18-41


嘘を、つく為だけじゃない。
ローの後悔を勘繰りすぎって事にしたいだけじゃない。

責めたい気持ちを飲み込んだのも
これまでの私の行動も全部

いつだって辻褄を合わせる事ばかり考えてた。
そこに私の気持ちはなかった。


「誓ったろ、昨日。おまえのその下手くそな芝居に騙されてやって、それでおまえは満足か。何の引っ掛かりも歪みもねぇって、おまえ言えんのか」













言わないよ。
言わない、言えない。

例えどんなに気持ちと真逆な自分を演じなきゃいけなくても
後になってそんなこと、言える訳ないんだ。


だって最低じゃない、言った事に責任も取れない人間なんて。

仕方ないじゃない。
後悔のないようにって決めた、その後悔の想定が甘かったんだから。


こうなって初めて後悔してる。
私の中の後悔のない未来に、この未来はなかった。
推し量れなかった。

大切な人を何度も亡くして、それを知っていた筈なのに。
後悔がどんなものか、痛い程解ってた筈なのに。


私は結局、何も学んでなかった。


あの時扉を開けて父様の胸に飛び込めば良かったとか
もっと別の言葉を伝えたかったとか
苦しかっただろう父様の手を握ってあげたかったとか

私の為に沢山頑張らせちゃってごめんねって
色々あったけどまたこうして会えて、私の事を大事に思ってくれてるのが知れて良かったって
私幸せだよって

それを父様に聞いて欲しかったなんて、言ってあげたかったなんて


愚か者の戯れ言でしかない。





放っておけば良いよ。
優しくても、勘が鋭すぎても
そこまでしてくれることないよ。


たまには私にも頑張らせて。
ローの為に何かさせて。

それにこれはローの為だけじゃない。
自分の筋を通す為に、必要な事だ。


ローには沢山、肩の荷を軽くして貰った。
もう私、大好きな人達の未来の姿を疑ったりしない。


このくらい、しなきゃ。
本当に大丈夫だから、気付かないふりして
この流れに乗ってよ。







それなのに…







「約束、たった1日で破らせんな」


更にぎゅっと、強く抱き締められた。









"不安にさせないように"
昨日大勢の人の前で誓ってくれた、私との約束。


あんな捻りもない言葉を時間をかけて何度も考え直すローが可愛く見えて
照れてるのを面白がってしまって。

ごめんね。
こんなにも優しい気持ちを、あの一言に込めてくれてたんだね。





何気なく贈られたものに込められた大きすぎる愛を知って
そんな人に愛されて、楽になれってそれを望まれて




つかえてたものが、私の中のストッパーが
壊れてしまった。












「教えて…くれてたら、私父様にもっと優しくして、あげたかった…!!」
「だろうな」


さっきまで出てこなかった涙は、今になって溢れ出す。


「私…後悔してばっかり、で…!でもローには、似合わない、から…!!気に、してないよって言えば…!こんな惨めでしかない思い、ローはしないかなって…!!」
「俺が決めた事だ。おまえが責任感じる必要はねぇ」


まともに喋れない程泣きじゃくる私の背中を、ローはポンポン優しく叩いてくれた。


「知らなく、ても。もっと考えるべきだった。死んじゃうって、知ら…なくても…!!今こうやって、後悔するなら…!あの時違う答えを出すべきだった…!!」








ローは何も言わなかった。


力強くて優しい腕が
こんな馬鹿の後悔を聞く人が、それでも私を見放していない事を教えてくれた。


ただ泣いた。
思う気持ちのままに。







ごめんなさい。
ごめんなさい。








ごめんなさい。






「ごめん、ありがと」
「俺も、悪かった。本当に」


そんな事ないって首を横に振る。

気の向くままに流した涙が収まった時、支えてくれた厚い胸板をそっと押した。


「幸せそうに…眠ってるように見えるのは…私だけ?」
「…明け方、苦しみだした。おまえを呼ぼうとするのを、必死で止めてた。その時この手帳を、託された」


私が半分寝惚けて起きたあの時か。


ねぇ、ローは寝てる間もずっと父様を気にかけてくれてたの?

俺なら見放すって言った相手を、私の為を思って背負った後悔の為に
能力を使えば負担になるのに
ずっと見ててくれてての?


本当に、どんな聖人かと思う。
ローに聖人なんて言葉は似合わない。

でも、この人が私にしてくれる事は全部
聖人にも勝る程の事だ。


ボロクソになじられる事を知ってて、父様を連れて来てくれて
父様の想いと私の間で葛藤してくれて
身を削って馬鹿な人間を治療してくれて
自業自得でしかない愚か者をも受け入れてくれる。






ありがたさと情けなさにさいなまれながら、受け取った手帳を開いた。







"突然倒れた。気付けば部屋で寝かされていた。
心不全。
医者に言われて、まだ果ての見えない筈だった人生を考えて
そんな私が思うのは後悔だ。
ウイは元気で暮らしているだろうか。"



"なぜこうなるまで考えなかったのだろう。
見たくない物に蓋をしたから、そうとしか言えない。
あれから私は幸せだった。
何にも追われない、自分を追い詰めるものがない時間はただ、幸せだった。
だが追い詰めたのも私。
そうしたのも私。
私はなぜ、あんな事をしたのだろう。"



"まだ、わからない。
急性のものだったのかもしれない。
でも私にはこれが、自分への報いと思えてならない。
妻を殺め娘を捨てた。
そんな私がのうのうと幸せに暮らせる筈がない。"



"今日散歩へ出る途中、改めて玄関を見て
あの日の事を思い出した。
なぜ私は拳銃等持ち出したのだろう。
捨てようと、居なくなれば惨めさも消えるだろうと
そう思ってヒューマンショップに問い合わせたつもりだった筈が。
出ていくなら、消えてくれるならそれで良かったじゃないか。
なぜあれの命を絶った。
なぜ娘に、ウイに銃口を向けた。"


それは父様の、日記だった。







"また、倒れた。
やはりこれは、一過性のものではないらしい。
アイリーンが泣き崩れた。
こんな私を思って涙を流してくれるのは、もうアイリーン以外いないだろう。
体を拭きに来る使用人達の目が、自業自得だと言っている気がした。
口には出さないものの、誰もが私よりあれとウイを慕っていた。
作業のように行われる介助は、拷問だ。"














"日に日に体がだるくなる。
発作が起こらなくとも、病が体を蝕んでいく事を実感する。
島に捜索願を出した。
今更だろうか。
あの日消えたウイはどこにいるのだろう。
自ら命を絶ったとは思えない。
思いたくない。
行方が知れずとも生きていて欲しい。
それを私が思うのは、滑稽か。"



"島にウイはいないようだ。
同じ年頃の遺体が見つかった知らせもない。
今どこでどうしているのだろう。
私という牢獄から出ていった娘が、今笑っていてくれたら良い。"

















"朝から屋敷の様子がおかしかった。
どこか落ち着かぬ使用人達。
それの原因を知って、心臓が鷲掴みにされたような心地だった。
何をしたんだ、おまえは。
どうか無事でいてくれ。
死にかけたこの命で事足りるなら、どうか私の命と引き換えにウイを助けて欲しい。"




"ウイが捕まったという報道はない。
不安でいるだろうに。
一体何をしでかしたんだ。
どうか、どうかウイを助けてくれ。"




"無関係なニュースを飾る新聞に、腹が立つ。
時勢等どうでも良い。
ウイはどうしているのだろう。
可笑しな話だ。
一度はその身に銃口を向けた私が、ウイの身を脅かすものに憤っている。
人間とは、勝手なものだ。"













"天竜人御用達職人。
ウイが手配をかけられたのは、ウイが作っているらしい酒に惚れ込んだ天上の者がしでかした事だった。
あの子は賢い子だ。
打ち込んだ事に必ず成果を出すだろう。
いつかその酒を、飲んでみたい。"




"アイリーンが
林檎で作られた、ウイの酒を手に入れて来てくれた。
医者からはアルコールどころか水分すらも制限されている。
久しぶりということを差し引いても、おつりが来る程美味しかった。
ウイが食後の果物でそれを好んでいた事を思い出す。
果物が好きなのならばと、メロンやマンゴーを買って来ても
林檎程ウイは笑わなかった。
懐かしい。"



"アイリーンがウイを連れ戻しに行くと言い出した。
複雑な、気持ちだ。
この体では私は行けない。
会いたい。
謝りたい。
だがウイはどうだろう。
少し時間を貰う事にした。"











"ブラーヴェ。
ウイが所属するギルドが新聞の一面を飾った。
撮られている事に気付いていない手配書の写真よりも、笑顔で仲間と写るその顔の方が気に入った。
女性達への称賛の声。
ギルドには男性もいるようだから、取り扱う商品が女性向けという事かもしれない。
この二人のどちらかと、ウイは恋でもしてるのだろうか。"



"私の病の事は伏せたまま、ウイが私と話しても良さそうであれば
ウイを呼んで欲しいとアイリーンに伝えた。
その日のうちにアイリーンは出発した。
昔から行動力のある女性だった。
本当にすまなく思う。"












"アイリーンは一人で戻った。
ウイの姿がない事に、落ち込む自分がいた。
ウイの仲間達から、酷い仕打ちを受けたとアイリーンが憤っていた。
やはりウイは私と話すつもりはないようだ。
…当然か。
海賊と、仲が良いらしい。
トラファルガー・ロー、ハートの海賊団の船長。
その男とウイは恋仲らしい。
今度手配書を取り寄せよう。
海賊…。
大丈夫だろうか。"



"ウイの恋人は中々男前な海賊だった。
そして死の外科医。
物騒な通り名だが医者らしい。
頭も良いのだろう。
殺されかけたと言っていたアイリーンには申し訳ないが
ウイの為にそうしただろうその男に、悪い印象は抱かなかった。
私とは正反対そうな男だ。
どんな人物なのだろう。"




destruct at reality.