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早く皆に会いたかった。
皆の無事を確認したかった。

エースは勿論なんだけど、あんなとこから帰還した白ひげ海賊団全員の。


その為に来たんだけど、宴も楽しみにしてたのに。



「そんな状況なら邪魔はしねぇよ!」
「ごゆっくり!」



普通にご飯食べて普通に飲みたい人達だけが適当に集まって飲んでる。
全員で宴とかしないらしい。


「部屋…行くか?」


ニヤニヤしてる皆を睨むだけ睨んで、でも宴がない事にガッカリしてたら
既に何か照れてるエースに声かけられた。








「エースってこんなキャラだった?何で最近そんなに照れてばっかりなの」
「うっせーよ!…照れたくて照れてる訳じゃねぇし」


まぁ、だろうね。
その感じじゃ。


返事の変わりにエースの部屋の方に歩き出したら、更に照れ二割増しくらいな感じのまま着いてきてくれて。
そんな私たちに気付いた皆がまたヒューヒュー煩かった。


皆のいる広間から大分離れると、まだ部屋に戻ってる人はいないのか廊下を歩いてても誰ともすれ違わない。
二人っきり。

いつの間にか隣に並んでくれたエースの顔を面白がって覗きこんだ。


「何かさ、私も照れ臭いし恥ずかしい筈なんだけど。自分より照れてる人いるとなんか照れられないもんなんだね」
「…こうなりてぇってずっと思ってたけど。…実際なれるなんて思ってなかったんだよ」


今度はなんか、面白くなさそうっていうか
拗ねた感じのエースがボソッて吐き捨てる。


「どういうこと?」


言ってる意味も何の話かもわからなくて、それを聞けば
凄いため息と呆れた視線が返ってきた。


「俺がどんだけおまえを好きだったかとか……あー!!もう良い!なんでもねぇ!!ほっとけ!!」


急に頭搔きむしりながらご乱心状態のエースに、笑ってしまう。


なるほど。
それってつまり──


「エースは私を好きすぎて仕方なくて、でも恋人同士とかならないだろうってずっと思ってて、でも急にそうなっちゃったからどうして良いかわからないと!」
「煩ぇよ!わかったなら黙っとけよそこは!!…っとに…くそだせぇ…」


本当面白い。
エースからかうの超面白い。


顔逸らしてるけど、耳まで真っ赤だ。






それからも私は面白がってエースをからかい続けて。
いい加減慣れたら良いのにって思うのにエースはその度照れてて。

こういうのが恋人同士かって、楽しさと幸せで浮かれてた。
まさかこの仕返しが、何倍にもなって返って来るとは
この時もその後暫くも
全く思ってなかったんだ。


「久しぶりだエースの部屋。あんまホコリっぽくな──」


部屋に着いて、二人でモビーディックを飛び出した時以来
いやあの時はエースの部屋に来るどころか来て即刻出発したからもっと前。

とにかく久しぶりのエースの部屋を懐かしいなって眺めてたら
扉が閉まる音と本当に同時に、後ろから強く抱き締められた。


「…照れてたんじゃ…なかったの?」
「頼むからそこはもうほっとけ…」


すぐ傍にエースの顔があって、そっち側を向けば目が合う。
照れてるには違いないんだけど、何かさっきまでとは違ってて。

ちょっとこっちがドキッてした。


「…良いのか本当に。あのクソ医者の方は」
「昼間のヤツか。…ごめん、本当にそういうのじゃなくて、どうやって言おうって考えちゃって」


やっぱりエースは、ローの事を不安に思ってた。


当たり前か。
私がエースでも心配になるかも。

ずっとローが好きって断ってた。
それでローの話で動揺なんてされたら不安にもなるよね。


「私ね、すっごく考えたんだよ。エースが捕まっちゃったって知ってから、助けに行くって決めるまで」


抱き締めてくれてる腕を、ぎゅって握りしめる。
あの時の事を、この気持ちを自覚した時の事を
話そうと思った。


「ロー達にもブラーヴェにも、パパ達にも。ベガス聖にもロイにもすんごい止められたんだ」


違うな、聞いて欲しかったんだ。


「でもどうしてもじっとしてられなくて、パパ達が助けに行くって聞いても私も何かしたくて」


軽い気持ちじゃないよって。
凄く真剣に、沢山考えに考えて
エースを好きって思ったよって。


「ソニアになんで?って聞かれて、ローが好きならやめろって言われて。それでも助けに行きたい気持ちは全然揺らがなくて」


あの時好きになったんじゃないよね、きっと。


「エースの事好きなのかって聞かれて、本当に色々考えたら…私きっと、ずっとエースの事好きだったんだなって」


ずっとエースを好きだった事にあの時、気付いたんだ。




「沢山支えて貰ってたよね。なのにそれを当たり前に思い過ぎてて、なくしてしまうって思って初めて気付いた」


そう。
あの時本当に、それまで気付かなかった事に後悔した。

気付いていれば、こんなに支えてくれてたエースに
私も何か返せたのにって。


それまでだって感謝はしてたけど、私にとってエースはそれ以上だった。
あったら嬉しいものじゃなく、なきゃいけないものだった。


「私はもう、エースが居ないと無理だ」
「…そんなずっと、いつでも一緒居た訳じゃねぇだろ」


照れてるからなのかな。
それとも、まだ信じてくれてないのかな。
ありのままの気持ちなのに。


でも違うだろって言いたげに、それを否定しようするエースを
説得するのは嫌じゃなかった。


「近くに居なくても、心の中に居てくれてたよ。ずっと好きでいてくれるって、あの言葉に支えられてたよ」


いくらだって出てくるよ。
聞いて欲しいよ。

私が寂しくなった時、それに気付いてくれるのはエースだけだよって。

私の気持ちをわかってくれるのも、エースしかいないよって。

こんな面倒臭い私全部知ってて、それでも
叶わなくても想い続けてくれるのなんてエースくらいだよって。


どれだけ私が支えられてたか、エースに安心させて貰ってたかなんて
一晩中でも語り続けられる自信があった。


「本当に…本当に、良いんだな?」


なのに思ったよりあっさりエースは引いてしまったみたいで。
でも何に対して"良い"かを聞かれてるのかがわからない。


「…なにが?」
「だから!ウイは俺が…その、好きって事で良いんだなって!」


これだけ熱く好きを語った私の前ですら、まだ照れてるエースが本当に可笑しい。


でもそっか。
そんなに信じられない程、エースは喜んでくれてるって事だよね。


何これ。
幸せ過ぎて怖い。


「だからそう言ってるじゃ──」


最後まで言えなかったのは、背中に感じてた温もりが正面に回ったから。
苦しいくらいに抱き締めてくるエースの胸板に、口が塞がれたから。


「ならもう、遠慮しねぇ。──好きだ。ウイ、本当に…大好きだ…!!」


私もだよって、言いたいのに言えない。
エースの力が強すぎて。


こんな加減知らずの愛情表現は嬉しい。

でも待って、ごめん。





窒息する。





本当に何の遠慮もなく
ただそうしたい気持ちのままにウイを抱き締めた。


夢じゃなかった。
ウイが俺を好きだってのは、夢でも嘘でも思い違いでもない
事実で現実だった。


もう好きだと思うこの気持ちを抑える必要がねぇ。


ありったけの力を込めて、想いを込めて
ウイを抱き締めた。


「───!」


何か言ってる。
くぐもってて聞こえねぇけど。

何か背中叩かれてる。
全然痛くねぇけど。


何言われようと、逃げようとされても
堂々と触れられる。

その幸せを噛み締めた。


「────っ!!!!」





尋常じゃねぇ勢いで背を叩きまくられるのに異変を感じて力を緩めれば、途端に勢い良く吐き出された息とゼェゼェ言ってる様子に
なんで叩かれてたかを知る。


「…悪ぃ、つい」
「死ぬかと!!死ぬかと思った本当に!!」


声を荒げるウイも可愛い。
睨み付けて来るウイも可愛い。

本当に極限だったのかもしれねぇけど、素でゼェゼェ言ってる飾らなさも可愛い。


全部。
全部が可愛くて愛しく見える。
抱き締めるくらいじゃ、全然足りねぇ。


腕の中で脱力する体を抱き寄せて顔を近付ければ、呼吸の落ち着いて来たウイの顔はまだ赤い。


それも、潤んだ目も
酸欠のせいだけじゃねぇ気がした。


「あの…ちょ…っ!…えっと…」
「本当だな」


照れてくれて助かった。
今度はこっちの照れが引いていく。


照れてるウイも可愛い。
この顔をずっと、俺に向けて欲しかった。


「なに…が?…えっと…」
「キス。してぇけど、このまま照れてるウイも見ててぇしなって。悩み中」


目を見開いてボッと赤くなるのがたまらねぇ。
本音だけど、それ聞けば更に照れんじゃねぇかって思って敢えて言った。

どんだけ熱いんだろうって触れてみた頬がビクつくのも、動揺で泳ぐ目も。
ウイは何でこんなに可愛いんだろう。


「見せ物じゃない!何本当…急に…」
「散々からかっといてウイがそれ言うのかよ」


照れの限界なのか、ウイは少し怒り出した。

俺もさっきどうしようもないぐらい照れちまってたから気持ちはわかっけど
ウイはそこに怒る権利ねぇだろって。


それがまた笑えた。




初々しい恋人達の戯れ。

キスすらもせず
ただ抱き合い言葉を交わし
時に頬を染め、時に話は脱線し
それでもまた見つめ合った視線の中で空気は甘い物へと変わっていく。


そんな時間が、二人にとってはこの上なく幸せであった。


もう二度と会えないと、死という抗いようのないものに別たれる事を一度は覚悟した。

共に居られるだけで、触れられるだけで、言葉が返ってくるだけで
それだけで、いやそれこそが互いに相手に望むもの。


しかし彼らは年頃の男女。
経験のない女の方は知らぬが、男の方には確実に
それ以上を望む欲が存在する。

もう彼の中に"照れ"はなかった。
だがしかし、抱き合い体を密着させながらも続く会話は
徐々に女の方が色気のない内容の割合を上げていく。


彼女はよく、自分のペースに人を巻き込む。
彼はこれまでもそこに乗せられて来た。

先に踏み出そうとする男の決意を
意図してかせずか、他愛ない話で女が流す。
そんな場面がもう何度あっただろう。








「それでね!ベガス聖がね、バーベキューの海鮮なら──んぅ」


ウイの友人で、エースにとっては恩人。
愉快で尊い身分の彼の話を始めようとする唇を、エースは強引に塞いだ。


ただ触れるだけ。
啄むだけ。

角度を変え繰り返されるそれは、彼のイメージからは想像も付かぬ程に優しいもの。
ちゅっちゅっと、音を立て重なる唇に
最初こそ驚きと恥じらいで身を固くしたウイの体も、次第にほぐれていった。


キスという行為は、特別だ。
その特別さを、二人は今実感している。

愛されていることを、必要とされている事を
唇を通して伝え合う。

片や叶わぬと思い続けて来た間の、はち切れんばかりに膨れ上がった想いを
片や失いかけて気付いた掛け替えのないものへ、泉のように沸き出て来る愛しさを。


どんな言葉でも表しきれぬ大き過ぎる想いは
触れた場所から全身へと、染み渡っていった。




もうどれ程それが続いただろうか。
いつしかウイの腕は、もっともっととねだるようにエースの首へと回っていた。

舌は互いの中を行き来し
歯列をなぞられればなぞり返し
絡み付いてくる舌には自身のそれを絡ませる。

ぎこちなくも応えようとする恋人の健気さは、エースに正反対の欲望を灯らせた。


この甘い雰囲気のまま愛を確かめ合いたい。
だが今すぐにでも、欲しい。


「エー…ス?」


急に止んだ口付けと、何やら考え込み出したエースに不安を感じたウイは伺うように彼の顔を見上げる。
その姿はエースの両方の欲求を更に刺激した。


愛しいからこそ、大事にしたい。
好きが過ぎるから、求める思いも強くなる。


「あー…取り敢えず、場所変えっか」
「っ、わぁ!」


どちらにせよ、それを確かめ合う場所は部屋のど真ん中ではない。
エースはウイを軽々抱き抱え、その身をベッドへと優しく降ろす。


濃厚なキスに浮かされた頭でも、運ばれた場所から連想される"これから"を察する事は出来たようで
ウイはピシリと固まった。


「…ビビるもんか。やっぱ」
「ビビる?ビビる…怖いっていうか、緊張するって、いうか…恥ずかしいって…いうか…」


布団に埋まるウイに覆い被さるように手を着いたエースが、固まった原因を思ってその頭を撫でる。

普段お盛んな男友達のその手の会話にしれっと混ざる彼女は、経験はなくともそれがどんな事かは人並みには知っている。
いや寧ろ、人並み以上かもしれない。

だがそれが実際自分の身に起こるとなれば
知っているが故の恥ずかしさも怖さも、緊張も感じるだろう。


「でも!でも可愛いパンツ!はいてきたから!!」


隠しきれぬ程に怖じ気付きながらも、ウイは大丈夫だとでも言うようにそれを叫んだ。


例えどんなに可愛らしい下着を身に付けようが、今この場でそれを宣言する事は果たして
可愛い事と言えるのか。


しかしエースはそんな彼女が好きだった。

顔を真っ赤に染めてまで
自分のようにただ欲するだけではないだろうその心情を、振り切り受け入れようとするウイに
エースは欲に打ち勝つ事を心に誓った。





「無理は、すんなよ。…痛かったり怖かったりしたら、ちゃんと言ってくれ」
「あ、白で良かった?何かエースなら白好きそうだなって思って。黒とかも可愛いのあったんだけど」


何かを考える時の彼女の癖。
顎を握り拳で支えその人指し指を唇に押しあてながら、うんうん唸るその唇が紡ぐのは
そこまで気遣う必要等ないのではと思ってしまうような言葉。


ウイはこういう人間だ。

事実抱え込み易い。
周りを思って我慢をしがち。

だが時に普通とは言いがたい行動や言動を自覚なくやってのける。


淡い黄色のやつでも良かったかなと、未だぶつぶつ呟く恋人に
エースはふっと笑った。


「良いな、白。楽しみだ!どうせ脱がすけど」
「…!」


ツボに入れば一般的な反応をそれ以上にしてしまうのも、彼女の特徴。


再び染まった頬を撫でた手が唇をなぞり、ベッドで二対の瞳が見つめ合う。


求めるが故に滲む雄の気配。
だがしかし、それを感じさせはしてもそれ以上に
ウイを見つめるエースの目には愛や気遣いが満ちていた。


不安はあっても、求める気持ちに嘘はない。
彼女は欲していた。
愛される事の証を。
全てを委ねられる存在を。


いつしか消えた、照れや悪ふざけ。


「大好き、だよ。本当に無事で…良かった」
「全部やるよ。ウイにくれてやる。俺は一生おまえを離さねぇ」


二人を包むのは甘ったるい空気。
色に例えるのなら、紫がかった桃色に白く靄がかかったかのような。


どちらからともなく重なった唇は、互いを求めるようにその中で絡み合った。

優しくこそあれ激しい口付けが
混ざりあった唾液をウイの頬へと伝わせた。







destruct at reality.