18-2




「うわぁあぁっ!?」
「?」


潜水間際までサグアの島を眺めてた。
これといって特徴のない島だったここは、世界で一番素敵な場所になった。


扉を閉めて、そういえば船戻ってからもう一回見てみろって言われてたなと思って薬指の宝物に目を落とすと








「え!?あれ!?落とした!?いや、ある。すり替えられた!!?なんで!?」






パニックだ。
緑だった宝石が紫がかった赤に変わってる。

いつ!?
いつすり替えられたの!?

誰!!?


「ぶっ…!」


隣にいたローが顔を背けて吹き出した。
肩が震えてるとこ見ると結構笑ってる。


「ねぇ!ローでしょ!?やったの!これもなんか綺麗だけど!でもさっきの返してよ!!」


こっちのも綺麗。
こんな悪ふざけドッキリするのにピッタリってくらい、中央の細長い光の筋も宝石の形も凄く似てる。

でも私はあんな素敵なプロポーズで貰った、あの時の指輪が良い。







本当にいつの間にすり替えたんだろ。







「違ぇよ。変わってねぇ。そういう石だ」


まだ半笑いなローがそれを堪えながらやっとこっちを振り向いた。


そういう…石??


「色が…変わるの?」
「太陽と照明とで見え方が変わる。それ自体は変わってねぇよ。大体おまえずっと付けてただろうが」


バカか、と最後にそんなオマケを付けてくれたローは
よく見れば若干涙目で。






…そんなに笑わなくたって良いじゃん。
だって本当に、失くしちゃったかと思ってビックリしたんだもん。


でも色が変わるのか。
改めて灯りの下で見てみると、こっちもこっちでやっぱり綺麗。


「不思議だねぇ。魔法みたい…で?これ何て石なの?」
「アレキサンドライトだ」


アレキサンド、ライト。
初めて聞いた。

でも本当に不思議で綺麗。
ビックリしたけど凄く気に入ってしまった。


「聞いたことないかも。えへへ…大事にするね!本当にありがとう!」
「さっきすり替えられたと思い込んでたヤツの口から聞いても中々説得力ねぇな」


ぐっ…!!


勘違いだったけど、本当に一瞬失くしてしまったかと思ったから。
どうしようって慌てて恐くて泣きそうになった。


でも勘違いだったもん。
こんな素敵な宝物、絶対一生失くさないもん。





「お!プロポーズされたんだって?おめっとー!!」
「ありがとー!!」


リビングに入ると、さっき自慢しまくったのを聞いたらしい他の皆が口々におめでとうを言ってくれた。

また嬉しさがむくむく膨れ上がって来ちゃって、我ながらだらしない顔で指輪を見せて回ってたと思う。


「それ…キャッツアイっスよね?アレキサンドライトのキャッツアイって…しかもこれめちゃくちゃデカいし…」
「透明度も高ぇし…すげー…キャプテンすげー…」
「キャッツアイ?」


そんな珍しい宝石なのかな。
なんだ?キャッツアイって。


宝石関係に詳しいらしい皆が、なんか凄い物見てる感っていうか
それ通り越して若干引いてすらいるように見える。


「シャトヤンシーとも言うわね。中央の筋が猫の目みたいでしょう?そういう光り方をする宝石のことよ」
「へーぇ。そうなんだ!」


なんか珍しいみたいだし、益々素敵だ。


そう思って宝石を照明に当てれば、眩しいくらいの輝きで目が眩んだ。


「言っとくけどそれ、衝撃的な値段するわよ。絶対」
「……え"?」


衝撃…的?


「アレキサンドライト自体稀少なんスよ!それがその大きさでキャッツアイっしょ?更に稀少!絶対鬼くそ高ぇよこれ」
「シャトヤンシーが綺麗に浮かび上がるだけのこの透明度に、カットも細かくて繊細だし…これ、リングもプラチナで脇にダイヤも付いてるじゃない…」


…なんだ。
皆何語喋ってるんだ?


でも取り敢えず、これ、凄く、お高い、らしい…














なんだか珍しいとか不思議とか、そこら辺まではただ嬉しかった。
けど。


そんなお高い物ならなんか、…畏れ多いというか
私そんなもの貰っちゃって、いいんだろうか…。










「ロ、ロー…?私、そんな…高価なもの、頂いちゃって、良いので、しょうか…?」
「等価交換…寧ろ俺が海老鯛したようなもんだろ」


なんて事なくそんな事言っちゃうローに
あの時何て言われたかなんて一切知らない筈の皆がわーきゃー囃し立てはじめて。

呆気にとられた私がきっと
一番最後にその意味を理解したんだと思う。












嬉しい気持ちに嘘はない。
けどなんていうか、重圧が凄い。


私のこれからの人生に、衝撃的なお値段らしいこの指輪程の価値なんて
本当にあるんだろうか。






「ここからの予定を、話しておく」


恥ずかしいような、嬉しいような、不安なような
なんとも言えない気持ちのまま皆にヒューヒュー言われてたら
その原因ともなった発言をしたローが何事もなかったかのように話を切り出した。


なんか
ローの照れるツボが謎過ぎる。

あのプロポーズだとか、リンゴの花言葉覚えてくれてたことは恥ずかしいらしいのに
さっきのはなんて事ないのか…


「デロア…ブラーヴェの本部に向かってる訳だが。そこで俺は少し離脱する」
「え…?」


驚いたのは私だけじゃない。

何も聞かされてなくて目を見開く私も、ざわつく皆にも触れる事なくローは言葉を続けた。


「ブラーヴェで、新しいプロジェクトを立ち上げてるのは知ってるな」
「結婚式っすよね!船でやるすげぇやつ…え!?まさか!?」


ついさっきされたばかりのプロポーズ。
そしてローが突然話題に提起したブラーヴェの新プロジェクト。


ここまでお膳立てされれば流石の私も、ローが何を言おうとしてるのかに予測が付いた。


「一番最初のそれを、俺らが挙げる」
「「「「「「「「うぉおおおおお!!すげぇ!」」」」」」」」








予測は付いてたけど、嬉しい。
夢みたい。


あの結婚式は、私も全力で準備したものだから。
自分はこんな式を挙げられる事はないんだろうなって思いつつも
それでも本当に最高のものを作ろうって、自分だったらこんな結婚式したいってものを形にしたものだから。


でもそれ所じゃない。
なに?離脱って。


「墓参りをしてぇ。俺は一度、北の海へ戻る」
「私は!?私は連れてってくれないの!?」


お墓参りって、コラさんのだよね?
ドフラミンゴの件が完全に片付いて、もしかしたら私の事も報告してくれるのかもしれなくて。


でもだったら私も行きたい。
ローの恩人のお墓参りだ。

私だって行きたいよ。


「準備が…あんだろ。全部おまえ任せになるのは悪ぃと思ってる。…だが俺は、コラさんの念願でもあったことが成し遂げられた今…早いうちにそれを報告してぇ」
「……」


それは…そうなんだろうけど。
私だって、もしローならそう思うと思うけど。







でも…行かないで欲しいって
置いていかないでって

思ってしまう気持ちはどうしても消えなかった。






「すぐ戻る。これが最後だ…戻ればもう、おまえを置いてはどこにもいかねぇ」
「……なんかずるい」
「お二人さん。そういうのはお部屋でやって頂けるかしら」


アンさんの声にハッとした。


ローの恥ずかしポイントに人目の有無は関係ないらしい事はなんとなくわかってたけど、私は恥ずかしいぞ。


宥められるように頭を撫でられるのも、それをされながらも不満げにローを睨み付けてたのも
人前でイチャついてるようなものだ。


バッとローから離れて平静を装ったら、ローはそれを私が納得したと勘違いしたのか
皆にはその間私の護衛をしながら息抜きでもしてろって指示を出してた。









え?
本当に行っちゃうの?










これにて解散、みたいな雰囲気になったリビングでは
皆が色んな場所へと散り出して。

ローがこっちを見てる気がしたんだけど、なんだか振り向いてあげたくなかった。


「アンさん!ねぇ私お願いがある!」
「なぁに?私洗濯物運ばなきゃいけないから部屋ででも良い?」


タオルやらつなぎを抱えながら振り向いてくれたアンさんに頷くと、絡み付く視線を振り払ってリビングを出た。






あんな素敵なプロポーズをしてくれて
こんなに高価な指輪を貰ってしまって
結婚式まで、それもブラーヴェでそれをしようと計画までしてくれて


こんなに至れり尽くせりで身に余る幸せを貰っておいて
私は本当に何様のつもりなんだろう。







でも、何か嫌だった。


置いて行かれる事に?
恩人への報告っていう場に連れて行っては貰えない事に?


自分でも何で気持ちに折り合いをつけられないのかがわからない。


ローがこっちを見てたのは私の勘違いではない筈。
私に何か言いたいことがあったんだと思う。
それに関することで。




聞けば、私は納得せざるを得ない気がして
そしたらこんな拗ねた子供みたいな事はもう出来ない気がして


きっと、精一杯反抗してるつもりだった。




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destruct at reality.