14-25
人間って不思議なもので
夜になると落ち込みやすい。
それでいて
寝ておきると結構立ち直ってる。
そうやって
誤魔化し誤魔化し、生きていく。
昨日は世界の終わりくらい絶望した割ってしまった瓶も
翌朝見れば、床板にシミが出来てしまった事に
あっちゃー…
って思うくらい。
ちゃんとガラスを集めて
新聞紙でくるんで捨てられる。
雑巾で床板のシミを薄く出来ないかって擦る事も出来る。
やるしかないかって思える。
なんで落ち込んでる時って、色んな事が全部マイナス思考に引っ張られるんだろう。
シードルを割っちゃったのは次から気を付けたら良い。
切ってしまった指も、すぐ治る。
仕込みも、私が一本割ってしまったら追い付かなくなるくらい切羽詰まってる訳じゃない。
白髭海賊団の皆の安否が分からないのも
便りがないのは無事でいてくれてる証。
皆は結構な有名人だ。
死んでしまったりとかしてたら、そんなニュース海軍が放っておかない。
きっと無事。どこかで生きてる。
…連絡くれないのは不満だけど。
おっと、いかんいかん。
ポジティブに!
ローの事も、他に好きな人が出来たなら
それは喜ばしい事だ。
私を“好き”ではなくなってしまったとしても
何かあれば連絡しろって、ローはそう言ってくれた。
恋愛の好きじゃなくても、ローは私を気にかけてくれてる。
私と同じ。
ローもきっと、好きな人じゃなくなった私も
友達として大切に思ってくれてる。
「よっし!今日も1日頑張りますか!」
楽しい1日にしたいなって
朝から鍋焼きうどんを作ったの。
昨日ジャンバールと作った七味、食べてみたいなって。
鶏肉と、卵。
上の畑から採ってきた葱と春菊。
人参はね、捻り梅にカットして可愛くしてみた。
ホカホカの湯気が出汁の香りを充満させて、振りかけた七味の陳皮や山椒の香りが良いアクセント。
きっとまたいつか
今日かもしれないし明日かもしれない
1ヶ月後かもしれないし、何年後かもしれない。
それでも必ず私はまた同じことで落ち込む。
でも今日、立ち直れた。
寝て起きただけっていう
そんな単純なことで。
だからきっと
次も大丈夫。
私は大丈夫。
ご飯を美味しいと思える。
それって凄く単純だけど、大事な事。
それから月日は流れた。
ブラーヴェの結婚式プロジェクトは相も変わらず大忙し。
船も順調に仕上がって来てるみたい。
各々の準備の方も、色々あったけどまぁ順調。
少しずつ形になっていくそれに
毎日わくわくする気持ちと、悔しさみたいなものを感じてた。
こんな素敵な結婚式なのに、私がこれを挙げる事はないんだなって。
毎晩エースに文句を言った。
こんなに文句ばっかり言ってたら嫌われちゃうかもね。
でも、エースは私の事が大好きで仕方ないから。
時には文句
時には嫌味
泣き喚いた事も、たまにあった。
狡いね、私。
結局いつも、都合良くエースに甘えてるね。
白髭海賊団の皆も
私の度肝を抜いてくれた。
“落とし前戦争”
新聞の見出しがその文字を飾ったのは、あれからどれくらい経ってからだったかな。
白髭海賊団の皆とティーチ、黒ひげ海賊団の戦い。
皆はやっぱり無事だった。
生きててくれたって喜んだのも束の間、目に飛び込んで来たのは“白髭海賊団惨敗”の文字。
細かい文字も隈無く拾ったの。
それでも皆の安否は確認出来なくて。
それからも皆は音沙汰なし。
安心して、不安になって
結局また元に戻った。
新聞で皆の情報を漁る毎日。
無事で居て欲しい。
会いたい気持ちは変わらない。
本当に
無事ならなんで連絡くれないんだろ。
いや…無事じゃないから連絡出来ないとしたらそれも嫌なんだけど。
取り敢えず皆の方はそんな感じ。
ロー達はね、無事にお酒の追跡が出来たみたいで。
辿り着いたドフラミンゴとの取引場所には、本当にカイドウの海賊船が停泊してたんだって。
危ない事はしないでって言ったのに、ローったらシャンブルズで単身潜入して来たらしくて。
“SMILE”の情報、ちゃんと入手出来たみたい。
それなのに私にはそれが何か教えてくれないの。
酷くない?
不満だけど…きっと首突っ込んだら危ない事なんだろうなって。
どんなに文句言っても教えてくれないから
そこはそういう事にして諦めた。
ドフラミンゴからもね、本当に連絡が来たんだよ!
贈り主からのラムの感想はやっぱり『旨い』だったって。
でも気に入ってくれたみたいで。
早々餌をバラ撒くかって、作るのに何年もかかるものだからまた頼んでおくって嘘吹いた事をあの愉快そうな口調で報告された。
頃合いを見てまた同じものを納品する約束をして、シードルの方も引き続き頼むってお言葉もいただいて。
まぁ、でんでん虫切ってすぐローに報告したよね。
これが何の役に立つ情報かは分からないけど。
ハートの海賊団の皆とも、たまに会ってるよ。
ローに話そうとしても、やっぱり何だかんだで上手くいかなくて。
でも私の読みもあながち当たってるんじゃないかな。
ローは私に、そんな感じを醸し出す事がなくなった。
言わなくても、ローの好きな人が私じゃなくなったなら良いのかなって
一応タイミングは見計らってるけど
前ほど言おう言おうって意気込むことはなくなってたんだ。
…でもやっぱり言わなきゃダメかな。
でもローがもう私を好きじゃないのに、改めてそれ言うのもなんか
思い上がりの勘違い女みたいで恥ずかしい気もするし…
どうしたものか。
そういえばね、ローの懸賞金!
また上がったんだよ。
一気に2倍以上!
4億4000万ベリー!
手配書が新聞に挟まって手元に届いた途端、それはそれは憤慨してでんでん虫かけたよね。
だってまた帽子被って写ってるんだもん。写真。
今更だけど、あれを最初に贈った時は周りにバレないようにってそんな意図だった。
新しいのを贈ってからは、手配書のと違うから本来の意図通りに上手く働いてたかもしれないのに…
あれじゃ逆にトレードマークだ。
余計目立つ。
本人は相変わらず『何しようと俺の勝手だろ』の一点張り。
まぁ、アレだ。
ローにあれこれ言うだけ基本無駄だ。
でんでん虫を切ってからね、なんとなく
新しい手配書を持って部屋に行ったの。
ずっと集めてるし、…これはもうコレクションだ。
コルクボードにローの新しい手配書をピンで止めて、更新されないエースの手配書を見てため息をついた。
「でもエースの方が、まだ上だもんね」
写真の中の愛しい人の輪郭をなぞっては、またため息。
何を張り合ってるんだ、私は。
色んな事があって
相変わらず忙しくて
楽しい日も
ちょっと落ち込んだりする日もあって
でも落ち着いてるんだと思う。
そんなある日のこと。
プロジェクトの人材獲得の為に、私は新世界で島を回ってた。
船のお掃除を終えて、洗濯物も干して。
今日は次の島に着きそうもないし、旅のお供のカレンはもう日も高いのにまだ寝てる。
ディゼルはお酒の発酵度合のチェックに余念がない。
そうそう。
ディゼルったら凄いんだよ。
あの人今まで手を出した事のないジャンル一気に十数種類手を出したからね。
ウイスキーにしろ、焼酎にしろ、ラムやウォッカ、リキュールも色んなフレーバー。
今はそれぞれの本命何種類かを吟味しながら改良してるみたいだけど
最初の頃は凄かった。
それぞれのお酒を10通り近く試作するものだから
ディゼルの試作品の瓶が100本以上ブラーヴェの製造所にあったくらい。
きっと一番労力的な負担が大きかったのは間違いなくディゼル。
でもディゼル器用だから。
全部を把握して管理して、毎日沢山の瓶に囲まれてるディゼルに
男なのに“魔女”ってあだ名が付いたのは本人には内緒の話だ。
だってアレみたいなんだもん。
魔法の薬を調合してる魔女の図。
…ディゼルのことだから私達がそう呼んでる事、気付いて放っておいてるのかもしれないけど。
おっと話が逸れた。
私の日常はそんな感じ。
普段通りの午前中、フリーウィングで今日は何しようかなって考えてる最中
でんでん虫が着信を報せたんだ。
「もしもーし。どしたの?珍しいね、ローがかけてくるなんて。なんかあった?」
本当に珍しい。
ハートの海賊団からの着信はいつものペンギンの定例でんでん虫か
ジャンバールのお料理相談か
ベポの愚痴。
たらい回しになる事も多いから、そのついでにローと話す事もあった。
でもローがかけてくる事なんて滅多にない。
『悪ぃが新しいつなぎを頼みてぇ』
「なんだそんな事。いつも通りサイズ測って教えてよ」
新しい仲間か。
久しぶりだけどどんな人だろ。
楽しみだな。
『女だ。一応…俺らが測る訳にもいかねぇだろ』
一瞬ね
心臓止まったかと思ったの。
息するの忘れてた。
そっか
新しい仲間は女の人
そっか…
1513