17-33
勇気出して言葉にしなくて本当に良かった。
そんなの聞かれた日には本当に穴掘って埋まれる…!
あの覗き常習犯達はどうにかとっちめるとして、これからは気を付けねば…。
凄い微妙な顔を見合わせた私達の間には、さっきの良い雰囲気なんて跡形もなく消えてて
ただ乾いた笑いを浮かべ合って食堂へと向かった。
食堂に入ると、ふわりと鼻先を擽る良い匂い。
ご飯とかじゃなくて、…これは石鹸系?
その香りを漂わせそうな人物を探せば、アンさんはジャンバールと奥のキッチンでお昼ご飯の準備をしてた。
アンさんじゃないなら誰だ?
「ねぇウイ、四足歩行より二足歩行の方が効率良いの知ってる?」
「?へー。そうなんだ」
そんな中要領を得ない謎発言をするベポが近寄ってきた。
強くなったその香りを不思議に思いつつ相槌を打つ。
「消費するエネルギーが格段に違うから、二足歩行の方がそれだけで賢いってことだよね」
「…どうした急に」
謎でしかないその話。
ん?
「ベポお風呂入った?…なんかいい匂いする」
「さっき組手したから入ったけど」
まじまじと見てみればなんだか、その毛並みはいつもより真っ白でふかふかしてる気がしなくもない。
そこに手を埋めてみれば、見た目以上の触り心地。
「なんか凄い気持ちいけど…ベポっぽくない」
「…。バカみたいに緩みまくってるそのだらしない顔は凄いウイっぽいよね」
な…
なんだと?
清々しい笑顔はその真っ白い毛並みもあいまって眩しいくらい。
でもそれに誤魔化される事のない嫌味は地味に胸を抉ってくる。
「あ。筋トレも兼ねて午後から肩車したげよっか?ウイ好きでしょ高いとこ」
「え!やるやる!楽しそう!」
突然の申し出を二つ返事で受け入れた。
私も楽しみだけどベポもなんだか嬉しそうで
何だか変な気はしたけどまぁいっかって深く考えない事にした。
お昼ご飯食べた後、約束通りベポのスクワットに重りとして付き合ってたんだけど
「ねぇ、鍛練するのにこのリボン要る?」
「これ?今日のラッキーアイテムだから」
ふんふん言いながら筋トレに励むベポの片耳に付けられた赤いリボン。
可愛いけどなんかやっぱり…ベポが変だ。
日が傾いて来た頃、久しぶりに麻雀やりたいって言ってみたら
皆が今は麻雀よりポーカーだ!って言い張って。
まぁ、ポーカーも好きだしそれに乗る事にした。
ポーカーって一言で言っても色々ある。
どれをやるかって話になったら、たまにはドローポーカーやろうって事になった。
クラシックなポーカーだよね。
悪く言えば古くさいっていうか。
配られた5枚のカードで役を作って競うこのゲーム。
一度目の配牌を見て、駆け引き。
その後自分の采配でチェンジする枚数を決めて、そこからまた駆け引き。
コールは、勝負に乗るよって意味。
フォールドは、勝負に降りるよって意味。
挑んでも勝てなさそうな手札の時、賭け金が上がる前に参加費、つまりアンティだけを支払ってその場を凌ぐ時に言う発声。
そしてレイズは「俺勝てるからこの勝負、賭け金上げようぜ!」って意味。
純粋に使うなら持ってる手札が強いよって事だけど、ここが駆け引きの面白いところ。
たとえブタ、つまり役なしの勝ち目のない手札でも
使いどころによってはこれは
相手を乗せる事が出来る。
手札が強いに越したことはないんだけど、やりようによっては役なしのブラフでも戦える訳よ。
引きの強さと駆け引きが重要なドローポーカー。
麻雀とは違って頭を使うよりも駆け引き先行のこれは、結構嫌いじゃない。
「あなた達…本当に好きね、賭け事」
「アンさんやらないの?」
手札を配られて、さてどうしようかと思考に耽ってる時
後ろから聞こえてきた呆れたような声に振り向いた。
「私わからないもの」
「…アンさんうまそうな気がするな。ねぇこっち来て!ちょっと一緒にやってみよう!」
アンさんはなんか…こういうの凄い上手そうな気がする。
知らないからってやらないのは勿体無さ過ぎる!!
早く早く!って手招きすれば
嫌そうな顔しながらも隣に来てくれたアンさんに手札を見せた。
「まずは純粋にルール説明ね!役っていうのが強い方が勝ち!同じ数字、連番、更に柄が揃ってる、それだとどんどん強くなる」
「ふーん…」
役の説明は理解して貰えたっぽい。
でも、面白いのはここからだ。
こういう勝負事は知らない人とやるのと、知ってる人とやるのではまるで違う。
知らない人が相手でも、どういう癖があるのかをより早く見極めるかが鍵になるんだけど。
「例えば、ローは性格悪いしタチ悪いから置いといて」
「おい」
恨みがましい目で睨まれたけど事実だ。
それをさらりと受け流す。
「エイジくんとかは良い手札か悪い手札か、見てればわかるからそのまんま行っちゃって大丈夫。最初の手札がブタなら少しも負けたくないから即刻降りてくるよ」
「え!俺そんな顔に出てるっすか!!?」
丸見えだよ。
最初に配られただけで降りちゃうのは牌効率で考えたら勿体無さ過ぎる。
「シャチとかはそこから若干の勝ち目を狙ってくる。最初の手札がブタでもコールして全取っ替えしてくるタイプ」
「…やり口説明されんのって何か新鮮だな」
毎回同じことしてるから皆わかってると思うけど。
でもこのシャチのやり方は面白みに欠けるけど一番無難なやり口。
「ベポはちょっと奇天烈。10、11、13とか持ってるとストレート狙って二枚チェンジとかしてくるタイプ」
「要はポジティブ過ぎるって事ね」
「チャンスでしょそれは!」
やっぱりアンさんはこういうの向いてると思う。
ブタかストレートかって局面で、残り何十枚もあるカードで12と9か1を引ける確率なんて極稀だ。
「麻雀ならローが一番手強いけど、駆け引き重視なポーカーだと実はペンギンが結構曲者」
「まだよくわからないけど。なんとなく納得だわ」
「それはどうも」
自分だけじゃなく相手の牌効率まできっちり計算しきって挑まれるなら、ローの方が絶対手強い。
ローも駆け引きが下手な訳じゃないから。
でも
ペンギンはただの騙し合いになれば天性のセンスを持ってると思う。
毎回やり口を変えられるのはそれだけで推測しにくいのに、読まれてる事前提の餌をチラつかせて更にその裏まで読んで勝負してくる。
「ペンギン相手に大一番で挑まない方が無難。貰った!って思う時ほどしてやられる」
「なるほどね。…確かに面白いかもしれないわ」
ふんふん言いながら手札をじっと見つめるアンさんは、私の手札を眺めて
コールの全チェンジで合ってるかって耳打ちしてきた。
ブタのこれならそれが間違いなく無難だ。
ポーカーは夜更けまで続いた。
アンさんはやっぱりこういう駆け引きが上手で
何局かやる内にベポを余裕で負かせるくらいになってた。
流石にローとかペンギン、ジャンバールには負けてたみたいだけど。
私も勝ったけどね!勿論!
お酒も入っての久しぶりの賭博はただ楽しくて。
でも訓練疲れかお酒に飲まれたかはさておき
日付が変わる頃には結構な人数が寝落ちしてしまってて、その場はお開きになった。
解散した後、当たり前のようにローがフリーウィングに着いてきてくれるのが嬉しかった。
何だかんだでゆっくり二人で話せる時間もなかった。
今日はドレスローザでの事とか聞けたら良いなって密かに楽しみにしつつお風呂に入ったの。
眠るまで私の知らないローの話を聞けるって思ったら、凄くわくわくした。
ローはきっと話してくれるし、大好きな人の知らない部分を知れるって
ただそれだけで嬉しい。
そんなに長風呂したつもりはなかったんだけど
お風呂から上がればローは既にベッドに入って漢方図鑑を読んでて。
ふとした時に帰ってくる場所に誰かが居てくれる事が
それが大好きで仕方のない人なのが幸せ過ぎて頬を緩ませた。
「結局読みたいんじゃん。図鑑」
「まぁな」
ページを捲りながらの素っ気ない返事。
でも昼間のそれとはまるで別物だった。
返ってくる返事が簡潔なのは、怒ってるとかじゃなく本に没頭してるだけだって
ちゃんと知ってるから。
でもね
「さて!寝よう!」
ここから先は私の時間。
本だろうと、それを邪魔させはしない。
ローの手から図鑑をひったくって、もぞもぞと腕の中に潜り込んだ。
「ねぇ、私ドレスローザの話聞きたい。ドフラミンゴに勝ったのは新聞で見たけど、実際何があったの?」
私が知らないローの物語。
それがこれまでローがずっと目標に掲げてきた出来事だから尚更興味は疼いた。
けど
いつまでたってもそれが始まる事はなくて、どうしたんだろうってローの顔を見上げてみる。
それに気付いたローが、渋い顔しながら今まで聞いた中で一番深くて重いだろうってくらいの
ため息を吐いた。
「別に話すのは構わねぇ。…だが今じゃなくても良いだろ」
「え?…それは別に良いけど」
あからさまに嫌な顔をしたローに、無理矢理今それを聞かなきゃいけない訳なんてなくて。
でもちょっと楽しみにしてた。
だってハートの海賊団の皆は私の知らないローを沢山知ってる。
だからね、別行動してた時のローを知れたら
私は特別って思えるような気がしてたんだ。
「そういやおまえ、体はもう平気か」
「え?うん!もう大丈夫だよ」
そんな些細な事を気遣ってくれるのが嬉しい。
今朝言った私の言葉をローが覚えててくれた。
なんだかほくほくした気持ちになりながら、ドレスローザの話はまた今度でも良いかなって思いだした。
だって結構デリケートな事だし。
ローも色々気持ちの整理みたいなのが必要なのかもしれない。
「じゃあローのちっちゃい頃の話──
「そういう意味じゃねぇよバカ」
腕枕から更に内側に入り込んで、ちょっと首は居づらいんだけど
その厚い胸枕を借りてたのに
そこをすり抜けて行ってしまったローは気付けば上に覆い被さってた。
「えっと…勘違いじゃ、なければ…昨日したよね?」
「昼間欲しがってたヤツが言うことか」
やっぱバレてたか。
…確かにそれはそうなんだけど。
でも折角ゆっくり二人になれたのに。
「昨日は俺が付き合った。だから今日はおまえが付き合え」
「えー…っと…」
ローが付き合ったってのは、初めてだった私に合わせてくれたって事?
確かに気遣われてた感はあったけど
「あれで満足出来る訳ねぇだろ。何年待ったと思ってんだ」
求められたいと思う気持ちはいつもある。
でもね、それって限度があると思うの。
なんだかそれを軽々越えてくるようなただならぬ気配を感じて怖じ気づく。
これから起こるだろうちょっと過酷そうで、更にはもう逃れられなさそうな愛情表現を思って
始まりの合図に唇を寄せた。
(次項より裏描写有の為鍵付きです。飛ばして読んでも問題ありません)