18


ねえ待って。こんな事ある?



「はぐれた…」


さっきまでずっとシェリーの腕を掴んでたのにちょっと周りをふらっと見てるうちに。
そもそも、中の作りが迷路状になってるのがよくない!怖い怖いと騒いでた古川くんの声も聞こえないしあたりはおどろおどろしいBGMが流れてるだけ。三橋くんは先頭きって進んでたからとっくにいない。
みんな酷い、私がいない事気づいてよ!

心ではいろいろ言ってるものの実際は足元がすくんで全く動けないでいる。時折生暖かい空調が頬をかすめるがその場で立ち尽くすしかない。


「ばか…皆の馬鹿…」


かっすかすの声。あー、文化祭のお化け屋敷ごときでこんなにダメージくらうとは…。ごときなんて言ったら失礼だけど…や、実際ごときなんてレベルじゃないんだけど。

しかしその場にいてもどうにならないので取り敢えず先に進むしかない。

勇気を出して踏み出すも、


「わっ!!も、〜〜っ!!」


ガタガタとなる物音や誰かがいるような衣擦れの音に一々反応してしまう。もはや涙目。


___________




やっとの事で出口らしきものが見えてきそうなくらいは歩いた。ほぼ目つぶって来た。叫びすぎて喉が本当に掠れてる。だいぶ歩いたのに全く人に会わないって…。本当に変な世界に迷い込んでしまったんじゃ……そんな訳無いって分かってるんだけど、お化け屋敷トラウマ勢の私にはもう頭が回らない。


「……進みたく、無い」


明らかに何か出てくるだろって部屋の奥に出口がある。絶対無理。
これもしかしてアレ?シェリー達は先に出て私探してる?って私が1番に出てくる訳無いでしょ!あー、もう、よくここまで1人で来れたな私。何回半泣きになったことか、というよりずっと半泣きで進んで来たから目元ぐしゃぐしゃ。途中にリタイヤ出口がないのも中々鬼畜なんですよね。精神身体共にボロボロの私…もう笑ってください…。


「…目つぶって進めばいいよね」

意を決して足を踏み出す。

すると、

「わっ!」
「っ?!!ぎゃーーーー!」


死んだわ……


「ちょ、おい、苗字ー?」
「…へ、…あ、……み、みはし、くん?」


横から突然人影が飛び出してきた。その瞬間もう終わったと思った私は思いっきり叫んでしまった。
そして次の瞬間には目からぼろぼろと大量の涙が……。


「え、ごめん、苗字大丈夫?…じゃねぇよな…」
「うっ…も、ばか……」

その人影が三橋くんだと分かった瞬間ホッとして更に涙が溢れる。


「あー、わりー。お前待ってたらやっと来たから…」
「なんで、皆急に…っ、いなくなるの〜」


えぐえぐ泣きながら三橋くんにしがみついてしまった。
三橋くんは苦笑いしながらポンポンと背中を軽く叩く。

どうやらこのお化け屋敷は扉を一度通過すると開かない仕組みになってて戻らないようになってるようだった。


「も、怖かった…無理、しぬ…」
「ごめんな…ほら後少しだから行こう?古川たちは先に出てるから」

よしよししてくれる三橋くんに寄り添い鼻水をすする私…情けない。


____________



「あ!三橋たち来た!」


出口から出ると古川くんとシェリーが待っていた。


「うわ、あんた顔ぐちゃぐちゃじゃない」
「だって…三橋くんが…」


シェリーにティッシュを渡されながら弁解する。チラッと三橋くんを見ればバツが悪そうに苦笑いしてる。


「お化け屋敷なんて…もう2度と入んない…」


チーンと鼻水をかむ。


「腹減ったしなんか食べる?ほら、忍足くん?に貰ったこれもあるし……あー、苗字には他にも奢ってやるからさ?」


忍足くんに貰った模擬店用のチケットをチラつかせながら申し訳なさそうに謝る三橋くんに私は渋々頷いた。


「その前にあんた顔直してきな」
「うん…」


シェリーにそう促され私は涙でボロボロになった化粧を直すためトイレに向かった。



170616






もくじ


勝ち気なエリオット