5-2



「ただいまー!ってあれ?皆揃ってリビングいるとか珍しい」


ブラーヴェから戻ったウイは、基本的に好き勝手過ごす事の多いハートの海賊団が勢揃いしている事を不思議に思った。


「おまえに話がある」
「なにー?」


真剣な表情を浮かべる彼らになにかただならぬ物を感じとったウイが、キョロキョロと目を泳がせる。
話の内容に検討がつかない割には様子がおかしい。
挙動不審だ。


「な、なに?どしたの、怖い顔して」


全員で話すとは言え、それはローからだろうと三人は固い表情のまま無言を貫く。
役目を自覚しているローは切り出そうとは思うものの、行動が怪しすぎるウイを観察するように凝視した。

暫し続いた沈黙に、ウイが突然頭を下げる。


「ごめん!面白いかなって…ほんの出来心だったの!」


急に謝りだした彼女に、今度は海賊団の方が疑問符を浮かべる。
これは何への謝罪だろうか。


「でもパジャマだから良いかなって…そんな怒ると思わなかった。ごめんね、ペンギン」
「…お前、俺に何したの」


謝られた張本人は覚えのない謝罪に眉を潜めそれを問いただした。


「え?ペンギンのパジャマの背中に、勝手に負け犬ってプリントしたの怒ってるんじゃないの?」
「てめぇ何してくれんだよ」


それに気付いていた周りも
ペンギンが気付いていない事も、本人に許可なくウイがそれをした事までは知らなかったようだ。
とは言えこれがそれへの説教ではないらしい事を察したウイは再び考え込む。


「じゃあシャチが美味しいって大事にしてたお酒、ついうっかりほとんど飲んじゃったのがもうバレた?」
「は!?お前あれ全部一人で空けたのかよ!?」
「全部じゃないし!まだちょっと残ってるもん」


今晩飲もうと思ってたのにと項垂れるシャチはそれに気付いていなかったようで、またもやハズレらしい。


「じゃあ、ベポの毛むしりとってクッション作ってた方?」
「最近やたらとブラッシングしてあげるって言ってたのはそのためだったの!!?」


なんかやたら痛いと思ったんだよ!とベポが自身の毛を守るように両腕を抱えた。

彼らの雰囲気を説教されるものだと思い込んで止まない彼女は結構
色々やらかしてるらしい。





「てめぇ…俺にも何かしてンじゃねぇだろうな」
「いやしてないよ!まだ!ローガード固くて!」


へらっと笑う彼女の口振りでは、それを試みようとはしていた事が伺える。
ローは頭を抱え盛大なため息を吐き、被害者達も呆れ顔だ。

もう自白しきったらしいウイは後ろめたい事がなくなったのか、今度は不本意だとプリプリ怒りだした。


「じゃあなに?なんで怒ってるの。意味分かんないんだけど」


これが説教と思っているのは彼女の勘違いなのだが、この悪戯っ子には寧ろ
それは本当に必要かもしれない。
話の内容が自分の思い当たる事とは別件であったことにすっかり無罪放免となった気でいるウイにはもう、反省の色は微塵もなかった。


「…お前に頼みがある」
「頼み?なに?改まって」


やっと勘違いに気付いた彼女はきょとんとした顔で彼らを見回す。
真面目な顔で勢揃いして頼む程だ。
それは何か重大な事なのではないかと、流石のウイも姿勢を正す。


「次の島に造船所があるらしい」
「え…本当に?意外と、早かったね…」


それを聞かされたウイは、僅かに動揺しその顔を曇らせた。


「俺らが何の苦労もなくここに着けたのは恐らく、この船のせいだ」
「船って、フリーウィング?」


それに頷くローに、どういう事かとウイは説明を求める。


「他のヤツらは皆、有り得ねぇ程の異常気象に揉まれながらどうにかここに辿り着いたらしい」
「まぁ…フリーウィングは今までも私を助けてくれてたし。それはあるのかもね」


それがどうしたのかと、ウイは釈然としない顔を浮かべていた。
話に関連性を見いだせない。
結局頼み事とは何なのだろうと。


「天候に左右されねぇ船が欲しい。新しい船は、潜水艦を検討してる」
「…なるほど!良いね!!格好いいじゃん潜水艦!」


潜水艦という言葉にウイの顔がぱあっと明るくなる。
中々お目に掛かる事もない程、それは珍しいものだった。


「で、だ。潜水艦なんて特殊なもんそこらの造船所で作れる代物じゃねぇ。ウォーターセブンにあるガレーラカンパニー、そこならそれを作れる」


長い前置きの後、ローは本題を切り出した。




「ウォーターセブン?」
「前半の海の奥に位置する島だ。ここからログを辿っても着けねぇらしい」


じゃあどうすんのよ、とウイが最もらしい疑問を口にする。


「エターナルポースっていう特定の島を指し続ける特殊なログポースがあるらしいんだ。だからまずはそれを探そうと思ってるんだけど…」
「なら大丈夫じゃん」


彼らとウイは、話が噛み合っているように見えてそうではない。

いくら彼女が少しズレた思考回路を持っているとはいえ、ここまで言えば頼み事の内容に検討が付くだろうと
彼らは返事を待ち黙った。
しかしウイはウイで結局頼み事は何なのかと、話はまだ続くものだと思っている。



暫しの沈黙の後、ウイの状況を理解したローが一応それを改めて口にした。


「つまり。俺らは…お前にウォーターセブンまで乗せて貰えねぇかって事を頼みてぇんだが」
「え、なんだそんなこと?最初から乗せてくって言ってるじゃん」


何でもないことのようにけろっと答えるウイには、ハートの海賊団側も拍子抜けだ。


「あのさ、お前俺らを乗せたままだと色々やべぇんだろ?次の島に造船所あんのにそんな遠くまで頼んで良いのかって、それ聞いてんだけど」
「だって次の島じゃ潜水艦作れないんでしょ?じゃあそこだめじゃん」
「でも!ウイに迷惑が!」


仲間にしたいと言いつつ仕事を頑張れと言ってみたり、頼んでおいて自ら遠慮したり
彼らの思いにはある一貫性は行動に表すとまるでそれが欠けて見える。
思いの全てが見える訳ではないウイは今回もまた、その矛盾に頭を悩ませた。


「あぁもしかして。なに?皆私のこと心配してくれてたの?」


誰一人頷かないものの、乗せて欲しい彼らを慎重にさせるのは
それ以外ないだろう。


「ソニアの話、ローから聞いたんだよね?確かに…それも事実なんだと思うし、ブラーヴェの話はすごく素敵だなって思うよ?」


ウイの言葉に彼らの表情が一斉に曇る。
そうなのであればやはり、彼女にとって海賊といる事はマイナスでしかないのだから。



「でも私はそれでも、皆が作りたい船を作れる造船所まで連れていきたいって思ってる」


例えそれで、商人としての道が閉ざされたとしても。


そこは口に出さない。
言わないから心配してくれたんだよね、皆は。

言わないけど
言えないけど
私はそう、思ってるよ。


まだ一緒に居たいの。
仲間にはなれないけど。
一緒に居られる期間が伸びたって聞いて、私は嬉しかったの。

いつ造船所のある島に着いてしまうか分からないこの不安定な状況は、正直怖かった。
次の島に本当にあったらしいけど
それは、別れの時はもう…いつ来てもおかしくなかったから。


「本当に良いのか」
「良いって言ってるじゃんしつこいな」


気に入らない事なら睨んで何とかしようとしちゃう普段のローはどこ行っちゃったんだろう。
私の事を思っての優しさだからそこは嬉しいんだけど
こんな雰囲気は私、苦手なんだ。


「って事で昨日の麻雀のヤツこれでチャラね!あと皆もさっきの件!許して貰ってあげるよ!特別ね!!」
「「「ふざけんな」」」


お見事。


綺麗にハモった三人は皆揃って凄い顔で睨んでるけど、感謝して!ってドヤ顔をお見舞いしてやったらそれは少しずつ
優しい笑顔に変わっていった。


「ローも文句ないでしょ?」
「また勝ちゃ良いんだ。構わねぇ」
「そう何度も勝たすか!」


べーって、舌を出した。
ローももうあの深刻そうな顔はしてなかった。


これで良い。
こんな感じが私は好き。


「最悪そうなる覚悟出来てんなら…良くねぇか?海賊になっても」
「それとこれとは話が別です。ロー達もちゃんと考えてって、言ったでしょ?」


一緒に居たいよ。
本当はずっと。

でもごめんなさい。
それは出来ない。

ありがとう、何度も誘ってくれて。
何度もこんな嬉しい思いさせてくれて。


「ぃよっし!やるか!」
「あ?何をだよ」


この話に区切りを付けようと意気込む。
でもやりたい事があるのも本当。


「新作のお酒の改良!今日初めて会ったブラーヴェの酒職人に色々聞いてきたんだ!」


皆と一緒にいたい気持ちと同じくらい、仕事が今楽しいの。

頭の中であれこれ試行錯誤してる事を実際にしてみたい。
やってみたい事が多すぎて、早くしなきゃ忘れちゃう。






destruct at reality.