1-1
一心不乱に走った。
閑散としたマリンフォードの街を。
途中聞こえた地鳴りや破壊音は、味方が発したものだと信じたい。
でもきっとそう。
私の家族は強いもん。
新世界一の海賊だもん。
あとは私が頑張るだけ。
戦局が思う方向に傾いていたとしても私の方が見つかってしまえば皆もエースも喜ばない。
叶えるんだ。
あの人が隣で笑ってる、あの日々の続きを。
その為に、走るんだ。
ドゴォォォオっ!!
踏み出した足の着き方がわからなくなる程の震動が足元を揺らした。
パパ怖って思いながら、それでも走る。
パパが戦ってるところって実は、初めて会ったあの日と今日以外見たことない。
いつか敵いようのない圧倒的な強さを見せつけたパパはきっと、あの時手加減どころか戦ってるつもりすらなかったんだろうな。
海賊王に一番近い男の本気。
エースが解放された事で、遠慮とかもなくなったんだと思う。
その後もあまりにも頻発する地震には
あっちの状況は分からなくても、皆が圧勝してる気しかしないっていうか…
ちょっと暴れすぎじゃなかろうかと苦笑いまで浮かんでくるくらいだった。
やっとの事で戻ったベガス聖の船。
気を失わせた哀れな処刑人の誰かさんを、服を返して外に放り投げる。
ごめんなさい。
でもありがとう、助かった。
後はベガス聖が戻るのを待って、それ以上の詮索が及ばない事を祈るだけ。
パパ達を、エースを信じてた。
皆なら、私の家族なら
ここを乗り切れるって。
一応心配はしつつも、既にそわそわするのが止まらない。
早く皆の所に戻りたい。
早く会いたい。
早く皆に謝って、無事を喜んで
飲めや歌えやってどんちゃん騒ぎしたいなって。
ベガス聖の船室のクローゼットに身を隠しながら
今日一日頑張った自分の体を抱き締めた。
エースにも
また抱き締めて貰えるかな。
「野郎共!引けぇっ!!」
「待たんか!腰抜けの老いぼれが!!」
目的を果たした白ひげ海賊団は、追っ手を交わし船へと走る。
揺れる足場は彼らにとって慣れたもの。
喉元に刃を突き付けられていた人質は、今や味方の重要戦力。
守りを固めた敵の巣に踏み込む事から味方の多い後ろへ退却するのみとなった彼らの優位は明らかであった。
白ひげが揺らす大地に、海兵達は思うように彼らを追えない。
海軍に属するロギアの力を持つ者が、揺れを逃れようと自然元素に姿を変えようものなら
安全圏まで逃げた海賊からの覇気の込められた銃弾がその身を襲う。
退却手段を絶とうと船を狙って火を吹く大砲は、世界一硬い体を持つジョズが全て叩き落とした。
「用が済んで長居するバカがどこにいる、グララララ!!」
白ひげが打った拳は、一際大きな揺れに耐えかねた島をまっ二つに割った。
味方の援護の為にと頻発していた大地震は、第二の役目を果たすべく沖から大量の海水を引き連れマリンフォードに迫る。
「俺ほどはまだ老いぼれてはねぇだろうが、おまえらも今日は疲れたろ。存分に休め」
大津波を凍結させる為動いた青雉が不在の島の地割れ地点。
そこからは突如、大量の湯が噴き上がった。
硫黄の香りと湯気を辺りに充満させる海水の混ざる温泉の鉄壁が海賊と海軍を分かつ。
「おっと…俺が休むのはまだ早いな」
「オヤジこれも調べてたのか!?すげぇな!!」
自身にも掛かった温泉を払いながら、目を輝かせる息子達に白ひげはニヤリと笑った。
どんなに覇気を極めようが、どんな偉大な能力を持ち合わせようが
上空高く噴き上がる海水の壁は青雉なしではなす術がない。
どうせすぐに津波を処理してここに戻るだろう青雉。
しかし僅かでも時間が稼げれば、マリンフォードを無事脱出する策を白ひげは練っていた。
全ての乗組員を乗せたモビーディック号は全速力で沖へと進み、立ち塞がる津波であった氷の壁は意図も簡単に崩される。
傘下の海賊達の手を焼かせたパシフィスタ達も、本船に乗り合わせる隊長達の前では脅威にすらならなかった。
「グララララ!!!」
白ひげの持つ大鉾が大海原へ向かって下ろされると、海は割れた。
抉れた場所へと流れ込む海水が、海賊を乗せた大艦隊を高速で沖へと運ぶ。
船の上では暫く
歓声が止む事はなかった。
「いやぁ…疲れた疲れた!」
「相変わらずすげぇなオヤジの本気!!」
「痛ぇ…!ナースいねぇんじゃん!!マルコ!!おまえどうにかしてくれよこれ!!」
あっという間に、マリンフォードは豆粒にしか見えぬ程遠ざかっていた。
船の上では大仕事を終えた男達の興奮も徐々に冷め、日常を取り戻しつつある。
「ご迷惑を…おかけしました!!!!」
そんな中、一人の青年が甲板に手を付き頭を下げる。
俗に言う土下座だ。
その声量のある謝罪は、船の上から他の男達の声を消した。
頭を上げる様子のない半裸の男。
波の立つ音だけが、そこには響いていた。
「エース、無事で良かった」
「オヤジと…皆のおかげだ!!本当に、申し訳ねぇ!!!」
白ひげ以外は誰も口を開かない。
静かな沖では、モビーディックが引き連れる傘下の船へも
エースの声は届いていた。
「過ちを犯さねぇ人間はいねぇよ」
「でも!!俺のせいで大勢死んだ。迷惑もかけた。怪我もさせた…すまねぇ皆!!!」
無事目的をなし終え、彼を救い出せたとは言え
犠牲は確かに大きかった。
散った命、一生残る程の傷、大破した船。
「責める気のあるヤツは、元から来てねぇだろうよ。…だが一生忘れるな。全部受け止めて、乗り越えろ」
「オヤジ…」
いつまでも湿気たツラはするなと、父親は息子を諭した。
そうは言われても失ったものは大きすぎる。
未だ付いた手を離せずにいた彼を見かねた白ひげは、辺りの船へ向けて声を上げた。
「おまえらもご苦労だった!今後は遠慮なくこの馬鹿息子を使ってやってくれ!!グララララ!!」
「船直すの手伝えー!!」
「俺らンとこなんてねぇよ船!!買うから金調達して来い!!」
「肩でも揉ませるか」
絶え間なく上がる白ひげ海賊団二番隊隊長を使役しようという声は、彼らなりの優しさ。
失ったものを軽んじる訳ではない。
誰しもが悼む思いをその胸に抱えていた。
だがしかし、彼らはそれなりの覚悟を持ってこの場へ出向いた。
例え悼まれる側に自分が居たとして、命と引き換えてでも救いたかった彼の心を曇らせたいとは思わなかっただろう。
「おまえら…」
止むことのない要求は、良い女紹介しろやら旨い酒持って来いやら俺の靴磨けやら
徐々にそっち側へエスカレートしていった。
彼らの気持ちを汲むのなら、ここで文句の一つでも言うのが正解だろう。
だがエースにとって今回の件は、それも出来ぬ程大きすぎる出来事であった。
俯きながら立ち上がった彼の目には
悔いと反省、そして新たな決意が宿る。
「…必ず!必ずこの恩は返す!!本当に、ありがとう!!!」
その目で傘下の海賊達を見据え垂直に頭を下げたエースを、良いパシりが手に入ったとゲラゲラ笑う男達の声が受け止めた。
エースはその心に新たな決意を刻む。
あの時助けて良かったと思われる人間になろうと、彼は誓った。
海軍本部から大分離れたとは言え、いつまでも固まっているのは得策ではない。
徐々に分散していく大艦隊は、日が暮れる頃にはモビーディック号一隻になっていた。
ぷるぷるぷる
ぷるぷるぷる
そんな中船に響くでんでん虫の着信音。
その虫は今回の救出劇でMVPとも言える働きをした人物を真似ていた。
「はいよ。そっちも無事かよい」
『マルコ!!?大丈夫だったらしい事はベガス聖に聞いたんだけど!追っ手とかは!?怪我は!!!?』
スピーカーモード不要の大音量が、受話器に耳を付けていたマルコの鼓膜を襲った。
彼の問いかけへの返答はないものの、彼女の様子がそれを物語る。
続々とでんでん虫の周りに集まり出す白ひげ海賊団のクルー達が、おまえ中々やるじゃねぇかと末の妹を称賛した。
「あの天竜人良いヤツだな!!不覚にもあの名演技には笑ったぜ!!」
『でしょ?もう本当ベガス聖様々だよ!!』
今度こそスピーカーモードに切り替えられたでんでん虫で、彼らは無事を確認し合い他愛のない話に花を咲かせていた。
ベガス聖が要求したエースからのお礼は、そんな彼らに更なる爆笑を巻き起こした。
メラメラの実の直火でバーベキュー。
細かい火力の調整が自在なそれで、世界一のグルメは最高級の食材を炙るつもりだろう。
『すんごい良いお肉取り寄せるって言ってたから、エースきっと脂でギットギトになるね!』
「責任感じて落ち込んでるみてぇだからそんくらいが丁度良いだろ」
そのバーベキューには、面白い物見たさの野次馬が殺到するかもしれない。
「おう!じゃあ気をつけて来いよ!!」
『皆も油断しちゃダメだよ!』
船室から出ると、でんでん虫を通した聞き慣れた声が耳に入る。
それにガバリと顔を向けたものの、寸での所で間に合わず通話は切られちまった。
「おーエース!今ウイから連絡あったぜ!!」
「今は流石にマリージョアも厳戒態勢らしいよい。明日の朝、こっちに向けて出航するってよい」
さっきまでより皆の顔が明るい気がする。
ニヤニヤ笑ってる気もしなくねぇその顔に、ウイは俺らの事を報告したんだろうかと急にそわそわしてきた。
「ウイなんか…言ってたか?」
「いつも通りぴーちくぱーちく喋り捲ってたぜ?エース天竜人様々のバーベキューの火力になるらしいじゃねぇか!!」
「マジ傑作!!」
ゲラゲラ笑う仲間達に、ニヤついてた理由を悟った。
確かに言ってたな。
あれだけの恩を受けて断るつもりもねぇけど
やっぱ本気なのか…。
ウイがあそこに来る為の手助けをしてくれただけに留まらず
あの天竜人は絶好のタイミングまで作ってくれた。
礼がしたいだけじゃねぇ。
会ってみてぇと思った。
サボを殺した憎い対象でしかなかったヤツラにも、あんなヤツがいるんだと衝撃を受けた。
「おまえにもよろしく言っといてってよい。そういやオヤジは?」
「…中だ」
ウイはまだ、俺らの事は皆に言ってねぇようだ。
色んな事がありすぎて、やっと落ち着いて。
助かった実感とそれと引き換えに失ったものへの感謝と反省や後悔が押し寄せて来て
生きていく中でその恩返しを心に決めて
今思うのは、アレは本当に現実だったのかって疑問だ。
あの時確かにウイが居た。
処刑人だなんて想像もつかねぇものに紛れてウイは俺を助けに来てくれた。
原理もわかんねぇ何かで手錠を解いてくれて…俺を好きだと言ってくれた。
あれは現実だったんだろうか。
こんな日に飲まねぇ理由はねぇと、宴を開く許可を得にマルコがオヤジの元へと向かう。
その背中を見送ると、自然とでんでん虫に目が向いた。
夢じゃ、ねぇ筈。
今かければあれはウイに繋がって、それも確認出来る。
でもそれを出来なかった。
出来すぎてるこの状況が、なんか怖かった。
オヤジがそれを却下する訳もなく、その日宴は開かれた。
改めて謝って、礼を言って
くそ程飲まされた。
捕まってから今まで酒なんてものを口にしてなかったせいか、拷問や逃走劇で俺も疲れてたのか
面白い程酔いが回った。
皆もそれは同じみてぇで
日付が変わるより前にほぼ全員が寝落ちだ。
酔ってる。
疲れてる。
でも重く感じる体に眠気は襲っては来なくて、甲板に仰向けに寝転んで空を見上げた。
こんな気分で眺める夜空の星達は、失わせてしまった命に思えてならなくて
気付けば伸ばしていた手が何も掴めねぇまま宙をきる。
これからの方向性は纏まったとしても、考えてぇことは山程ある。
ありすぎて、何から考えて良いかわからなくて
結局容量のねぇ頭はウイの事を考え始めた。
どんなに望んでも手の届かなかったものを、届く見込みもなかったものを
俺は今持ってるらしい。
夢じゃねぇなら。
明日になれば会えるってのに
これまでも何度も会いたくて仕方なかったってのに
もう一度だけで良いからあの顔が笑うのをこの目に焼き付けたいと、そんなささやかな事を何度も願って
数時間後にはそれが現実になるってのに。
今まで一番今、ウイに会いたかった。
会いたくて仕方なかった。
そろそろ寝ようと閉じた瞼の裏で
ウイの笑う顔が何度も浮かんできた。
次に抱き締めた時はもう、一生離さねぇ。
ウイが良いって言うなら遠慮もしねぇ。
何でもそつなくこなしてにこにこ笑ってる裏で、いつだって不安を抱えてるアイツを
何度だってこの腕で抱き締めよう。
不安になんてならねぇくらいに、これまで溜めまくったこの気持ちをぶつけよう。
死んだと思ったこの命には続きがあった。
物心付いた時からずっと自問自答してきた事に、最高の答えを貰えた。
ただ仲間の為に、大事な奴らの役に立つ為に生きるってのは
こんなにも爽快なものなのか。
そしてその隣には#Name1#がいる。
ウイがいてくれる。
やっと襲って来た眠気に身を任せながら
本当に夢じゃねぇよなって、そこだけが不安だった。
「びんな"ー!!よ"がっだ無事で!!!本当ごべんだだい…っ!!」
翌日の昼過ぎ
モビーディックに着いたウイは仲間達に飛び付き、それを取り囲むヤツラにもみくちゃにされてた。
鼻水くらいは啜っとけって思うほど形振り構わず号泣するウイに、緊張してた気持ちか嘘みてぇにどっかに飛んで行く。
ああそうだ、ウイはこんなヤツだったって思いつつも
そこに飛び込めずにいる自分がいた。
「パーパーっ!!ごべんなだいっ!!本当にごべんなだいっ!!有り難う無事で良がっだ!!ありがどう…っ!!」
「良く頑張った。流石俺の娘だ!グララララ!!」
今度は遠巻きにそれを見ていたオヤジに飛び付いたウイは、その顔面を濡らす涙と鼻水を盛大にそこに擦り付けた。
オヤジはウイを溺愛してっから、そんな所すら可愛くて仕方ねぇのか
ガハガハ笑いながらウイの頭を撫でくり回してる。
俺本当に、助かったんだな。
目の前のこれは、いつかの記憶を再生してる訳じゃなく
新しく今起きてる事。
それを俺はこれからも見ることが出来て
「エース!!!」
そこに居ることが出来る。
俺に気付いたウイが目を見開いて、折角収まって来てた涙でまた顔をぐしゃぐしゃにしながら
駆け出してきた。
「エ"ーズ〜っ!!!」
ぶっちゃけその様も顔も、可愛らしいもんじゃねぇ。
鬼気迫る顔のウイが猪並の勢いで突進して来るのを受け止めようとはしたものの、余りの勢いに尻餅を着く。
「ごめんね!本当にごめんね…っ!!良かった…!!本当に良かったぁー…!!!!」
女の、ウイの力でも
本気の全力で抱き締めてくるその力は若干苦しい。
あの時は全然、平然としてた癖に。
ンだよこんなの…くそ可愛いじゃねぇか。
押し倒された状況でされるがままになってた体が
えぐえぐ泣き続けるウイを抱き締め返した。
隙間なんて1ミリもねぇ程に抱き合う俺らを
周りがニヤつきながら見てる視線を何となく感じてた。
本当に助かったんだって
今抱き締めてるのはエースで、間違いでも夢でもなくて
もう大丈夫なんだって思ったらやっと、本当に心から安心出来た気がした。
それを実感したくてぎゅって力を込めると、返事をするように背中に回った腕の力が強くなる。
嬉しくて
本当に嬉しくて、それが何度だって返ってくる事が幸せ過ぎて堪らなかった。
「良かったなーエース」
「大好きなウイに抱き締められちゃって」
「今だけだぞー存分に堪能しとけー」
皆の声にハッとして顔を上げると、凄いニヤニヤした顔がズラリと並んでる。
人前だったってちょっと考えたんだけど、感動の再会だし私達恋人同士になったんだし
まぁいっかって思ってそのままエースに抱きついてた。
「今だけ?」
「だっておまえ好きなヤツ居るって言ってたじゃねぇか。あのオペオペの実のルーキー」
あぁ、なるほど。
冷やかしに混ざる気になった部分を聞いてみたら、その答えに納得だ。
言ってなかった。
皆に。
「私エースと付き合った!エース私の…恋人、だから!」
恋人とか付き合ったとか、改めて口にしたら何だか恥ずかしくて。
でも大事な家族にはちゃんと報告しなきゃだ──「「「「「「「ハァァアアアァっ!!!!!?」」」」」」」
耳が痛くなる程の凄いリアクション。
ガシャーンッ
あ、パパがお酒の瓶落とした。
「パパ!怪我してない?ガラスで切らなかった?」
「あ…ぁ。切ってねぇ。多分な」
「何がどうなっていつからンな事になったんだ!!?」
「俺は聞いてねぇぞ!!!」
「まぁ…良かったよい。でも本当にいつからだ全く」
うっかり手まで滑らせたパパと、信じられないって言わんばかりの皆の凄い形相に
エース何で言わなかったんだろうってその顔を覗き込めば
照れてるのか、その顔は若干赤ければ体も熱くなって来た気がする。
「手錠の鍵開ける前だよ!あの時!」
「「「「「どんな状況でくっついてやがんだてめぇら!!!」」」」」
綺麗に揃った皆の手振り付きのツッコミに思わず笑ってしまった。
確かに今思えば
本当に、あんな状況で何してたんだろうね。
でも早く伝えたかったんだもん。
好きって伝えた時のエースの顔を、早く見たかったんだもん。
「まぁ、エースなら…良いか」
「それならウイも嫁に行くとかねぇし」
皆はただビックリしただけで、特に反対とかじゃないみたい。
恋人どころかもう結婚みたいな流れになってるけど、
そうなったら嬉しいけど
そんな幸せの象徴みたいな事を自分に当てはめてみたらなんかムズムズした。
結婚…かぁ。
ずっと一緒にいられる。
エースならわかってくれる。
「死の外科医とか殺すつもりなのか生かすつもりなのか謎だしな」
「確かに!」
聞こえてきたその言葉に、気が重すぎる報告をしなければならない相手を思ってずんと胸が重くなった。
凄く、言いにくい。
言わないままにしておく訳にはいかないけど、出来る事なら言いたくない。
あれだけ考えて決意したつもりだったのに、いざこうなれば早速これな自分に呆れた。
何を捨ててもエースを助けたいって、それに後悔はないって思っておきながら
エースが助かった途端、その為にした事の後始末から逃げたくなってる。
そんな中ポンって頭に乗った手にハッとした。
顔を上げたら目の前にエースの顔があって
凄く、微妙な顔してた。
「本当に…良いのか、アイツ…」
多分アレだ。
ローの話になった途端様子がおかしくなったんだろう私に、誤解したんだと思う。
やっぱりローが好きなんじゃないかって。
そんな不安な思いして欲しくなくて、つい結構な声で叫んでしまった。
「そうじゃない!私はエースが好き!」
「ヒューヒュー!イチャついてんじゃねぇよ!」
皆は私たちが何を思ってるかなんて知る筈がなくて、ただ聞こえた好きってとこだけを取って囃し立ててる。
違くないけど違うのにって、ヒューヒュー煩い皆からエースに視線を戻せば
大きな手で覆われた赤い気のする顔が背けられた。
いや、誤解解けたなら良いんだけどね。
でも本当に、ローにも皆にもちゃんと言わなきゃいけない。
軽蔑されるかもしれないし、嫌われちゃうかもしれないけど
避け続けた所で私自身がなかった事にして忘れる事なんて出来そうもない。
エースが好きでも
皆本当に、大事な人達だから。
(10)