19-6
丘の上。
海の見える見晴らしの良いそこに、2つの墓標が建ってた。
シャンクスさんが2人を弔ってくれたらしい。
素敵な場所を選んでくれてありがとう。
「遅く…なっちゃったね。お墓参りに来たよ」
その2つの並んだ墓標に手を触れて、この下に眠ってる二人を思う。
ねぇパパ。
私、心から愛する人に
ずっと傍に居て良いって、安心しろって
そう言って貰えたの。
ねぇエース。
ごめんね、ずっと心配かけて。
気に病ませてしまって。
でも、ちゃんと私
ローに幸せにして貰ったよ。
だから…安心してね。
そんな想いを込めて、ミノアさんに作って貰った花束を供える。
海から吹き込む風は、二人が返事をしてくれてるみたいだった。
「さて!植えようか!」
「…掘れば良いんだろ。掘れば」
そう言ってスコップを差し出したら、うんざりしたローが仕方なさそうに受け取ってくれた。
しゃがんで二人のお墓の間の土をザクザク掘り起こすローは、不満げな割に手際が良い。
あのね、素敵なお花屋さんに聞いたんだ。
オリーブは"平和"って言葉を背負うだけあって、何かの記念樹に植えられる事が多いんだって。
これは、二人のお墓参りに来れた記念。
二人が望んでくれた私の幸せを、実現する事が出来た記念。
あっという間に穴を掘ってしまったローの背中と二人のお墓を眺めながら、そんな事を心の中で思った。
ミノアさんの旦那さんに植え方でも教わってたのか
ローは鉢からオリーブの木を上手く外して穴に入れてくれて、フクジュソウの花ももう同じようにしてくれた。
「後は出来んだろ」
この人の体力を考えれば、ちっちゃい穴2つ掘るくらいなんて事ない筈なのに
疲れた感満載のローは自分の仕事は終わりだとでも言いたげに立ち上がる。
「一緒に土かけようよ!"二人で"植えるの!」
「俺一人に掘らせたヤツがどの口開いてそれ言うんだ」
そう言って睨まれて、パチクリ瞬きしながら考える。
確かにー。
「細かい事気にしてるとハゲるよ!ローいつも帽子被ってるんだし!」
気にしない気にしないって、バシバシ腕を叩きながら笑って誤魔化した。
本当だね。
ついうっかり。
「エースもここには居ないんだろうし、パパもきっと…成仏?したんだろうな」
二人で根に土をかけながら、そんな言葉が口から出てくる。
不思議な体験をしたな。
死んでしまった人と、話が出来た。
それも二度も。
二人とも、傍に居てくれたって言ってた。
「私ってそんなに置いて行ったらヤバそうかな」
「それも否定しねぇが…愛されてたんだろ、それだけ」
おぉ!!
どうしたロー!
母様はともかくエースも含まれる事に、ローがそんな事言うなんて意外だ。
意外過ぎる!
…でも、そうだね。
それだけ愛してくれてた。
想ってくれてた。
今もきっと、天国で見守ってくれてる。
私も大好きだよって、目の前に広がる水平線の果てに目をやった。
…可笑しい。
ここお墓なんだから、そんな事思って見つめるならお墓の方じゃんね。
「ドレスローザで…世話になった」
「ん?」
そういえば私、なんだかんだでドレスローザの話まだ聞いてない。
でもここで?
今??
今日は本当にどうしたロー。
読めない行動が続くその人を、首を傾げながら見上げた。
「二度だ。一度目は死んでもおかしくねぇ傷を止血された。…二度目は、指の先すら動かせねぇ状態の俺に、力を使わせた」
死んでもおかしくない傷に
このローが指の一本すらも動かせない状態って…
無事に戻って来てくれた事をただ喜んでたけど
私の知らない所でローは本当に死に物狂いでそれを成し遂げたんだって
今更だけどワノクニに連れて行って貰えなかった事をただ納得した。
…頂上決戦も
上から見てただけでもあれは凄まじかった。
知り合いに強い人達がいっぱい居て、そんな事言っても皆普段は普通の人と変わらないから
私はきっとマヒしてる。
戦いってものを甘く見てるんだろうなって、こっそり反省した。
「姿は見ちゃいねぇが…聞こえた気のする声と言ってた内容からしても、あれは火拳屋だった」
「──だからあの時…信じてくれたの?」
なんで今ドレスローザの話って思ってた筈が
そんな事すっかり忘れてローの話に聞き入ってた。
だから今、それを話してくれてたのか。
でもエースが、ローを…?
ふわって背中に風を感じて
それが目の前に広がる大海原へと吹き抜けて行った時、こんな事が前にもあった事を思い出した。
あれはベガス聖のお屋敷で、ドフラミンゴの話を聞いてドレスローザに居るローの身を心配してた時。
あの時も同じように、水平線を見つめながらエースにローを守ってってお願いした。
そうだ。
あの時もエースは傍に居てくれたんだから、聞いてくれてた筈。
「…あんなに、嫌ってたのに。…本当に助けに行って、くれた…の?」
ずっと傍に居てくれたって言ってた。
それを聞いたのはもう随分前の事みたいに感じる。
エースに色んな事話しかけ過ぎて、ローも無事に戻ってきて
自分がしたそんなお願いの事なんてすっかり頭から抜けてた。
ぶわっと溢れ出す涙を手で拭おうとしたら、その手はローに掴まれて止められる。
「…土」
「あ…」
なんて面倒見が良いんだ。
流石だ。
オリーブとフクジュソウにかけた土まみれの手をパンパン払って、そんな手で顔をゴシゴシやろうとしてた自分のうっかり具合が恥ずかしくて
でもおかげで少し落ち着いた。
「遊びに来てたのかな」
「その癖はあと何度言えば改善される」
偶然なのかな。
いつも船で海から吹く風ばかり浴びていたから、さっきもあの時も海に向かって吹く風を珍しく思って気に留めたのかもしれない。
でも今、エースが遊びに来てくれてた事にしよう。
そっちのが嬉しい。
「私ね、ドフラミンゴの七武海脱退が誤報だって知らせる号外が出た日…ローが心配でたまらなくて。ベガス聖のお屋敷で今みたいに海見てたんだ」
いつもの私の悪い癖。
頭で考えてる事と口に出した部分がごちゃごちゃになって、聞いてる人に伝わらないってアレ。
指摘をスルーした私にローは眉を寄せたけど、それでも黙って話を聞いてくれてた。
「その時ね…まぁいつもの事だったんだけど。エースと話してたの。ローを助けてってお願いしたら、さっきみたいに海に向かって風が吹いて」
「おまえそんなしょっちゅうやべぇ事してたのか」
そりゃ心配にもなるって呆れた顔したローに、これ言ってなかったっけって苦笑いだ。
「あの時本当にローを助けに行ってくれたなら、今もここに居たのかなって」
「…実際、丁度その日だ。傷を焼いて止血されたのは」
焼い…
痛っ!
傷も痛いのに焼くとか痛っ!
やっぱり戦いの世界恐ろしすぎる…
でもそれが
ローの命を救ってくれた。
2つの海を背負う墓標の前に、2人を思わせる花束。
そしてその間には、オリーブの木と、お揃いの誕生花。
持って来…ローに持って貰ってた紙袋から2つの瓶を取り出してそれを花束の脇に供えた。
結婚式の引き出物、二人にも飲んで貰いたかったから。
これで完璧!
「俺はコラさんの墓参りでそこに中身ぶちまけて来たぞ」
「え?行ったの?本当にお墓参り」
父様連れてくる為の嘘だって思ってたから、ローが本当にコラさんのお墓参りに行ってきたって話に驚いた。
まぁなって、ふんって鼻を鳴らすローは
どこの誰とも知れない人が未開封のシードルを見つけて飲んじゃうのがやだったって、本当に行ってきたっぽい事を話し出す。
…確かにそれはやだな。
これは2人に飲んで欲しい。
慌ててコルクを抜いた二本の瓶を両手に持って、それを逆さにひっくり返した。
シュワシュワ発泡しながら土に染み込んでいくお酒から漂う、さわやかな香りに包まれながら
ちゃんと味わってねって心の声で話しかけた。
2人にも伝えたい事を、沢山詰め込んだよ。
空になった瓶をお墓に供え直して、今度こそ目を瞑って手を合わせた。
「さて。…行こっか!」
2人に
懺悔と感謝、それとこれからも見守っててねって
我ながら長ったらしく語りかけてしまって
待たせてしまってたローを振り返る。
ローはここからも見えたらしい船着き場の黄色い潜水艦を何とも言えない顔で見つめてた。
「何やってんだ。あいつら…」
お参りを終えた私に気付いたローが呆れたように声を上げて、何事だろうってそこを覗き込めば
そこには
降りないって言ってた皆が島の子供達をいつかの本物っぽい水鉄砲を乱射しながら追いかけ回す姿が見えた。
「良いな!私もやりたい!ロー!!シャンブって!!」
腕に手を回してそれをお願いする私に、ローが盛大なため息を吐いた。
嫌そうな顔したのは、あれに混ざる方?それともシャンブルズタクシー?
どっちでも良いや。
いつもこんな私でごめんね。
でも…大好き。
なんだかんだで我儘を叶えてくれる素敵な旦那様がルームを展開する中、2つの墓標に目を向けた。
また、来るね。
本当にありがとう。
そこから姿を消した2人はその後、仲間や子供達に混ざりずぶ濡れになりながら野原を駆け回った。
水鉄砲片手に子供達を追いかけ回していたと思われたそれは、少し変わったドッジボールだったらしい。
外野なし、球はバケツ一杯の水風船。
水鉄砲が使われている時点で、既にルール違反の横行は明らか。
敵陣に乗り込み攻撃力の源となるバケツを奪い逃走する白熊まで存在する程。
もうただの水遊びと化しつつある状況ではあるが、彼らのこんな遊びには罰ゲームが付きもの。
それが普段はクールな船長をも真剣にさせる。
相手チームを全員濡らして球が多く残っていた方の勝利。
既にほぼ全員が水浸しで、濡れていない者は極数人。
奪ったバケツを抱え逃走を続ける白熊を、子供達が追いかけ回していた。
奪われた側に加わったローは、球を減らさず時間を稼げた事はかえって好機と言わんばかりに
気付かれる前に勝負を終わらせようと畳み掛ける。
楽しそうな声の響く長閑な島の一角には、海賊と子供達の笑顔が溢れていた。
これからも彼らには、冒険が待っている。
その先々で、船の上でも
こんな日常は続いていくのだろう。
その賑やかな声が届く岬では
供えられた墓参り用とは思えない見事な花束が、そよぐ風に時折その花弁を揺らす。
傍らには空になった二本の瓶。
そのラベルには作り手が想いを込めた酒の名が印字されていた。
"dear you"
親愛なるあなたへ
ー完ー