイツには今晩にでも俺から話す」


ローの言葉にクルー達はただ頷いた。

ハートの海賊団の船長はローだ。
船長直々の言葉であれば、ウイの心も少しは動くかもしれない。


もし変わらなくとも、とにかく彼女には頑張って貰わねばならないのだ。

それが彼女の望む事で
これからも共に旅をする為に必要な事なのだから。




夕食後、フリーウィング号では各々が自由にその時間を過ごしていた。

風呂から戻ったローが、濡れた髪をタオルで拭きながらリビングで一人海図を広げるベポへ声をかける。


「アイツは?」
「来てないよ?部屋かなー?」


それが誰かを言わなくとも伝わる会話。
この時間帯、その"アイツ"はリビングにいることが多い。
ただ酒盛りをしている事もあれば
ハートの海賊団のクルーに混ざりチェスやポーカー、麻雀を興じている事もある。

彼らは賭け事が好きだった。
好きこそ物の上手なれという言葉は世迷言かと疑う程、それを好む彼らをものの見事に負かし続ける彼女。
ウイはもしかすると、彼ら以上に賭博好きなのかもしれない。

リビングに貼られた勝敗表には、ウイの名前の脇に+756の数字。
継いでシャチ、ペンギン、ベポの順にそれは数を減らし、ベポに至っては-1020。
この白熊は勝負事には向いていないようだ。

この数字が何を基準に設定されているかは傍目には分からぬものの
いつかベポがウイの取り立てに合う事は明白で、勝負を重ねる毎にその負債は膨らむのだろう。




それはさておき、ローが探している人物は今日はリビングには居ない模様。
目星を付けた本人の部屋や地下一階とその下を見て回っても
そこに彼女の姿は見当たらなかった。


どこにいやがる。
もう他にウイが居そうな場所は検討もつかず、ローは若干の苛立ちを覚えながらリビングへと戻った。


「あれ?ウイまだ見つからない?」
「ああ。一応外も見てくる」
「どこ行っちゃったんだろう」


心配そうに首を傾げる白熊をリビングに残し、ローは甲板へと続く扉をあけた。




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destruct at reality.