「なぁウイ。人には…向き不向きってもんがあると思う」
「約束でしょ」
流石に今エースを連れてマリージョアに行くのはまずいよねって事になって、お礼のバーベキューはベガス聖の所有してる島でする事になった。
ベガス聖があれこれ育てさせてる物のお世話をする人しかいないその島は、貸し切りだから大丈夫って。
そこへ向かう途中、私は優雅にクッキー食べながら紅茶を飲んでた。
「もっと他の事にしよう!な?そっちの方が絶対良い!!」
「却下」
私がやるのの倍以上遅い
しかも凄い慎重にやってるんだろうけど 全部微妙に曲がってる
"ラベル貼り一ヶ月無賃労働"
罰ゲーム執行中のエースは、だぁぁあ!!って頭掻きむしりながら不貞腐れたように次のラベルを台紙から剥がしてた。
効率考えて 困っててそこの助けが欲しくてあの時これを言った訳じゃない
苦手なのも嫌がる事なのもわかってたから だから絶対負けないでって そういう意味で言った
「ウイは愛する俺がこんなに苦しんでんの見ても心痛まねぇのか…そうか…酷ぇ女だ…」
「教育的指導です。しっかり苦しんで…もう二度と負けないで下さい」
「ったく…」
相変わらずブツブツ言ってるエースの顔が、ほんの少し変わった。
実際私もエースも冗談半分な文句の応酬でしかない。
でももう二度とあんな思いはしたくないよって、そんな本音を混ぜた執行の継続通達の裏側にエースは気付いてて
愛の鞭なら全うしようって、そんなとこだろう。
「なぁ、ベガス聖ってどんな人?」
「美味しい物と面白い事が大好きな…子供っぽく見えるけど凄い物知りでやり手な…愉快痛快ちょい悪親父…?」
ベガス聖をどんな人か説明するのって、凄い難しいな。
それだけ濃いんだ。
特濃。
「…良いヤツそうなのはわかった」
「エースも絶対好きになるよ」
きっと今頃、ベガス聖の頭の中はバーベキュー一色。
絶対珍しい塩とかタレとかめちゃめちゃ買い込んでて、お酒もキンキンに冷やしてて
ルンルンしながら同じ方角を目指してる。
エースはラベル貼りにうんざりしてるけど
そんな大好きな人を特にする事もなく眺めていられて、楽しみな予定が待ってて
平和ってこういうことかって、それを噛みしめてた。
「不器用なのに真面目だよね、エース」
「だってこれ売り物だろ?」
そういうとこだよ
私と一緒にいるエースは
四皇に属する実力者でも、海賊王の息子でも
もう海賊ですらない。
大好きで仕方ない、ただの男の子だ。
「おおお!火拳のエース!無事で良かったえ!!」
「はじめ、まして…」
エースの手を強引に握ってブンブン振るベガス聖のテンションに あのエースが引いてる…
待ち合わせ場所のビーチに私たちが着いた頃には、ベガス聖はお付きの人たちにあれこれ指示出しながらバーベキュー会場をセッティングしてた。
ベガス聖のテンションには慣れてた私は、別の物に面食らった。
どんだけ張り切ったんだベガス聖
食材が詰め込まれてるだろう巨大クーラーボックスがいくつも積まれてて
特設キッチンにシェフ、氷が山になってるたらいにはお酒も沢山ささってて
食べるスペースには日よけにテーブルに椅子、南国っぽい葉っぱや花まで飾られてた。
「まずは乾杯しようえ!ウイはこれだし…エースは何が良いかえ!?」
「え…俺も?…じゃあ同じので」
火力にだけなるつもりだったらしいエースが、渡された瓶を受け取って
「「かんぱーい!!」」
「…乾杯」
3人で瓶を合わせた。
「っぷはー!青空の下で飲む泡は最高だえ!!エース!まずはこれだえ!!ブルー、レア、ミディアム、ヴェリーウェルダンに同時に焼いて欲しいえ!!」
「……」
ベガス聖に腕を鷲掴まれたエースが凄い戸惑ってる
…こういうエースってなんか新鮮だ
「あ、そっか!えっとね、こっちとこっちは最大火力で表面焼き色付ける感じで、こっちは半分中まで火が通るくらい…これは弱火でじっくり中まで火を遠す感じでお願い!」
「…りょーかい」
特設の焼き場を前にエースが肩をコキコキならしながら回してる。
ちょっと特殊な焼き加減の名称とかそりゃ戸惑うか
「エース!!食べ比べしたいんだえ!同時に食べれるように仕上げて欲しいえ!!」
「注文多いおっさんだな…」
「じゃあブルーの方まだ冷やしとこうか?」
「同時に食べれるならなんでも良いえ!!」
エースの助手になってる私はレアよりレアな焼き具合、ブルー用のお肉をシェフにお願いして冷やしといて貰った。
焼く以外の調理の為に呼ばれたその人たちが下処理してる食材の山に、美味しそうとか以前に苦笑いだ。
どんだけ食べるつもりだ
そんな中、色々焼き慣れてるだろうエースはお肉の厚みとかを確認しつつ首を捻りながら腕に炎を纏う。
「おおおおお!!凄い!!凄いえ!!火の玉だえ!!流石だえエース!!」
「なるほど!!確かに!!これは凄い!!!これは思いつかなかった!!!」
「煩ぇな…」
火力になるって言っても、てっきり普通に焼くのを想像してた。
でもエースは、お肉を炎で囲むっていう斬新な調理法をやってのけた。
急に出現したお肉の何倍もの大きさの炎の塊は、ただ圧巻。
何かのショーみたいだなってそれを眺めつつ、焼くのはエースにお任せしてベガス聖の隣に腰を降ろせば
そこには沢山区分けされたお皿に予想通り色んな塩が用意されてた。
「こっちから藻塩、レモン塩、抹茶塩、トリュフ塩、ハーブソルト…このハーブの配合がまた堪らないんだえ!後は──
「なぁ!焼き上がった肉どうすりゃ良いんだ?!」
「シェフに切って貰うえ!それでこっちが…」
ベガス聖の得意気な塩の説明を聞きながら、お腹鳴りそうになるお肉の匂いに顔がにやける。
これ絶対美味しくて楽しいやつ!!
「うんまー!!!」
「旨いえ!最高過ぎるえ!!エースも早く食べるえ!一番旨いタイミング逃したらダメだえ!!」
焼き分けられた最高級の霜降りステーキに、色んなお塩。
頬っぺた落ちるんじゃないかって位最高に美味しい。
脂が甘い!
レアなんて口に入れた瞬間溶ける!!
はしゃぐ私達を尻目に、ベガス聖に張るくらい食べ物に目が無い筈のエースはステーキに手をつけない。
どこか腑に落ちない感じなエースを伺うように見てたちょうどその時、意を決したようにエースが立ち上がった。
「本当に…ありがとうございました…!」
体の脇にびしっと腕を付けたエースが深く腰を折る。
寝ながらだって食べるくらい食い意地張ってる癖に、その食べ物を前に義理を通す。
本当に 根が真面目なんだエースは
「こっちの方が礼を言いたいくらい旨いえ!!良いから早く食べるえ!!」
「…え?あ、あぁ」
そんな事どうでも良いとでも言いたげな鬼気迫るベガス聖の勢いに、押され負けたエースがお肉に手を伸ばす。
食い入るようにエースの顔を覗き込んでいたベガス聖は、一口食べた瞬間美味しいが隠しきれなくて見開いたエースの目に満足気に頷いた。
「う…旨ぇ…!!!んだこれめちゃくちゃ旨い!!」
「肉も!肉も良いんだえ!でも全方向からエースが焼いてくれたお陰で肉汁が全く逃げずに閉じ込められて──」
興奮した二人はそれはそれは瞬く間に焼き具合の異なる極上のステーキを平らげて、エースはもうお礼だとか自分も混ざって良いのかとか頭から完全に抜けてお肉に夢中だし、ベガス聖のお肉談義も止まらない。
適当に相槌打ってるエースは半分も理解してなければ、まず聞いてもないなあれは。
「次はこれだえ!!」
「海老?…しかしデケぇな。これはどう焼く?」
運ばれてきた私の腕くらい太さのあるまだ生きた海老を鷲掴んだエースが、ベガス聖から直々に焼き具合をレクチャーされてる。
もう心配いらないくらい馴染んでる二人にほっとして
美味しい物食べてるエースも
無邪気だからすぐに誰とでも打ち解けてしまうエースも
出会い頭に言いそびれたお礼をちゃんと言おうと意気込んでたエースも
やっぱりこの人の全部が大好きだなって改めて思った。
ベガス聖に関しては
私がラベル貼りを罰則にしたのとは違う意図でこれを考えてたんだろうなって思った。
ネタとかお茶目な嫌がらせとかじゃなく
この人は本気で美味しい物を食べる為にこれを言った。
絶対そう。
「エース!海老旨いかえ?」
「最高だ!旨い!!旨すぎる!!」
「また焼いてくれるなら肉でも海老でもいつでも取り寄せるえ!!」
「マジで!!?やる!絶対焼く!!!」
見事に懐柔されてるエースは、しめしめ笑ってるベガス聖のしてやったり顔には気付く事なく海老に食らいついてる。
食材が既に美味しいんだろうから、私にはエースの自由自在炎がこれをどれだけ美味しくしたかはわからないけど
ベガス聖のあの前のめり具合なら、それは結構大きいんだろうな。
大好きな人同士が仲良くなってくれるのも嬉しい。
それにまず、美味しい。
美味し過ぎる。
ありがとう ベガス聖
エースを助けてくれて
エースをこんなに笑顔にしてくれて
そういえば久しぶりだ こんな楽しそうなエースの顔見たの
サザエにアワビに牡蠣でしょ
色んな部位のお肉に果物かってくらい甘味の強いお野菜達
香りの強い不思議なキノコに…
途中からお腹いっぱい過ぎて一口貰うだけになってた私を尻目に、二人は食材の山を綺麗に食べ尽くした。
夕暮れ前、ベガス聖の船は島を発った。
流石に今はあの大きな騒動の直後。
なんとまあベガス聖はこっそりマリージョアを抜け出して来たらしい。
長く空けると流石にバレるえって、あのお茶目な笑顔で
ベガス聖は嵐のように去って行った。
「なんか…ウイが言ってたまんまの人だったな」
「好きになったでしょ?」
あの後やっぱりちゃんとお礼を言おうとしたエースに、ベガス聖が要求したのはメラメラの実バーベキュー一生利用権。
エースはお礼になってないって納得してないみたいだけど
あの感じじゃベガス聖棚ぼたラッキー!くらいに本気で喜んでるから心配ないと思う。
「反省した。…誰よりも勝手な偏見不満に思ってた癖に、俺も同じだったって」
「…ロジャーのこと?」
真っ赤な太陽が沈んでいく水平線を眺めながら、エースは黙って頷いた。
それは…なんて言うか…
「確かに偏見は良くないけど…ベガス聖が特殊なだけで他の天竜人はイメージ通りな感じっぽいよ?」
「だとしても…否定から入ったら気付けねぇじゃん。あんな良いおっさんいねぇよ」
それは完全同意だ。
ベガス聖は"天竜人にしては"いい人な訳じゃない
あんなに面白くて優しくて楽しい人中々いない
「ベガス聖ね、基本誰にでもあんな感じなんだけど…家族とか使用人とか、お付きの人達の方がやっぱり遠慮がちな感じなんだよ」
「あのおっさん、高慢ちきな嫁貰わなそうだもんな」
エースの予想に首を縦に振る。
悪い人ではなさそうなんだけど、やっぱりベガス聖を天竜人として見てるっていうか
失礼を働いたらいけない、気分を害させちゃいけないって、一線も二線も引いてるのが私から見てても丸わかりだった。
「ずっと…寂しかったんだと思う。だから今日ベガス聖、バーベキューもだけどエースが普通にしてくれてて、嬉しかったと思うよ」
「俺はただ旨かったし楽しかったけどな。あとあんなに喜ばれっと…なんか得意気だった!ウイいつも飯作ってくれっときこんな気分だったのか」
普段のエースは感情が周りにストレートに伝わるから
ベガス聖もそんなエースと一緒に過ごして、楽しかったと思う。
「お料理に目覚めた?」
「焼くだけなら」
ならベガス聖がいないとエースは得意気になれないね
極上食材と美味しい調味料がなければ、どんなに絶妙に焼いても美味しくないじゃん
お互いがお互いと居る事で何の無理も我慢もなく幸せで居られる存在。
エースとベガス聖も、エースと私も
正にそれだ。
「私達も行こっか!」
「だな!!」
差し出した手を当たり前に取ってくれる大きな掌を握りしめた。
大きくてあったかくて、ゴツゴツする手。
まだ恩返しは終わってない。
命懸けで助けに来てくれた白髭海賊団の傘下の皆にも、出来る事の全てをして回ろう。
きっとその先で
色んな事を学んで、思って、それは積み上がっていく。
エースのいる明日は ただそれだけで待ち遠しい
エースといる今は 心の奥にしまいこんだ不安も怖くない
エースと過ごした昨日は ただあったかい
こんな私の心に咲いてくれた炎の花
私はそれに光と水を与えよう
緑の生い茂る草原だろうと
枯れた大地だろうと
月も見えない夜空の下だろうと
その赤は私に希望と活力をくれる
咲き誇れ FOOTBALL LILY
—END—