6-3

「今戻った。」
「おかえりなさーい。」


がしゃがしゃと何か騒々しいと思ったら、彼らは昼間から麻雀をしていたようだ。
ウイの声に俺が戻ったことを確認したクルー達も、お帰りキャプテンと口々に声を上げた。


「疲れてるねキャプテン。」
「治療よりもババァどもの相手が面倒臭ぇんだよ。」


本当に。反吐が出る。
大した状況でもないくせに
ババァどもはここが痛いそこが痛い困っていると喚く。
通常の料金より格段に割の良い客なので
にこやかにとまでは流石にできないものの
ちゃんとした対応はしなけらばならない。

足を折っても栄養失調で死にかけても
けろっとしているウイを見習って欲しいくらいだ。

いや、彼女はむしろもう少し体が出すサインを正直に表に出してくれた方が良いかもしれない。
ウイは無理をしすぎだ。
心配をかけたくないのだろうけれど。

これで筋肉痛では大騒ぎするのだから、本当に彼女の強がりには呆れてしまう。

そんな事を考えていたら、自然と視線がウイに向いていたようで
それに気付いたウイがぎこちなく笑った。


「お疲れ様。」
「ああ。」


食べられる量が増えてきたこともあってか
ウイは少しずつこけた頬がふっくらとしてきた気がする。

彼女の体力が回復しているのは喜ばしい事なのだが
あれからウイの自分に対する態度がぎこちない。





当然と言えば当然か。

実際に自分も
どう接して良いのかが分からない。

触れたい、構いたい、彼女の側に居たいと騒ぐ心を
無理矢理押さえつけると
ならばどう接したら良いのだろうという疑問が沸く。

今は潜水艦の費用を調達に船を空けなければならないのは
かえって都合が良いかもしれない。

クルー達にも絶対にウイを一人で歩かせないようにはきつく言い付けてあるし
彼女も俺が側にいるよりは気が楽だろう。

気持ちを伝えてしまったことで
今までよりも格段に遠くなった気がするウイと自分の距離。




やはり、最初に決めた通り
言うべきではなかったのかもしれない。

でも、あの時はそれが出来なかった。
僅かな期待にすがり付き
ウイの事など考えずに
気持ちを抑えきれずに
ただ感情をぶつけた。

この初めて体験する恋という厄介なものは
正常な判断を狂わせる作用があるらしい。


「ツモ!4000オールね!!」


体力は減っても麻雀の腕は鈍らないらしい。
既に彼女の点棒入れにはごっそりそれが入っているが
更にそれを増やしたようだ。

飛んだらしいベポとペンギンも
わーわー文句を言いながらも、ウイとの久しぶりの麻雀を楽しんでいるらしく
洒落にならない状況なのにも関わらずどこが嬉しそうだ。





自分の気持ちは
知っていて欲しい。

ただ、ぎこちなく自分に接する彼女を見ていると
言わなければ良かったという後悔が押し寄せる。




あと2、3回往診に出れば潜水艦の頭金も事足りるだろう。
面倒な金持ちの相手も疲れるが、往診に出なくなってから
ウイと顔を会わせる機会が増えるのは
どうしたら良いものだろう。





こうして
クルー達とはしゃぐ彼女の様子を見ているのが
一番気が楽で落ち着く。

そこに自分が加われないことは悔しくも感じるが
今はこれで良い。

















「あ、そうそう。私皆に言いたいことあったんだった。」

シャチが作ってくれたクリームシチューを頬張り、じゃがいもがほくほくで美味しいなと悦に浸っていると
ふと、皆に言い忘れていたことを思い出した。

私の発言に皆が顔をこちらに向ける。
ローの顔も、勿論こっちを向いていた。

「私マジカル少女じゃなかったみたい。」
「誰もお前をマジカル少女だとは思ってねえよ。」

ペンギンの突っ込みが突き刺さるものの、
ちゃんとこれは伝えなければと気を取り直して口を開いた。

「私のビリビリするらしいあの不思議な力、覇気って言うんだって。」
「覇気?」

ローが眉を寄せて、それに食いついてきた。
他の面々も同じような表情をしている所を見ると、やっぱり彼らも覇気の存在を知らないようだ。

ロイから聞いた情報をそのまま彼らに伝えると
皆揃ってそんな存在があるのかと、お化けが捕獲されたような反応を浮かべていた。


覇気、か。

ウイが言うには覇王色の覇気を持つ人は限られるものの
武装色と見聞色の覇気は誰でも持ち合わせているものらしい。

個体差はあるものの、訓練によってそれらは覚醒し、強化される。

メルビスから見えないように指を翻した筈なのにメスがよけられたのと
太刀筋が全て見切られていたのは見聞色で
アンピュテートが通用しなかったのと
刀ごと斬られたのが武装色、ということか。


「なるほど。ようやく納得がいった。」
「だから皆もそれ使えるようになればもっと強くなれるよ!」


ウキウキとしたウイの顔。
俺にその顔を向けるのは、どれくらいぶりだろうか。


「で?それどうやって鍛えんだよ。」
「知らん。」


けろっと答えるウイに全員がガクッとずっこけた。
まあ、どんなものかが分かっただけでも良しとするか。



恐らく、ドフラミンゴは覇気を習得しているだろう。
例えそうでなくとも、己に伸びしろがあるのに
それを伸ばさずにヤツに挑むことなど出来ない。

覇気について情報を集めなければ。






往診をしながら拾える情報は収集していたのだが
ウォーターセブンが次に指し示す島は魚人島らしい。

そしてその島が次に導く島は新世界だ。

新世界にはドフラミンゴの治めるドレスローザも、ベポの故郷もある。
しかしまだ、自分たちはそこに足を踏み入れるだけの実力を持ち合わせては居ないだろう。





「ロー、具合でも悪いの?」


心配そうな顔をしたウイがこちらを覗きこむように見ていた。
考え事をしていたせいで、食事の手が止まっていたらしい。


「いや、なんでもねえ。」
「なら良いんだけど。」


あんまり無理しちゃだめだよ、とどこか遠慮がちにウイが笑った。
昼間疲れた素振りを見せた事を気にかけてくれていたのだろうか。

些細なことの筈なのに
それが堪らなく嬉しいと感じた。


順調に体力が回復した私は、シャチと一緒に夜の露店街を歩いていた。

「お前、俺は酒まで良いとは言ってねえからな。」
「っぷは!久しぶりだと格別だわ!」

夕方、食事の準備をしたくないと項垂れるシャチが
今日は食ってくるなり買ってくるなりして食えと料理ストライキを起こした為
こうして一緒に露店巡りをしていたと言うわけだ。

焼き鳥やフランクフルト、たこ焼きや焼きそば。
只でさえお酒が飲みたくなるようなものばかり。
それが目の前で調理されていれば
匂いだけでも飲みたくなってしまうものだろう。

「これだけあれば流石に足りるだろ。」

出掛けるのが面倒だとペンギンが駄々を捏ねたため、皆の夕食分も持ち帰りでパック詰めして貰った。
野菜が極端に少ない今日の夕食は、確かにボリュームだけ見れば満天。
沢山食べる皆でもこれなら足りるだろう。

「あー、もう。お前マジすげえな。よくあんな毎日あれこれ作るもの思い付くもんだよ。」

俺毎日飯何作ろうか考えるのが最近憂鬱、とぼやくシャチ。
その様子に一体どこの主婦だよと笑えてしまう。

もう大分体力も回復した。
シャチにも悪いし、そろそろ台所は返してもらおうか。

取り敢えず今日はこれでお腹を膨らましてもらおう。
お腹を空かせて待っているだろうペンギン。
回診に出掛けていたローも、もう帰ってきているだろう。
最近出掛けてばかりであまり姿の見えない彼。

居たら居たでやはりどこか気を使ってしまうものの
ローが居ないということをどこか寂しく感じてしまう自分が居た。

普通にしなければと思うものの、一度好きだと自覚してしまうと
今まで自分がどうやって彼に接していたかすら分からなくなってしまう。

彼の気持ちを受け入れなかった以上、気を持たせるような事も出来ない。
いつかは忘れてしまうだろうその気持ちも
流石にまだ、割りきれてはいないだろうし。


あまり船に居ないということもある。
元から口数が多いタイプでもない。

でも、あれからローは確実に私を避けている。

気持ちを受け入れられないと言ったのに
やっぱりそれは寂しい。


「お前はああいうの興味ねえの?」


つい物思いに耽ってしまって
シャチが隣にいるということを忘れていた。

彼は顎でアクセサリーを売る露店の方を指しながらこちらを見ていた。



「なくはないけど。でも商品作ったりするとき外さなきゃいけないし。」
「あー、なるほどな。」


確かにキラキラ輝く石や、可愛らしいデザインのアクセサリーに興味がないわけではない。
でも指輪やブレスレットは仕込みをするときは邪魔になるし
島で出歩く時ならまだしも
船の上にいる時はネックレス等もつけていない。

今さらながら思えば、自分はローの前で
結構ラフな格好ばかりしている。
自分が女の子らしい性格ではないことは自覚しているものの
身なりくらい少し気を使っておけば良かったかなと少し悔いる気持ちがないでもない。


「ピアスでも開けようかなー。」
「開けるなら俺やってやるよ。」


ピアスなら、仕込みをするときの邪魔にもならないし
いつでも身につけていられる。
手伝ってくれると名乗りを上げたシャチの耳にはピアスの穴が開いていた気がする。
シャチは実はお洒落さんだ。

普段帽子の影になって見えない彼の耳には
結構センスの良いピアスが刺さっている。


「でも、痛そうだな。どうしよ。」
「最初だけだって。お前面倒臭がりだから丁度良いんじゃね?」


穴できたらつけっぱだし、と言うシャチは流石私のことを良くわかっていらっしゃる。



ピアスかー。
私がピアスしてたら、ローは気付いてくれるかな。


自分の耳朶を弄りながら、
でもやっぱり痛いのも嫌な気がしてきて
どうしようかと少し悩む。


「何個いく?3、4個いっとくか?」
「いや、1個の時点でまだ悩み中だよ。」


根性なし、と笑うシャチを睨み付ける。

あっという間に港に着いてしまったため、
手に持っていた瓶のお酒を全て飲み干す。

酒の瓶しか持っていないことに今さらながら気付く。
当然のように荷物を全部持たせてしまったシャチにごめんと謝ると
良いからドア開けて、と両手の塞がったシャチが顎でドアノブを指した。

なんだかんだで優しい彼らに
最近の自分は随分甘えっきりだ。


「お前本当にどうしようもねぇな。」
「違ぇんだよキャプテン!これには続きがあるんだって!」

ドアを開けると、ローとペンギンの話し声が聞こえる。

(帰ってきてたんだ。)

荷物を持ったシャチを先に部屋に入らせながら、
何か自然にローと接する方法はないものかと頭を悩ませていると

リビングから聞こえてくる聞きなれない笑い声に自分の耳を疑った。


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destruct at reality.