19-2
式の翌日の内に、臨時でチャーターした船に乗せられた父様の遺体はブラーヴェの船を発った。
ブラーヴェの皆に謝った。
まだ本格的に稼働もしていないのに、最も重要なその船で人が亡くなったんだ。
お祓いとかした方が良いんじゃないかって、そういうのを探してたら
ソニアに止められた。
お父様が憑いていたとしても、私達フリーウィングには大分お世話になったじゃないって。
ちょっと意味が違うと思うんだけどな。
でも、中々そういう人見つからなくて
見つかるまではお言葉に甘えさせて貰う事にした。
事故物件とか言うくらいだし、なんだか本当に申し訳ない。
お葬式、しなきゃなって思ってたんだけど
ローに言われたの。
"何があっても"、必ず返すと約束したって。
アイリーンさんと。
あの日記を読んで、アイリーンさんへの印象が変わった。
何だか憎めなくなった。
父様も帰りたいと思う。
あの家に、アイリーンさんの元に。
そんなこんなで、ポーラータング号はブラーヴェの船を発った。
まだ気持ちの整理がついた気はしないけど、それでもこれまでとは何かが違う。
解き放たれたって言うんだろうか。
こういうのを。
私の悪い癖、抱え込むっていう特技を
壊して貰ったから。
抱え込める物がもうない。
捨てられたくない人に捨てられた原因も、知れた。
矛盾してても、ダメな気持ちでも
ローの前では思うがままを出して良いって、出せって言われた。
これで何を抱え込めるって言うんだろう。
「ねぇ、どこ向かってるの?」
「墓参り、行きてぇんだろ。火拳屋の」
豪華客船が少しずつ小さくなるのを見つめながら、隣に並ぶ旦那様に
新たな旅の目的地を尋ねる。
…まさかそんなにすぐ行ってくれるとは思わなくて
嬉しいけどびっくりした。
マルコにも渡したかった引き出物のお酒、まだ送ってなくて良かった。
「ありがとう。…良い、天気だね」
「普通だろ。潜るぞ、ブラーヴェへの見送りももう良いだろ」
忘れてた。
ここ、フリーウィングじゃないんだった。
ローは長年一緒に働いて来た皆とのお別れの雰囲気作りにこうして上を進んでくれてたのかな。
でもさっさと海中を進みたくなったと。
…本当、せっかち。
パパの故郷は
エースとパパの体が眠る島は、静かで和やか…原始的?…穏やか…?まぁいいや。
そんな島だった。
船着き場で待ってくれてたマルコ。
それを取り囲む、島の子供達。
船を付けてすぐの場所には、緑しかなかった。
観光客も来ない、そんな島。
「結婚式、出席出来なくて悪かったな。ゆっくりしてくと良いよい」
「用が済んだらすぐに発つ」
そんな暇じゃねぇとでも言いたげなローに苦笑いだ。
用は済まさせてくれるんだ。
早く向かいたい場所があるのに、連れて来てくれたんだ。
ごめんとかは思わなかった。
これが私達の"普通"だ。
遠慮や建前、気遣いなんていらない。
ローが何を思おうと、言おうと
私を好きでいてくれる事をちゃんと知ってる。
「ごめんね、マルコ。…悪気はないから気にしないで」
「こんな社会性のない男が親戚とはなぁ…まぁ、ウイが良いならそれで良いよい」
人当たり良いヤツラだけじゃなかったもんなって、懐かしそうに遠くを見つめるマルコは
白ひげ海賊団の皆の事を思い返してる気がした。
マルコにはごめんって思うよ。
ロー失礼だよね。
本当ごめん。
でも"親戚"か。
今でも私を妹と思ってくれてるマルコが嬉しい。
今はどこで何してるかもわからない心配性過ぎる破天荒なお兄ちゃん達に、会いたくなった。
「お花屋さん。あるんだよね?私本当にお花準備して来てないけど大丈夫?」
「問題ないよい。きっとウイは気に入ると思うよい」
見渡す限りの草原に、ハートの海賊団の皆は誰も出て来なかった。
姉ちゃんの店ないだろ、これはって。
カジノとか露店もねぇだろって。
ない、だろうね。
エースと顔を合わせた事のある人達も、いってらっしゃいって着いて来る素振りすら見せなかったの。
気を遣ってくれたんだと思う。
「あ、これマルコにも!引き出物に準備したお酒なんだ!…飲んでみて」
「…ウイらしいよい」
ふって、お酒を見たマルコが笑った。
お酒に込めた気持ちがあることに、マルコは気付いたんだと思う。
これの宛先には、マルコもしっかり入ってるから。
ちょっと行ってくるって、黄色い潜水艦を後にした。
島の内部に入っても、何もないの。
本当に、何も。
ポツン、ポツンって家が建ってる。
他は野原に丘に、森。
そんな緑の中を曲がりくねった土色の線が家と家とを繋ぐように通ってるだけ。
マルコに案内して貰ってたんだけどね
目的のお花屋さんがどれなのか、教えて貰わなくても視界に入った時点ですぐわかった。
あれだけ、凄い目立ってる。
近付くにつれて詳細が見えて来たそのお花屋さんは、私がこれまで見たことのあるそれとはまるで違ってた。
ちらっと覗くえんじ色の煉瓦と濃い色の年季の入った感満載の木で出来た建物を、周りの野生の草花とは異なる枝や蔦、木が素敵に覆ってる。
お店の入り口には、遠目でも観葉植物の鉢植えが沢山並んでるのが見えて
そこを照らす暖色の光を放つランタン。
なんだか、そわそわしたの。
凄い良いお店に巡り会えたんじゃないかって高揚感が進む足を速める。
「凄い!凄いね!なにあれ!素敵!おしゃれ!わくわくする!早く!早く行こう!!」
「店構えより花屋本人のが気に入ると思うよい」
2人の腕を引いて先を急ごうとする私に、もうわかったなら行ってこいってマルコが呆れたように笑った。
熱を出してる子が待ってるんだって。
そんな中出迎えに来て貰っちゃって悪かったな。
お墓の場所と、花屋さんにはもう事情を伝えくれてる事を教えてくれたマルコとはそこで別れた。
「ねぇ凄くない!?早く行こう!」
「…癖の強ぇ店だな」
ローの腕を引っ張って駆け出す。
しかめっ面でお店に目を向けるローが走ってくれないから、結局少しペースが上がったくらい。
凄くドキドキした。
遊園地に行く時みたいなわくわくが止まらなかった。
「ごめん、くださーい」
「いらっしゃいませ。お話は伺ってますよ。品揃え…そんなに良くはないけど、お役に立たせてね」
広く開いてる間口。
その入り口はゲートみたいに編み込まれた細い枝がモスグリーンのテントの上を覆ってる。
足を踏み入れた瞬間、ふわってお花の匂いが鼻先を擽った。
外観もおしゃれだけど中も凄い!!
外以上!!
「…ごちゃついた店だな」
「ちょっと煩い黙ってて」
「好きな物で埋め尽くしたらこんな事になっちゃって。散らかってるわよね、ごめんなさい…私の…趣味で…」
ですよねってローの無礼な発言を咎めも否定もしないこの人の事を、マルコの予想通り
凄い好きになっちゃいそうな予感がした。
お店の雰囲気が気に入ったからって言うのもあると思う。
これがこの人の趣味なら尚更気が合いそう。
物は沢山あるけど、でも散らかってるとかとは全然違うんだ。
外から見えたのと同じ、シックな濃い木目の内壁。
でもそこに、無造作に見えて纏まりのある小さな棚が無数にあって
そこを可愛い小物達が埋め尽くしてた。
それはちっちゃなブーケだったり、ドーム型のお花のケーキみたいなのだったり
白い陶器のカップにちょこんと飾られた一輪のバラだったり。
1つ1つも可愛いんだけど、纏めて見ると更に素敵。
色も形もバラバラなのになぜか、統一感みたいなのを感じた。
この人絶対センス良いって、直感で思った。
お店には自分を貫きまくっちゃうのに、ローの無礼発言には眉を下げて笑うお姉さん。
自分があるけど、謙虚。
それでいて、美人だ。
ショートカットの細身なそのお花屋さんはなんだか
全てを受け入れてくれるような温かさと、優しさを思わせる笑い方をする人だった。
ローの失礼のせいで見えた人間性。
マルコに引き続きごめんなさいだけど、でも私はこの人が好きだって思ったの。
そしてこのお店の雰囲気も凄く好き。
お墓参りに持っていくお花を作って貰おうと思ってたんだけど
こんな人なら、この人になら…
我儘を言いたくなった。
「あの…お墓参りを、したいんです。その人達のイメージのお花を…作って貰えたり、しませんか?」
「エドワードさんとエースさん?…2人のお墓に供えるお花は何度も作ったけど、そんな事頼まれたの初めてだから緊張しちゃうわ」
良ければ2人の話を聞かせてくれない?って、その人は言った。
あなたが2人に思うイメージや、気持ちを聞かせてって。