17-50
「ロー待って!!思い出した!!花だ!花でしょ?リンゴの花!!」
駆け寄って、その背中に抱き付いた。
もう大分慣れてきた大好きな人を抱き締めるこの感触。
それにまた幸せを感じながら後ろ頭を見上げた。
「これ…あの時のこと覚えててくれたんでしょ…?」
振り向いたローに見せるように耳にかかったリンゴの花を指差した。
でもその顔はもうとんでもない程にうんざりしてて
でもなんでかな。
わかっちゃう。
これ、照れてる。
「ねぇ!あの時からもう私にプロポーズしてくれようと思ってたの?あんな前から?」
「すると思ってなかったって言ったろ、バカ」
ふいっと顔を背けてしまったローは、私が飛び付いた衝撃で止めてくれた足をまた進める。
でも今度は、荷物持ってない方の手を然り気無く繋いでくれてた。
なんで私本当に、こんなに想ってくれる人の気持ちを疑っちゃったんだろう。
ロー嘘下手っぴだよ。
ド下手くそだよ。
もしかしたらカタチは違かったかもしれないけど、きっとローは絶対に
私にリンゴの花を贈ってくれようとしたでしょう?
「えへへ。あ!ねぇねぇ、これ何て宝石?緑色だけど…エメラルドじゃないよね?何か中央に光の筋?みたいなのもある!見て!綺麗!!」
「船に戻ってもっぺん見てみろ」
指輪に鎮座する大粒の宝石は本当に綺麗で
見せびらかすようにそれをローの前に突き出した。
なんだか素敵過ぎて、自分の手じゃないみたい。
なんだろ。
宝石図鑑また漁らなきゃ!
こんな素敵なプロポーズしてくれるローが選んでくれたこの石の意味を、早く知りたい。
「え?そしたらわかる?なんで??」
「…言っとくが、それに意味はねぇぞ」
?
"もう一回"見てみろってことは、見るのはこの指輪な筈。
図鑑のことじゃないよね?
何回だって見返しちゃうくらい綺麗なのに、船でまた?
言われなくても見ちゃうと思うけど。
なんだかさっぱり訳がわからないし、これの名前も教えて貰えない。
更には"意味がない"?
石言葉は関係ないって事かな。
なんだろ。
「でも楽しみー!ねぇ見て!ほら!綺麗!!」
「さっきも聞いた」
しょうがないじゃん
何度だって見せびらかしたくなっちゃうんだもん。
「お!おかえんなさい!俺らもさっき戻ったとこっす!もう出ます?」
「ウイさんその花どうしたンすか??似合う似合うー!」
船に戻ると、甲板にはまだ中に運びきれてねぇ荷物の山。
外に出ていたクルー達が戻ってきた俺らに声をかけてきて
目敏くウイの髪に挿したリンゴの花を見てはそこに触れてきた。
やめろ。
今のコイツにそんなパス出すんじゃねぇ。
「ねぇー!!ちょっと!見て!聞いて!ほら!ねぇ!!」
「「「「おおおおお!!!!」」」」
言わんこっちゃねぇ…。
顔の脇にすちゃっと左手の甲を構えたウイの有頂天マシンガントークの矛先は
照れや気疲れで適当な相槌しか打てねぇ俺からクルー達へと移った。
「え!!?なにそれプロポーズ!?されたの!?」
「今!?今日!!?マジで!!?やべぇ!!」
「そうなのー!!見て見て!これすんごい綺麗でしょ?」
俺のそれとは比べ物にならねぇ程ウイを気分良く乗せるクルー達のリアクションに
でれでれと緩みまくった顔でどんだけ見せたがるんだと突っ込みたくなる程に左手の薬指を見せて回る。
コイツは躁鬱か。
躁鬱なのか。
まさか断られるとは思ってはいなかったが、途中変に表情を暗くしたウイの反応には結構肝を冷やした。
また何かをややこしく考え過ぎてドツボにハマるスイッチを、押してしまったんじゃねぇかと思った。
"これはお前だ"。
あれは正直、衝撃的過ぎる被害妄想に内心笑った。
中々のセンスだ。
リンゴの花の話を忘れてたらしいにしても、ンな受け取り方をする思考回路はぶっ飛び過ぎだろう。
有り得ねぇが、俺がもしウイに別れ話を切り出すとしても
そんな発想はとても思い付きそうもない。
だが結果喜んでるみてぇだから、それは良かった。
あれも気に入ってくれたようだ。
未だにすげぇテンションでクルー達に惚気まくるウイを、呆れながらも微笑ましく思いながら眺めてた。
「え、でも言っちゃアレっすけどこんな島で良かったンすかキャプテン。もっと夜景が綺麗な島とか、白い砂浜が有名なとことか、あったじゃないっすか」
「ここが最高の最強ですー!ここ以上の場所なんてありませんー!!」
まぁ理由は教えてあげないけどね、と若干腹立つ口振りとドヤ顔で言ってのけたウイにクルー達が教えろと詰め寄る。
「ローと私だけの秘密だよ!でも綺麗な夜景よりも海よりも、どんなとこより絶対一番嬉しかった!!きゃー!!!!」
「えー!!聞きたい!聞きたいっす!!!」
そこは教えてやんねぇのか。
ただ、我ながらこっ恥ずかしい事をしたとは思ってる。
それをクルー達に話して冷やかされるよりも、何よりも
一番嬉しかったと言うウイの言葉の方が気恥ずかしくもなる気がして、口元を押さえた。
「おまえもその辺にしておけ。…全員戻ってんなら出航しろ」
「「「「アイアイ!キャプテン!」」」」
出航準備を手伝いながらも、未だデレデレしてるウイの表情から堅さは消えていて。
それを喜ばしくは思うものの、先を思えばそう暢気な事も言ってられねぇ。
ひと山越えたが、まだここからだ。
目を輝かせて喜ぶだろう事と、絶対に面白くねぇと言わんばかりにむくれるだろう事。
そしてその後は恐らく…そんなもんじゃ済まねぇんだろうな。
船が岸壁から離れても
クルー達が荷物を運び終え中に引っ込んでしまっても
ウイは一人船縁に肘を付きサグアの島を眺めていた。
時折左手に目を落とし、ふっと笑ってはまた島を眺める。
そこまで喜ばれると、前後の気疲れなんてもう忘れてでもしまったんじゃねぇかって程にどうでも良い。
また何か、してやりてぇな。
そう思いながら
未だニヤついてるだろう小さな背中を眺め続けた。
そんな静かな時間はベポが潜水を知らせに来るまでずっと、続いた。
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