命令

「今週末北北西の山峰の奥で奴らが動くらしい」
「そこに行けと」

ついに命令が下された。

「その山は藤が咲き乱れているそうだ。だが外からはみえないらしい」

何を手がかりにと疑問に感じた私に一枚の地図が差し出された。はしに×の印がつけられている。

「いいか、奴等は滅多に尻尾を出さない。これが最初で最後の機会と思え」

奪いとるように地図を掴み部屋から出ていこうとした私に声がかかった。

「手ぶらで帰ってくることは許さない」

そんなことわかっている。私は返事の代わりに強く扉を閉めた。


「やっとついた‥‥」

ゼエハアと息をあげ階段を見上げる。ここに来るまでつらい道のりだった。軍で鍛えた体でも根をあげるほど。
左右にはこれでもかというほど藤の花が咲いており、むせかえるような香りを撒き散らしている。
永遠と続きそうな先のみえない石段をただひたすらに登っていく。
もう無理だと心が折れそうになった時急に視界が開けた。

「ゼェはっ!」

上りつめた先には子供たちがいた。それも数人とかではない。十いや三十ほどだろうか。こんな山奥になぜ子供が。呆然とする私に子供の一人がこちらに目を向けた。
!いけない
素早く木陰に身を翻し隠れた。

「なぁ今あっちに人がいなかったか?」
「はぁ!?お前緊張でおかしくなったのかよ。どこにもいねえよ」
「おっかしいな」

あぶないあぶない。あと少し遅ければ見つかってしまうところだった。
木陰から広場を見渡す。十ぐらいだろうか、どの子もまだ年端のない子供だ。皆に共通する点は傷跡だらけと目つきの鋭さか。殺気立つ様子にとてもじゃないがあどけなさはどこにも感じられなかった。

そうこう様子を窺っていると奥から人影が出てきた。
‥‥人形?
そう感じるほど生気を感じさせない童だった。
豪華な着物を着て片手に提灯をぶら下げた姿はどこか地獄の使者をおもわせた。浮世離れした存在に目を奪われていると、童の口が開いた。

「今宵は_____にお集まりくださってありがとうございます。この藤襲山には_____‥‥」

何を言っている?ここからじゃ遠くてよく聞こえない。耳をすますも聞こえるのは断片のみ。
焦りながら窺っていると急に子供たちが散り散りに走っていった。
しまった。始まったか。
とにかく私も後を追わないと。

私はみられているなんて知らずに森のなかへ駆け出した。


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