18-3




「なによ?改まってお願いだなんて」
「お願いっていうか、…相談?」


タンスにタオルを仕舞うアンさんの後ろで、指を弄りながらその背中を見つめてた。


本当に相談したいのは、これじゃないんだけど。
でもなんか…言いにくいしなぁ…


「このお花ね、とっておきたいの。…アンさん何か良い案知らないかなって」
「……その感じだと押し花が良いんじゃない?綺麗に出来そう。ウイ本も好きじゃない、しおりにでもしたら?」


少しだけ振り返って、リンゴの白い花を観察するように目を細めたアンさんが提案してくれたそれ。


押し花のしおり。

それ良いね!
本読む度に目に出来るとか素敵過ぎる!


「…で?押し花ってどうやって作るの?」
「…ちょっと待ってなさい。ハサミとペーパー…あと重石になりそうな本と密閉──」


アンさんに準備する物を教えて貰って、それを集めに走った。













「なんか…勿体ないなぁ、まだこんなに綺麗に咲いてるのに」
「その綺麗な状態を残しとけた方が良いんじゃないの」


お花の部分だけを切り取ってペーパーに並べていく作業をしながら、まだ生花でもこんなに綺麗なのにってちょっと悲しくなった。


アンさんの言う通りなんだけど
自分でこの花をチョキチョキやるのはなんだか気が引ける。










そんな作業をしながらも、考えてしまうのはさっきのこと。


よこせって言っておいて
あげるよって言ったら
早速置いてけぼりだもんなー…





並べ終わった花にまたペーパーを重ねて、更に薄手の紙を重ねる。
後は重石を置いて、空気抜いて密閉すれば出来上がりっと──


「それで?幸せいっぱいの筈のウイは何をそんなに苛々してるのかしら」
「え…?」


分厚い図鑑を片手に、アンさんにバレバレだった心境に驚く。


「…顔に出てた?」
「カマかけただけよ。キャプテンにあんなに食って掛かっておいて、解散した後私を口実に逃げたみたいに見えたから」


あ…バレてたのはそっちでしたか…


「なんだ。ウイは本当に、思考回路理解不能な不思議ちゃんでも何でもなくて…結構子供っぽいことですぐ拗ねる普通の子なのね」


仕方ないわねって、アンさんが笑った。





「普通よりももっと酷いよ…わかんなくもないんだよ?ブラーヴェで最初の結婚式あげるならそんな時間もないだろうし…コラさんのとこに早く報告行きたいのもわかるし…」
「そうねぇ」


そう。
わかってる。

わかってるからタチが悪い。


理解してるなら、ちゃんといってらっしゃいって送り出してあげて
任された事をしっかりやりながら待つのが普通の筈。


「プロポーズも指輪も…結婚式、それもブラーヴェでやるって凄く私至れり尽くせりな事して貰っちゃってるのに…」
「本当にねぇ」


して貰ってばかりなのに
私が今思ってる事はローがくれるもの以上を欲しがる更なる我儘。


「でも、コラさんっていうローにとって誰よりも大切な人への報告なら…私も連れていって欲しかった」
「そうよねぇ」


お墓には亡くなった人はもういないかもしれないけど、ローがそこに報告しに行きたいって思ってるなら
そのお墓がローにとってのコラさんだ。

私の事も大切に思ってくれてるなら、私も会いに行きたかった。


そこで私も
ローを助けてくれてありがとうと、これからは私が支えていきますって誓いたかった。


結局今、支えるどころか困らせてしかいないんだけど。


「折角ワノクニから帰って来てくれたのに…また離れ離れになっちゃうのも…嫌」
「あの時も、凄く心配してたものねぇ」


ワノクニに比べたら、カイドウに比べたら
危険なんてないに等しいくらいだと思う。


でも、何かあったらどうしようって
途中で気が変わってしまって、帰ってくるのが嫌になって、戻って来てくれなかったらどうしようって
そんなしょうもない事ならいくらだって浮かんで来た。


「もう本当はね、心のどこかで諦めて受け入れてる。待ってるしかないんだなって。…でも、なんかすんなりそれを受け入れてやりたくないって言うか…なんて言うか…」
「ふーん」


アンさんは私の気持ちを否定もせずにただ聞いてくれてる。
でも決して適当って訳でもなくて。


そんな話をしながら作ってた押し花はもう後は出来上がるのを待つだけって状態になってた。





「私…どうしたら良いのかな」
「あら、もうやりたいようにやった後でしょ。寧ろこれ以上何するのよ」


え?


アンさんの言ってる意味が理解できなくて、どういう事って顔しながらそれの説明を待った。


「ウイはキャプテンを送り出して結婚式の準備しながら待つ事を受け入れてはいるんでしょう?本当は」


…だって。
絶対ローは一度言ったらそれを覆さないじゃない。


結婚式もローのしたい事も全部叶えるには、それしかないって事をわからない程バカじゃない。


「でも大切な人のお墓参りに連れていってくれないのも、離れ離れになるのも嫌だから、少し困らせてやりたかったのよね?」


そうなの。
その通りなの。

ただ拗ねてる面倒臭いだけの女なの。


きっと私は、「コラさんに紹介したいからおまえも来い」って言われたかった。

そう言われたら、結婚式の準備どうしようって悩んで
結局残るって自分で言い出してたんじゃないかな。


それでも離れたくないって、ローに言われたかった。
引き止められたかった。


ただそれだけだ。


状況考えたら、これがベストだ。


結局私は、連れていって欲しくて離れたくないのが私だけだって
そんな気がして寂しくなって拗ねてるだけだ。








うわー…
私本っ当に面倒臭っ…








「もう十分肝冷やしてるわよ、キャプテン。すんごい目で着いてくるウイのこと見てたもの」
「え?本当に??」


途端に心がふわっと軽くなる。


好きな人困らせて喜ぶとかダメ度追加。
更に追加。


「え、どんな?どんな顔してた?」
「やべぇ怒らせた、的な感じかしら?」












気にしてくれてたんだ。


そんな気はしてはいたんだけど、端から見て解っちゃうくらいに気にしてくれてたって何だか嬉しい。

アンさんが観察力ありすぎるのかな。







でも嬉しいな。










「ってことでもうウイのしたいようになったでしょう?あんまり長引かせるとややこしくなるからさっさと謝って来なさい」
「…はーい」


行った行ったって、部屋を追い出されて
ローの部屋へ続く階段に目を向けた。


ローだって、出来る事なら一緒に行きたいし
離れたくなんてないもん…ね?






船長室の扉を、そーっと開けた。
ローはデスクで何かしてたみたいで、広い背中が見える。


ここから顔は見えないけど
今も考えてくれてるかな、私のこと。

拗ねた私をどうやって宥めようって、考えてくれてるかな。









ごめんね。


私ローのことが大好き過ぎて、いつでも不安なの。

私が好きって思うのと同じくらい
それより少しで良いから多いくらい…ローにも私を想ってて欲しい。


ローの気持ちが足りないとかそういう事じゃなく、他の事より私を考えて欲しくて。


ローには沢山あるじゃない。
夢だとかやりたい事だとか。

それも勿論応援したいんだけど、寧ろ本当にそれより私を優先されてしまったら嫌なんだけど

ちゃんとするから
ちゃんとやりたいことやってって背中を押すから

だから私の事も──




「どうした」













足音を立てないように、こっそり近付いたつもりだった。
ドアだって音を立てずに閉めれたし、上手く出来てたと思うの。


ちょっとびっくりさせようかなって思って
ローの背中に抱き付こうと思ってたのに


「気付いてたの?」
「これに気付けねぇようになったら、俺も終わりだな」


抱き付く予定だった背中は背凭れにくっついたままくるりと逆方向に回ってしまって
変わりに抱きしめてるのはいつもそうしてくれる厚い胸板だった。


こっちを振り向いたと同時に引き寄せてくれたローにダイブする形になっちゃったけど
これでも顔見ずに話せるから、いいや。









「ごめんなさい…我儘言って」
「…行くか?おまえも。ブラーヴェに待たせるか先に他の客取らせるかでもして」











ねぇ、ローは私の心の声が聞こえてるの?


私が困らせたから、そう言ってくれてるんだよね。

私の事を考えてくれて、それでブラーヴェで結婚式を挙げようって言ってくれて。


でも同じタイミングでローがこれまで抱えてきたものが達成されて。








行かないでなんて言える訳がない。
だから連れていって欲しいって思ったの。


ローも、好きで離れていたいなんて思ってない筈。
私のこと考えてくれてるから、だから今こうして一緒に行くかって聞いてくれてる。


…我儘ばっかり、いつまでも言ってちゃダメだよね。





「…待ってる。行ってらっしゃい」
「…ソニアに言われた。おまえがすげぇ頑張って準備してきたものだから、一番最初の記念にどうかって」


そうだったんだ。


ローの気持ちも嬉しいけど、ソニアが私をそういう風に見ててくれてて
それで提案してくれたって事もめちゃくちゃ嬉しい。


「このタイミングなら、各店舗の従業員も休ませて参加させられるって、そう言われた」


え?
本当に?


考えてもみなかったそれに、心が踊った。


結婚式…都合はあるかもしれないけど、出来るだけいろんな人に来て欲しいなって思ってた。


「おまえあれこれ悩んでた事もあったろ。従業員の事で。…思い入れある連中に祝われたら、嬉しいんじゃねぇかって。そう思った」


誰よりも近くで一緒に頑張ってきたブラーヴェの従業員には、それは来て貰いたかったけど
お店あるから無理だろうなって、諦めてたのに。

来てくれるなら嬉しい。
来て欲しい。


「でもおまえがそれよりも墓参りに来てぇって言うなら、俺はそれで良い」
「違うの。本当に…ごめんなさい。ローが言った通りが一番ベストなのに…ローだって色々考えてくれた結果なのに」


私が落ち着いて考えても同じ結論出すんだろうなって思ってた事は
私の知らない所で更に私の事を考えてくれた上で出された結論だった。

本当に、敵わないな…。


「ローにとって私、それほどの存在じゃないのかなって…拗ねてただけですごめんなさい」


それほどの存在だから、こうしてくれたんだよね。
そこまで気付けなくて、本当にごめんね。


「んな訳ねぇだろ。──悪かった、先に言っとくべきだったな」
「本当だよ!ローはいつも自分で考えて決めちゃうから…知らないとこで何考えてるかわかんなくて怖い」


謝るべきは私なのに、これはチャンスと思ってそれを言ってみた。


好きなところでもあるの。
口だけの人じゃないし、その考えて導き出されたものって
悔しいけど正しいし一番良い答えだから。


でも、自分に自身が無さすぎて
いつか知らない間に愛想尽かされてても当然ってしか思えないから


好きだけど、それが怖いの。





destruct at reality.