4-11
「さあキャプテン!二人にも言ってやって!」
「…何を」
もう確定な自分の明け透けさに、ローの顰めっ面はそれを極める。
「え?だからウイの事どう思ってるかって!あれ!!」
「…いつから気付いてた」
その言葉にペンギンは再びガッツポーズをとり、シャチはマジかよと頭を抱え
ベポは悔しそうで嬉しそうな複雑なリアクションを浮かべた。
「え?大分前から。で?ウイには言ったの?」
「何を…」
自分ですら気付かなかった気持ちがクルー達に知られていた事実は、それはそれはローを打ちのめした。
項垂れるローに畳み掛けるように彼らは嬉々揚々と口を開く。
「何って、告白?」
3人並んで腰掛けたクルー達が、興味津々と言った様子でローの返答を待っている。
ローにとって今は告白どころの騒ぎではない。
言葉を失うローに、それはまだなのだろうと彼らは悟る。
見ている方が呆れ返る程鈍感であった船長になにがあったのだろうと
クルー達の関心はそちらへと移り、基本的に思った事を口に出す勇者がそれを切り出した。
「でもなんで急に?昨日俺がウイと仲良くし過ぎてヤキモチでも妬いた?」
俺天才かとはしゃぐペンギンに、ローは彼が自覚を促す為にそれをしていた事にやっと気付く。
気付いた上で思うのは…
「まさか…アイツもグルか…?」
「「「いやそれはねーよ。(ないでしょ)」」」
3人の声は見事に重なった。
「アイツくそ鈍いだろ絶対」
「まず間違いなく気付いてねぇよ」
「でも!俺らキャプテンを応援してるから!頑張ってね!」
クルー達からの応援を得た。
本人はそれに気付いていないらしい。
動機がそれならペンギンはウイを好きな訳ではないのだろう。
ローはその状況に安堵して良いのか頭を悩ませた。
この様子では、これまでも地下の彼らの部屋では自分の言動は面白おかしくネタにされていたのだろうという事が明白であったから。
扱いに慣れぬ気持ちを面白がられるのは、ローにとって望む所ではない。
しかしその種を撒いたのは紛れもないロー自身。
ローはこの時考えを改めた。
自分は思う程出来てはいないと。
「でもマジでなんで急にそうなっちゃったの。俺がウイにちょっかい出すのなんて今に始まったことじゃないっしょ」
「…分かったからもうやめろ」
はーい、と本当に分かっているのかふざけた調子で返事をするペンギンはさておき。
で?なんで?と問いかけて来るクルー達には、自覚した経緯を話したくはなかった。
あそこまで噛み砕いて言われるまでウイへの気持ちに気付かなかった自分は、今思えばダサい。
ダサ過ぎる。
「それよりも…昨日ギルドで聞いてきた話、まだ伝えてなかったな」
自分に都合の悪い話を逸らそうと思ったのも事実だが、伝えておかなければならない事があるのも事実。
クルー達も昨日、造船所や次の島に関する情報を得てきたらしく
それを今交換した。
それによれば次の島に、あまり大きくはないらしいが造船所はあるらしい。
加えてグランドラインで造船所と言えば、ウォーターセブンにあるガレーラカンパニーが最も腕も良く、高い技術を持っているらしいということを知った。
確かウォーターセブンは新世界の近くに位置する島。
このルンルンバースからの距離も遠く、ベポの話ではここから順当にログを辿っても辿り着く島ではないらしい。
「さて、どうしたもんかね」
「適当な船作るくらいならすげーの作って貰いたくね?」
「でもウイが…」
ウォーターセブンまでこの船に乗せて貰うとすれば、一緒に居られる期間は長くなるものの
ウイの海賊との繋がりを知られるリスクは増える。
かといってウイが興味を示したブラーヴェは、それを考慮しても彼女の酒を売り続けられるだけの知名度が今はない。
「どうすんの?キャプテン」
項垂れるクルー達を前にしたローの頭の中で、ソニアの言葉が甦った。
『覚悟を決めるか身を引くか、ちゃんと考えてね』
結局はソニアの想定通り。
またしても自分以上に状況を把握していた彼女に無性に腹が立ったローは、無意識に舌打ちを漏らした。
「アイツに頼むか。ウォーターセブンまで。」
このまま次の島で#Name1#を無理矢理仲間に引き入れる。
それは即ち彼女に商人や職人としての道を諦めろと言うことになる。
これが叶ったとしても彼女は良しとしないだろう。
それは避けるべきだ。
となると今取れるべき方法は、彼女が守りたいと言ってくれたその約束の期間の延長。
海賊と航海をするリスクについて情報を知った彼女がこれに頷くかは分からない。
ウイは一刻も早く海賊と手を切り、ブラーヴェで職人として活動したいと思っている可能性も否定できない。
「ウイがどう出るかは知らねぇが。それしかマシな策ねぇだろ」
何だかんだで、こういうときのローの決定には黙って従うのがハートの海賊団。
ロー以上に状況を把握出来、最善の手を打てる人物がいないのが実情なのだが。
「あとね、やっぱりここへ来るまでの航海が安定してたのはフリーウィングのせいだよ絶対」
ベポが酒場で同じくログが溜まるのを待っていた海賊から仕入れて来た情報によれば
どの船も嵐や雪、竜巻や突風に苦しめられ、命からがらこの島にたどり着いたらしい。
「運が良いとかじゃ片付けられない。フリーウィングがウイを守って安全な航路を進んだんだ」
「良いネタ仕入れたじゃねえか。それは使える」
ウイを乗せたフリーウィング号でなければ、グランドラインの航海は危険が伴う。
船を新調する予定の彼らにとって、渡る海の環境が過酷なことは喜ばしいことでは決してない。
「適当な船作らせてもすぐ沈むだろ。そんな腕の良い造船所なら…潜水艦でも作らせるか」
海中を進むのならば、天候の影響も少なく誰かが行きたいと言っていた水族館の約束も叶って一石二鳥だ。
我ながら名案を思い付いたものだとローが本格的に次の船を潜水艦にしようと考え出すと
ぼそぼそとそこに呟きが聞こえた。
「どんだけぞっこんなの。水族館に行きたい彼女に潜水艦でプライベート水族館をプレゼント!やべー…超やべー」
「良いんじゃないの?潜水艦高そうだけどそのお金稼いでくるのどうせキャプテンだし」
シャチは無言で白旗を降っている。
どこからそれを持ち出したのか。
「航海の面を考えても安全性は格段に上がる。不要な戦闘も避けられる。別にウイの要望を叶える為じゃねぇ」
「そうだよねー。ウイを乗せてしょっちゅうドンパチやるわけに行かないもんねー」
「愛する女を危険な目に合わせたくねぇってか。やべー。超やべー。ご馳走さん」
シャチは依然として無表情で白旗を降り続けたままだ。
こいつの反応が地味に一番腹が立つ。
何を言ってもウイに結びつけては冷やかすクルー達にはもう呆れるしかないが
実際それ抜きで潜水艦というのは名案だと思う。
#Name1#がどう出るかはさておき、ガレーラカンパニーで船を作りたいという理由としては
これはウイも納得するだろう。
「流石に事が事だ。これは俺が話すよりお前らも居た方が良いだろ」
「そうだね。ウイ早く帰ってこないかなー」
時計を見れば時刻はもうじき正午。
今帰って来ねぇならウイはブラーヴェの奴らと昼飯を食ってるんだろう。
そう思うと、誰かを連想する時計の秒針に
苛立ちが込み上げた。