17-49
その後運ばれてきたジュースは本当にリンゴそのものって感じでどれも美味しくて!
一口飲んで味を覚えてからの利きリンゴジュースに挑戦して、何個か間違ってしまったそれにローがニヤッて笑ったりして
そんな楽しくて幸せな時間を過ごした。
自分が好きなものが溢れてる場所に、大好きな人に連れてきて貰えるって
凄い事だよ。
ただ楽しいってだけじゃなく、ここに居るのがローの気持ちあってこそって思ったら
更に嬉しくなっちゃった。
そのせいもあってかお土産買いすぎちゃったんだけどね。
なんだかんだでローも挑戦した利きリンゴをポーラータングでもやりたいなと思って。
ベポとかアンさんが騙されてくれそうなヤツをいくつも混ぜて色んな品種のジャムを買い漁った。
お金なんて私だって余る程持ってるのに、それをローは全部買ってくれて
それを咎めたらこういう時は男が出すもんだろって
申し訳ないとは思いつつも、なんだかそれがこそばゆくて嬉しかった。
直売所を出た後に、散策出来るらしい農園の方を歩いて行こうって誘われたの。
お土産入った袋、瓶詰めのジャムとかいっぱい入ってて結構重たいのに
それも然り気無く持ってくれちゃうローにキュンとした。
なんだろう。
そういうデートの時の男の人のエスコート云々ってよりも
ローが私にそういうことしようとしてくれる気持ちがただ、嬉しかった。
農園は品種ごとに分かれてて、私が知ってるやつのとこ通った時はあれこれウンチクを披露しながらそこを歩いたの。
シードル用に使ってるやつの所とかは結構まじまじと木に実るそれを凝視してたローが、なんだか可愛いって思えて仕方なかった。
収穫期ゾーンから抜けて、まだ実にならない花を咲かせてるところに来た時
次の所に行こうと思ったのに後ろにいるローが動く気配はなくて。
その可憐な白い花に目を止めて立ち止まってるのを、ローも花に心奪われたりするんだなって不思議に思いながら見てた。
でもね、林檎の花って生では初めて見たけど凄く綺麗なの。
ワノクニでは桜って花が咲く季節に、それを愛でながら飲み食いする楽しい文化があるって聞いたことがある。
その桜にも似てる気のする林檎の花は、この青空の元で
緑色の葉を背景にこれでもかって位に咲き誇ってた。
「おまえに、話がある」
「え、なに?」
うっかり適当な返事をしてしまってから
そう言って振り向いたローの顔が結構真剣めだった事にびくりと体が縮こまった。
…なに?
私何かしたっけ…。
この幸せ過ぎるご褒美タイムはもしかして、最後だからとかだったりするんだろうか。
あれから頑張って私なりにだけど色々改善しようとしてたつもりだったけど
鍛えてるとことかはなんでか毎回ローにバレてしまってたけど
それじゃ足りなかった?
それとも、…そんな事しても手遅れってくらい失望させてしまった?
ローは優しいから。
無愛想でも分かりにくくても、それでも優しいから。
言いにくそうに言いよどんでるのを見てたら
こんな私を突き放す時すら躊躇ってくれてるっていう事に、嫌だけど更に心が痛んだ。
短い間だけだったけど
もう既に有り得ない位の幸せをあなたに貰ったよ。
喪失感も絶望感も半端ないけど
でも、こんな時まで私なんかの為にその心を悩ませないでって
最後の最後まで迷惑かけてる自分が更に嫌になった。
嫌なのに
本当は全力疾走でこの場から逃げてなかったことにしたいのに
そんな勇気もなくて
この場から動けずにいる私が思った事は、それだった。
「おまえが欲しいものはなんでもやる。持ち合わせてねぇもんだとしても、おまえが望むなら盗んででも奪ってでもくれてやる」
そう言ってローは、林檎の花をひと枝手折った。
なんだかよく、言ってる意味がわからない。
だから身を引けと、そういう事か?
他のものなら何でもやるから
どうか私から解放してくれって、そういう意味なんだろうか。
少し空いてた距離は詰められようとしてて
最初の一歩が踏み出された時は流石にわざとらしすぎるくらいびくりと肩が振れた。
でも
一歩ずつ近付いてきたローは私の耳にその枝を挿して髪を撫でてくれた。
ますます意味がわからなかった。
「だからおまえのこれからの人生、…全部俺によこせ」
見上げてた筈のローの顔が、私の目線より下に移動する。
ローは跪いてて
どこから出したか分からない小さな箱から、緑色に眩しく輝く石の付いた指輪を私の左手の薬指にはめてくれた。
「…え?」
「流石だな。もっと気が利いた事は言えねぇのか」
重みを感じる程の大きな宝石。
それを薬指にはめた手を握ったままのローが、こっちはこんなこっ恥ずかしい真似してんのにと目を逸らして舌打ちをした。
え?
ちょっと待って。
これ、プロポーズって
やつですか?
「────っ!!!」
「遅ぇよバカ」
途端に胸が熱くなる。
色んな気持ちが込み上げて来て、心が忙しすぎて
色んな嬉しさを理解して噛み締めるより先にまず
涙が出てきた。
「え…なん、で?」
「不満か」
照れてるのか不機嫌なのか分からない。
でもこれ以上ないって位ローの眉間には皺が寄ってる。
え?
本当になんで?
だって私、全然上手く出来てなかった。
失望しかさせてない。
こんな私とこれから先も一緒にいるメリットなんて
自分で言ってて悲しくなるけど
ローには何一つ、ないじゃない。
それを出来れば言いたかった。
それを聞いて、返ってくる言葉を聞きたかった。
でも嬉しくて、嬉しすぎて流れてくる涙は上手く喋らせてくれそうもなくて。
そんな私を見つめるローの目がいつもの優しいそれな事に、こんなサプライズな事してくれちゃう事に
本当に嬉しすぎてまた涙が溢れた。
「本当に…私で、良いの?」
「…別にこれがなくても散々言ってただろうが」
左手の薬指に填まる宝物を握りしめながら、ローは本当に後悔しないかなって思った。
確かに何度も求めてくれてはいたし、ローは優しい。
私の事考えて怒ってくれたりもした。
でももう一回、それを今ちゃんと言葉で聞きたくて。
「そうなんだけど…でも…」
本当に、本当に良いの?
私こんなんだけど
今だけじゃなくこれから先もずっと私といるって約束をしてしまって、本当に良いの?
不安な気持ちが全く隠せてない顔で答えを待つ私を、ローは呆れたように見上げてた。
「…俺と、結婚し…テ下サイ」
跪いたまま、途中までは私の目を見てそれを言ってくれてたローが
耐えきれなくなったのか俯いてしまって
しかも何だか最後はカタコトだった。
そうだよね。
ごめんね。
キャラじゃない事させてるよね。
ローがこんな事してくれるのも、言ってくれるのも
きっと恥ずかしくて仕方ないよね。
そんな事を私にしてくれるって事が、更に嬉しさを増させる。
だってローだよ?
あのローだよ?
ローは身内には優しいけど、それはこういうんじゃない。
絶対、しようとなんて思わない事だろうに。
こんな私で良いのなら。
私がローにあげられるものなんて何もないけれど。
あなたが私を欲してくれるのならば
私のこれからの残された時間を、日々を
全部ローに捧げたい。
いつか、命が尽きる時まで
この人の傍にいたい。
その瞬間も、あなたに看取って貰いたいな。
あなたに惜しまれながら幕を下ろせる人生ならば、これまであったどんな事も帳消しになってしまうくらい
素敵な人生だったって
そう思える気がする。
「私で良いなら…あげるよ全部。…寧ろ、貰って…下さい…!」
なんで、疑ってしまったのかな。
一瞬でも。
ローは全力で愛を示してくれてた。
でもそれが
優しいから、本当は嫌になったのを言わないでくれてるだけだって疑ってしまう自分がどうしても消せなくて…
こんなにダメでどうしようもない私なのに
約束なんて縁もない海賊の筈で、何でも不言実行してしまうのが当たり前みたいな人なのに
こんな風に言葉にして、目に見えるカタチで示してくれた。
私は絶対、世界で一番の幸せ者だ。
果報者だ。
ローがそうしてくれた。
ローがいなければ、私なんて情けない程惨めで無能で面倒臭い人間だ。
もう幸せすぎて、その幸せについて考え出したらきりがない。
そんな頭の中お花畑状態の私とは正反対なほどに
あからさまに肩から力を抜いてため息をつくローがガクリと項垂れた。
私が断る筈なんてないのに、もしかして緊張とかもしてくれたりしたのかな。
「慣れねぇことするもんじゃねぇな。…どっと疲れた」
「私は嬉しいよ!ありがとう!!でも…改まって話なんて言い出すから…振られるのかと思ってちょっとビックリしちゃった」
もう勘違いだったんだからいっかって
暴露してしまった。
でも本当にまさかプロポーズだなんて思わなかったから。
「なんでそうなる」
「だって…最近私特にヘボさ大爆発だったじゃん。それに何だろう。…ローがこういう事してくれると思わなかった」
一瞬、ローの目付きが変わった気がした。
でも幸せ過ぎて有頂天な私は、これは何でも分析大好きなローの癖みたいなものだと思ってた。
「…俺もまさか自分がこんな事するとは思いもしなかった」
「だからね、リンゴの枝折った時…私リンゴ好きじゃん?だから『これはお前だ』的な事言われるんじゃないかって凄い絶望したの」
我ながら酷い思考だ。
でも今考えればそれすらも可笑しくて。
笑いながらこんな事話せるなら、あんな事思っちゃったのもオイシイなとか思ってしまった。
「…おまえ、俺がここに連れてきた本当の意味…ちゃんと理解してんのか」
「え?私リンゴ好きだからじゃないの?だからここで…その、…プロポーズって…」
"プロポーズ"
自分で言葉にして改めて恥ずかしい!
嬉しいけどこそばゆい!!
なにこれ!!
私超乙女!!
きゃー!!!!
一人で身悶えてたら、なんだかローが頭を抱えてた。
「え?違うの?どした」
「…もう良い」
なんだかローがさっき以上に脱力してる。
え、なに?
違うの?
立ち上がったローは行くぞって農園の出口の方に足を向けて、慌ててそれに着いていった。
まだこの先もリンゴ農園続いてるのに。
幸せ気分に浸りながらリンゴの花見たかったのに。
…そういえば。
なんか昔リンゴの花の何か聞いたな。
どこでだっけ?
ローも居たのよそこに。
確か。
あ…
『りんごの花言葉は"選ばれた恋""最も美しい人へ"プロポーズの際指輪と一緒に贈られる事もある花です』
そうだ。
ウォーターセブンだ。
そこで買い物付き合ってくれた時、リンゴの花の花言葉を
ローと一緒に聞いたんだ。
唐突に
頭の中であの店員さんが話してくれた言葉が甦った。
…うそ。
あんなに前の、他愛ない話を覚えててくれたの?
それでその為に
この花を一緒に贈ってくれる為に、私をこの島に、ここに連れてきてくれたの?
視界の端に映る白い花が、凄く眩しかった。