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ガキィィンっ!!


「何だ…いきなり」
「傷心のキャプテンを慰めようと思って」








何も考えられねぇってのはこの事かと、思い通りに働かねぇ頭にうんざりしながら潮風に吹かれてた。


何も考えられねぇ訳じゃねぇ
頭が言うことを聞かねぇ ただそれだけだ


ウイに振られた。
振られた?

別に恋人でも何でもなかった。
互いに互いを好きだろうと言う曖昧な関係、そこを不満に思いながらも
曖昧だからこそ好きなようにやってきた。







頭を占めるのは 後悔








あの時あれこれ考えずに押しきっていれば
あの時素直になれていたなら
あの時遮らなけりゃ


そんな場面、いくらだって沸いて来た。


そうしたのは俺だ
何を捨てても求めていれば こんな結末はなかった
全てを捨てても良いと思うほど失いたくなかった


だがそれを決めるのは今ではなかった
遅すぎた

今の俺には
戻らねぇ物に縋って 抱えて来た大事な物を捨てようとした愚かさしか残らねぇ


ウイに 曖昧さに甘えてた


あの時は本当だっただろうウイに求められるあの感覚が
ぬくもりが
あの時求めていれば今もここに居た筈のウイの笑顔が

拠り所にしていた全てがもう 夢で嘘に変わってしまった


俺が悪い
俺の責任

だが なぜどうしてと責めたい気持ちが沸き出て来るのは止まらなかった


その理由を突き詰めれば 自分の愚かさにぶち当たる


そんな虚しいだけの堂々巡りを青空の下で繰り返していた最中、襲いかかって来た鋼を鬼哭の鞘で防いだ。


「…ほっとけ、俺も言いたい事は言った」
「じゃあ付き合えよ、俺も言いたい事言ったけど…!どうしようもねぇモンが暴れてて、手がつけらんねぇ…!!」


ギリギリ音がする程の押し合いを弾き飛ばして立ち上がる。

着地してしゃがみこむペンギンの後ろには、指をボキボキ鳴らすベポと剣を構えるシャチの姿。


「なんなの本当に!!?キャプテンの馬鹿!!キャプテンに任せとけば!またいつかウイと一緒にいれるって!そう思ってたのに!…っこの大馬鹿野郎!!!」


喚き散らしながら構えの体制を取るベポとの間合いを確認した。


「俺はこの白熊程キャプテンを責めちゃねぇけど…ちょっとどうしようもねぇもんが流石に…あっからさ。相手してよ」


狙いを定めるようにタイミングを計るシャチも
いつ振りかぶって来てもおかしくなかった。


「この流れだと俺も何か言った方良いの?…いらねぇよな。…言えねぇ事を消化しきれなくてしんどいのは、同じだろ…!!」


ガキィン!キィィンッ!!


特攻で仕掛けて来たのはペンギン。
一撃も重ければ速さもある。

だがしかし、俺が見込んでたこいつの最大の長所が
そこにはなかった。


「雑にも、程があンだろうが!なんだ…!このデタラメな攻め方は…!!」


鞘を抜いた鬼哭の刃が、ペンギンの槍が振るう猛攻を全て捉える。
訓練なら指摘事項が多すぎるそれを、言う間もなく別の獲物が割り入って来た。


「っ!!っとに…!」


受けきったつもりでいたペンギンの突き。
軽く弾き距離を取ろうと刀に力を込めたそのタイミングで、がら空きになった胴周りに迫る真剣。

実戦なら一瞬で回避出来るその対処に、能力は使わなかった。
使えなかった。


これは"俺が"受け止めなきゃいけねぇと、青臭い思考が体を突き動かす。
ペンギンを弾き飛ばす予定だった鬼哭がシャチの剣を受け止める。
避けきれず掠った槍の先が、腕に赤い線を走らせた。


ニヤリと吊り上がるペンギンの口元を視界の端に捉えながら、踏み込んでくるタイミングでシャチを押し返す。

だがペンギンの再襲は受けるのを止めた。
物の移動とは違う気配に、後方に飛び退く。


「なんでキャプテンもウイも!!面倒臭過ぎ拗らせ過ぎなの!!」


さっきまで居た場所に撃ち込まれた毛皮に覆われた拳が、床板を黒く焦がした。





おい 訓練用の武器じゃねぇモン持ち出すペンギンとシャチにも言える事だが
本気でヤる気じゃねぇか

当たってたら死んでんぞ…!!




エレクトロを腕に纏うベポの睨みに内心ため息を吐く。
安全圏で一息つく間も与えられず、クルー達の
古参の体当たりの猛攻をかわし続けた。


これまで守らなければと思ってきたコイツらは 本気で相手をしなければ死ぬレベルの頼もしさを
いつのまにか身につけていた


やりにくい
味方であれば俺を正確に把握している事は称賛モノだが

それを相手取るとなるとこれは厄介だ


あっちがいくら本気でかかってこようと 流石にこの状況で殺す気では出れねぇ
ペンギンとシャチはまぁ良い
獲物が本体じゃねぇコイツらのそれは鬼哭で受け止められる

だが


「キャプテンが悪い!ウイもバカ!!…あの頑固者なら!一度決めたら二度と戻って来ないって!!」


タチ悪ぃのはベポだ。
コイツの武器は自分の体。

鬼哭は触れるだけで生き物なんて容易に切り裂く。
受けようと思えばそれで止められる攻撃も、今は避けるしか手段がねぇ。


「キャプテンだってわかってた筈でしょ!!!」


それに加えてこの煩さ。


わかってる
全部わかってる

悪いのは俺だ


上がってくる呼吸と、連携の度合を上げてくるコイツらに
流石に押され始めた。

攻められねぇ状況でのこれは…厳しいにも程がある。


シャチが振りかぶって来た剣を鬼哭で止めて、ペンギンの槍の柄を鞘で弾き飛ばした。
切り傷よりはマシだろうと、打撲を覚悟したその瞬間


「ガッ…ハァ!!!!」
「っ!!!キャプテンが!!こんなだからっ!!!だからウイだって!ヘタレたとこ見せらんないんだ!!!」


この白熊を、俺は評価していたつもりだった。
俊敏さ、力。
とんでもねぇ威力なのは俺が一番知ってるつもりだった。

だが実際、脇腹にのめり込んだのは全くの別物。


生身の攻撃とは違う、武装色の覇気を纏った拳。
それを受けた体が悲鳴を上げた。


「…っくそ、」
「いつも守ってやるって!全部自分がなんとかするって!!そんなキャプテンだからウイは甘えられなかったんだ!!!」


狙うなら今は好機。
それを前に攻撃の手を止めたペンギンとシャチも
この喚き散らす白熊をこのままにしときてぇ意図があんだろう。


「でもウイも悪い!!どっちも!!どっちも馬鹿!!もうやだ本当にぃ…!!!」


わんわん泣き出したベポに
普段は素知らぬ顔でイキりたがるベポの泣き叫ぶその様に

自分の涙を代わりに流して貰えているような
妙な心地を覚えていた。


「なんでキャプテンは…!!いつも預けたり任せたりしてくれないの!!?俺らだってウイだって!キャプテンには及ばないかもしれないけど強くなる!!」


それは…


「少しずつだけど!ちゃんと強くなってる!!」


食らった痛みが何よりも物語ってる
いつの間に武装化を 戦いながら扱えるようになった


「でも!!俺が守るって!俺がなんとかするって!!」


痛みをやり過ごして逃がしながら
相変わらず喚き散らす声を聞いていた


「頼もしいけどそんなキャプテンだから!!だから見誤って痛い目見たんだ!!ざまぁ見ろ!!」













大事なモン守ろうとして何が悪い


まず頭に浮かんだのはそれだった。


だがあれだけ
変わらなくて良いと、面倒臭ぇのも支えると、全部捨てるから傍に居ろと言っても
それをツラいと言ったウイの心境の補足を、ベポが喚いてる事に気付いた。













「でも…ウイも同じ…!あのバカはいつも!何回言っても無茶しかしない!!」


そこは違いねぇとしか──
「ドフラミンゴの取引相手、カイドウだって」













は?














「それと"smile"。ウイ俺らに隠れてドフラミンゴと接触してた。ちょっと前までのウイは!性懲りもなくキャプテンの為にそんな危ない橋渡るくらい!」













待て
どういう事だ












「それだけキャプテンの事が好きで大事で!!仕方なかったのに!!!」


ドフラミンゴとカイドウに取引があって?
それに繋がるワードがsmileで?

その情報を手に入れる為にウイは
あれだけ言って聞かせたのに 知らねぇ間にまた滅茶苦茶な事やってて
でもそれは俺の為で


アイツはいらねぇ優しさと届かなかったぬくもりの面影を
ちゃっかり残していきやがった












「アイツも俺も…本当にバカだな」
「ウイは今!楽になれたかもしれない!!」


振りかぶられる拳は、今度は鬼哭で受け止めた。


「でも!!絶対キャプテンとだったら!!…ウイは今より幸せだった!!!」


追い討ちをかけるように飛び掛かって来た二つの鋼も
俺が"俺自身で"、しっかり受け止めた。








反省すべき部分は多大にある。

だが、今はまず
コイツらを捌く事で靄を発散させて貰おう。















ポーラータング号の甲板上の熱戦は、日が暮れるまで続いた。


逃してしまった存在は、彼らにとってそれ程大きかった。
絶縁した訳ではないにせよ、これまで通りともいかない。
いつかまた共に在る筈だった未来も消え失せた。


虚無感と憤り。
違う道を選んだとは言え、大切である事に違いない仲間にそれはぶつけられない。
彼女の幸せを誰もが願っているから。


ただそれは、自分達と共に分かち合って欲しかった。


思い通りにいかぬ事への駄々。
もう子供とは呼べぬ、男同士のそれのぶつけ合いは
血と汗とは別の何かもまた、流れたのかもしれない。

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destruct at reality.