18-42
"利尿剤の効きが悪くなっている気がする。
喉は乾くが、水は満足に飲めない。
食事も、味気ない。
ウイに詫びる事が出来ないのなら、こんなに苦しんでまで生き延びる意味があるのだろうか。
私が死んで悲しむのはアイリーンだけ。
献身的に看病してくれるアイリーンを思うと、もう死にたいとは言い出せそうもない。
これが、報いか。"
"ウイと結婚すると、あの海賊が現れた。
背が高い。
目付きも悪い。
だがやはり男前で、ウイを心から愛しているのが伝わってきた。
会わせてくれるらしい。
全てを話すよう言われた。
謝りたいとずっと思って来た筈が、ローくんのおかげで軽くなった体が
別の重さを感じた。"
"悪魔の実の能力が特殊なものとは聞いていたが、ローくんは魔法使いのようだった。
瞬間移動が出来るらしい。
おかげで私はただ何もせず移動させて貰っている。
ただ体力は消耗するらしく、その上治療までして貰って申し訳ない。
移動先を目算しているだろう汗を流す彼の横顔は、同性の私から見ても凛々しく格好良いものだった。
私もこんな男に、なりたかった。
ウイの為にここまでしてくれている。
ウイは良い相手に巡り会えた。"
"全てを話した。
病気の事以外を。
#Name1#は写真で見るより大分、綺麗だった。
あれに似てきた。
その顔が私に笑顔を向ける事はなかったが、懐かしく思った。
優しい子だ。
こんな私を、結婚式に出させてくれるらしい。
この日記は、ローくんに託そう。
もう私は長くない。
ウイに読んで貰いたい。
だからここからはウイに向けて書こう。
思い違いなら死にかけの老いぼれの戯言と思って許して欲しい。
きっとウイは、私がウイにしてしまった事を許してくれたんじゃないか?
去り際、扉にウイの温もりを感じた気がした。
こんな私にもそうして貰えた事に、涙が出たんだ。
責められるよりも何よりも、それが私を悔やませた。
すまない。
こんな父親で。
影ながらそうするしか出来なかったウイを思って
そうさせてしまった自分を呪いながら
扉越しに抱きしめたよ。
本当に、すまなかった。"
"素晴らしい式だった。
会場もドレスも、ウイもローくんも。
こんな顔で笑って
こんな風に友人と接するのかと、見たことのないウイを見るのに夢中になってしまった。
どんな一瞬も見逃すまいと、この目に焼き付けた。
許される事ではないが、結果ウイが幸せになってくれて良かった。
ありがとうと、言われたあの声を今も頭で何度も思い起こしている。
ありがとう。
もう悔いはない。
こんな私にはあり余る程の幸せを、人生の最後に味わえた。
私は幸せ者だ。"
長すぎて、途中飛ばした。
でも読んだ。
父様のこれまでの気持ちを。
手帳カバーに何かが挟まっていて、それを抜き取れば
それは懐かしい写真だった。
「おまえの部屋にあったやつ、だな」
「持ってきて、くれたのかな」
私はこの時の事なんてもう覚えてない。
でも写真の中の父様も、母様も、私も
心から笑ってたんだろうなって思う。
なんだか、心が空っぽだ。
父様は私のこの気持ちに、気付いてた。
気付いてて、意地を張ってる私のそれに
付き合ってくれてた。
悩みがない状態って、こういう事なのかな。
悔いは、やっぱりあるけれど
思いがけず伝わってしまってた事が知れて、それが少しは気持ちを軽くしてくれた。
母様とも話せた。
父様とも話せた。
そして隣にローがいる。
皆も船で待ってる。
空っぽだけど、悪い気分じゃない気がした。
なんとなく
本当になんとなく写真の裏側を、捲ったの。
そこにあった文字が、息を詰まらせて
折角落ち着いた私の心をまた揺さぶって来た。
なんだか、なぁ…。
胸がじんとしたけど、それを飲み込んで笑顔を作る。
きっと、涙より笑顔を向けて欲しいんだと思うから。
「私も、だよ。…ありがとう」
さっきより冷たくなってしまったその痩せこけた頬を優しく撫でた。
写真の裏には、あの震えた大きな文字で
"愛してる"
そう書かれてた。