「ウイー。飯だぞー。」
「はーい!」
あれから少しずつ、食事の量を増やして、筋力を取り戻すために体を動かすようにしている。
キッチンはすっかりシャチの城になり、無理はしないようにと、散歩をするときも誰かが付き添ってくれてる。
それ以外はベッドで休んでるんだけど、食事の度に転ばないようにと部屋まで迎えに来てくれるほどの過保護ぶりだ。
なんだか本当に申し訳ない。
「大分食えるようになってきたな。」
「うん!シャチのご飯美味しいからだよ。」
「「ウイの飯(ご飯)の方が旨い(美味しいよ)。」」
声を揃えてそんなことを言ってくれるペンギンとベポ。
だったら食うなとシャチは面倒くさそうに言うけど、本当に美味しいんだけどな。
「あれ。……ローは?」
「キャプテンは出稼ぎ中。」
「出稼ぎ?」
どうやらガレーラパンニーで潜水艦を依頼した所予想以上に高額だったらしく、
ローがお金持ち相手に治療で荒稼ぎしているらしい。
だから最近あんまり姿を見かけなかったのか。
「なに。キャプテンいねぇと寂しいの。」
「そんなんじゃないけども。」
ニヤニヤしたペンギンにそうからかわれる。
実際は寂しいけど、居たら居たでドキマギしてしまう。
ローは皆に何も言ってないんだ。
そりゃ言わないか。
「ウイ、あのね。俺たちウイに話があるんだ。」
「なによ。」
三人揃ってごもごもと口ごもり、なんだか挙動不審だ。
なんだろう。改まって。
「あの、ちゃんと謝ってないっていうか。このままうやむやはやっぱり違うかなって。」
「私に何した。」
いや、そういうんじゃなくて、とやっぱりなんだか歯切れが悪い。
本当に、何をされたんだろう、私は。
「あの時助けられて、何も言えてねえだろ俺ら。無事に帰ってこれたけどよ。命懸けで助けて貰ったわけだし。ありがとな。」
「俺らが至らねえばかりに、怖い思いめちゃくちゃさせたよな。本当に、申し訳ねえ。」
「ウイが俺たちに気を使わせないようにって普通にしてくれてるのに甘えて、ちゃんと話すの遅くなって。それもごめん。」
なんだ。そういうことか。
私が勝手にしたことなんだから、そんなの良いのに。
「どういたしまして。そんなの気にしてないし、皆も気にしないでよ。」
本当にそんな事気にしないで欲しい。
それなのに、なんだか皆の顔は浮かない様子。
まだ何か言いたいことでもあるんだろうか。
「お前そうやって俺らの前ではけろっとしてるけどよ。その、お前泣いてたんだろ。ロイに聞いた。」
ロイは本当にもう、次にあったら説教だな。
なんでこうペラペラと人が話して欲しくない事を話すかな。
「そんなにげっそり痩せて帰ってくるし。本当に、辛い思いさせたよな。本当に、ごめん。助けてくれてありがとな。」
「皆が何を勘違いしてるのか知らないけど、私そういうので泣いたんじゃないけど。」
頭を抱えてみたりしょんぼりしてみたりしている皆が顔を上げてこちらを見る。
やめてよ。
私をそんな目で見ないでよ。
「それ聞いてるならその前に何があったかも聞いてると思うけど、その、凄い嫌で泣いちゃっただけで。ご飯食べなかったのも当て付けみたいなもんだったし。」
まあ、泣いちゃった理由は嘘じゃない。
まだ納得できないような皆の顔を見ているのが辛い。
本当になんて事してくれたんだロイは。
「だってお前キャプテンにそういうことされても泣かねえじゃん。キャプテンは嫌じゃねえってそういう解釈で良いの?」
そう来たか。
ペンギンはなんていうか、結構曲者だ。
そっちがダメならこっちは貰うぜっていう
只では負けてくれないやり方をよくする。
「あの、さぁ。私その時、両手足縛られてたのよ。そんな身動きもできない状況で、面識もない、自分の事護送してる人にそんな事されたら、流石の私もびびるわ。」
「そんなプレイを。」
「ちっがう!!点滴引き抜かないようにって縛られたの!!」
心配して欲しくなくてそういう話し方をしたけど、
なんですぐまたそういうことを言うかなこの人は!!
「じゃあウイは、自分がどうなるかも分からない状況も、俺達と離れ離れになったことも、全然気にしなかったっていうの?」
そんな悲しそうな顔、しないで本当に。
私が辛かったことなんて、皆が知る必要ない。
皆には、気を使うとか腫れ物に触るような扱いじゃなく
いつも通りで居てほしい。
「それは悲しかったし、不安だったよ。ちょっぴり。でも、ベガス聖がなんで私を呼んだとか、どういう人だとかも割と早めに聞いてたから。それもそれで良いのかなって。少し楽しみだったのも本当。」
結局、キャプテンの言う通りか。
ウイは泣いた本当の理由を話す気はないようだし、俺らが気に病まないようにと
嘘をついている。
ウイの言う通り、確かにそんな状況であれば
涙も出るだろう。
でも普段のウイなら、それが嫌で泣いたとしても
声をあげて長時間泣き続けることはしないだろうし
それを指摘されれば
辛かったんだからもっと労って!とでも言ってきそうな所だ。
ベガス聖の話は、ロイもギリギリまで知らされていなかったと言っていた。
例えその話を聞いて、少しはほっとしたのが事実であったとしても
それまでの期間、ウイは自分がどうなってしまうかも知れず不安だったに違いない。
キャプテンにああ言われていなければ、多分俺はウイの優しい嘘にすっかり騙されていただろう。
キャプテンは、こうなることを分かっていたんだろう。
だからこそ、放っておけと言ったんだ。
なんだか自分が想像していた以上に
キャプテンはウイのことを理解していて
自分達が思っている以上に
ウイのことが好きなんだろう。
ウイは可愛い。
容姿も整っているとは思うものの
その明るさや人懐っこさは
彼女の魅力だろう。
独特というか、
面倒だったり、たまに毒々しい面を覗かせることもあるが
それは冗談で済ませられる程度というか
ある意味そこもウイの魅力だ。
ウイと一緒に旅をするようになって
それまでよりも確実に雰囲気は明るくなったし
何よりも彼女といると楽しいと思う。
でも、キャプテンは
そんなことでウイを好きになった訳じゃ
なかったみたいだ。
嘘をついて、自分たちの気持ちを軽くしてくれようとするウイ。
彼女の仕草や、口調や面倒臭さまで
気を使っていることすらを気取らせないように
そういう能天気な人間なんだよと言うように
本当に自分たちのことを考えて
優しい嘘をついているウイ。
そんな彼女を目の当たりにすると
きっと今までも知らないうちに彼女の優しい嘘に心を救われて来たのではないかと思えてくる。
そういう目で見れば
簡単に思い出せることが既にいくつか思い当たる。
全くこいつはしょうがねえ。
面倒くせぇ。
彼女に対して自分がそう思った時
それは全て優しい彼女の思うツボだったんじゃないだろうか。
何を言っても決して本当のことを言おうとしないウイ。
ペンギンもベポも恐らく同じことを考えているのだろう。
ここまで現状証拠を掴んでおきながら
自白させられないというのは
ウイは本当に困ったやつだ。
「あ、ちょっと待った!やっぱり私、凄い辛くて悲しかったの。だから泣いたの!ということで一人10個程私に露店の食べ物奢ってくれるよね。」
思い付いたかのようにそんな事を言い出すウイ。
少し欲張ったお詫びの品も
散々それらしく否定しておいて
わざとらしくお調子者ぶるのも
きっかけをくれるのも
本当にウイには、頭が下がる。
仕方ない。
どうせ勝ち目もないんだ。
ここはウイの作戦に乗っておこう。
「全員で10個にしとけ。急に食うと腹壊すぞ。」
「うわ。セコっ!そっか。皆が珍しく私の事労ってくれてると思ってちょっとほっこりしたのに。皆の私への気持ちはその程度か。」
ハイハイもう良いですよーと唇を尖らせるウイ。
一日一個までにしとけと頭を撫でてやると
1ヶ月おやつに困らない!と彼女は目を輝かせた。
そんなウイにお手上げだと内心ため息をつくと
自分と同じような表情を浮かべているペンギンとベポ。
どうやら彼らも諦めたようだ。
「シャチー。甘いの飲みたい。この前のはちみつレモン的なやつ!」
仕方のないお姫様だ全く。
マグカップを取り出しながら、ダイニングテーブルで久々に麻雀したいと話しているウイを眺めた。
なんだかこれからは彼女を見る目が、変わってしまいそうだ。
面倒臭い、ウザい、しつこい、と自分ごときが彼女にそう思うことがおこがましく感じてくる。
でも、きっとそう思われて、仕方なく付き合ってやる俺らとの関係が
彼女は好きなのだろう。
結局、聞き出そうとしたことは
彼女に余計に気を使わせただけに終わってしまった。
つまり、キャプテンの言う通りだった訳か。