灯火

「あんなに拒まなくても」

先ほどまで一緒にいた少年の鬼気迫る顔に苦笑した。
いやはや良いものをみたな、まさに狐に騙されたという表情。

私はただ存在感を消して隠れていただけなのに、と軒先から出て、上機嫌で帰路を歩いているといつの間にか寄宿舎についた。
廊下を歩き部屋に入る。小さく暗い、とても冷たい部屋。ここが私の部屋である。寄宿舎の片隅にあり、元々物置部屋として使われていたここはほこりくさい。だが男だらけの大部屋に詰めこまれるよりかはましだった。

懐から包みを取り出し、ちり紙を丸め火鉢に放りいれる。マッチをこすり、火が消えてしまわない内にちり紙にかざすとぼうっと火が燃え移る。炭に火がつくようにうちわであおいでいると違和感を感じた。

なんだ?
なんか変だ。一体何が?思い出せそうで思い出せない。気持ち悪さを感じながらあおいでいると、炭がバチりと赤くなった。あっと私は声をあげた。

「なぜあの少年は私が女だと気がついた?」

今の私の姿はどこからどうみても男だ。紺の軍服を着て、性別を偽りながら軍にいる私は伊達に男に偽ってない。
バレたか。いや相手は田舎の少年だ。そこまで気にすることないだろう。そう思うことにして一寸の不安を忘れようとした。

しかし買ってよかった。目の前で煌々と赤く燃える炭火を眺めほっと息をついた。なにも考えなくてよい。ただ無心でいられる。
火鉢の前で薄布団にくるまり丸くなっていた私はいつの間にか眠ってしまっていた。


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