※現パロ・転生・社会人・同棲
それは、ある日曜日の事。
「すまない、ジャイボ。折角の休みなのに」
「いいよ。仕事ならしょうがないでしょ」
ゼラが急遽、休日出勤になってしまった。次の休みに二人でデパートへショッピングへ行こうと約束をし、それだけを楽しみに定休日を除く五日間、地獄のような仕事を残業もして必死に、そりゃあもう必死に栄養ドリンク片手に乗り越えたというのに。ああ、僕の楽しみが。ガラガラと呆気なく、計画が崩れていく。
「これでは約束していた買い物にも行けないな。お前、相当楽しみにしていただろう」
「…まぁね。ショッピングもだけど、途中にある喫茶店でクリームソーダも飲みたかったし…ゼラと二人で。」
なんのために仕事したと思ってるんだ。ゼラとデートするためだよ!!!
「‥‥ごめん」
「謝らないでよ。別に、ゼラが悪い訳じゃないんだから」
そうだ。悪いのは、真面目で要領が良く機械に強い、所謂出来る男のゼラにやたらと頼ってばかりのゼラのクソクソクソ上司である。ゼラがすごいのは確かに分かるが、これで何回目だよいい加減にしろ。機械が故障した?ゼラじゃなくて業者呼べよ!それかお一人様(笑)で暇してるヤツ!生憎ゼラは僕という恋人がいて休みの日は予定があるワケ!
過去にも、ゼラはこうして上司に呼び出され、休日出勤をしている。ああ、かつては帝王だったゼラが、今じゃどこにでもいるサラリーマンとして、社畜よろしく休日まで会社に拘束されてパワハラに苦しんでいるなんて。あの時は考えられもしないだろう。しかし、これが現実。僕らも大人になったという事だ。
僕のゼラを!僕とゼラの二人きりの時間を!奪いやがってあのハゲ!デパコスを物色してデパ地下で美味しいケーキでも買おうと思っていたのに。まぁ、別にショッピングくらい、一人で行ってもいいんだけどさ。‥‥嘘。やっぱりゼラと行きたい。
「…また、日を改めて行こうよ」
「あぁ。次の休みは、絶対に行こう。次こそは出勤出来ないと上に伝えておく。何としてでも、だ」
物を買うというよりも、ゼラと買い物に行くという事が大事なのだ。ゼラがいなければ意味がない。
と、言ってもゼラは、仕事こそ出来るがそんなに気の利いた男ではない、というか女心が(僕は男だけど)まぁ分からない男なので、この服どう思う?と聞いても「良いんじゃないか」か「派手すぎる」くらいしか言わない、彼女が一番腹立つ系の彼氏である。
でも僕はそれでも良い。たまにもう少しあるでしょ?!と言いたくもなるし我慢出来ず他に感想はないの?と聞いちゃう時もあるがそれでもゼラとデートと思えば幸せなので!これ以上求めたら処理追い付かなくて幸せが上限突破して僕も流石に動揺しちゃうから!
そういえば、謎の縁により僕の務める病院で看護師として働いているあの前世の憎き女‥‥美春カノンともたまにゼラの話をする。今は特に憎んではないけど、でも仲良くもない。
『時折ゼラがあまりにも童貞すぎる‥‥いや僕抱かれてるけど‥‥童貞なのは寧ろ僕なんだけど‥‥』
『ふーん?どういうところが童貞なの?』
『ねぇ、この服どう思う?の問いに、良いんじゃないかとしか言わないところとか』
『うわぁ想像出来る!』
『は?僕のゼラ勝手に想像しないで』
『雨谷先生ってほんっと面倒くさい』
『‥‥それで、アイシャドウ新色でてる!良いなー!って言ってたらお前が持っているやつと大して変わらないじゃないか、とか』
『常川くんって雨谷先生じゃなければ確実に愛想尽かされてフラれてるからもう少し感謝した方が良い、そして、逆もしかり。ある意味お似合いなんだろうね』
『確かに僕もゼラのことばっか言えない。好きすぎて狂いそうってか狂ってるし、共働きで家事も分担しなきゃいけないのにどれも出来なすぎてやらなくてもいいって言われるくらい無理だし。ゼラの手料理すっごく美味しいんだよ。家庭の味。美味しすぎて独り占めしたいから僕以外誰にも食べさせないけど』
『あー、そこは出来ちゃうんだっけ。口だけスキル上げたらスパダリになれそう?』
『あのゼラがスパダリは笑う。仮にスパダリ化したら僕は本気で女になるからやめて欲しいてかそんなのゼラじゃない』
『みんなー!雨谷先生去勢するって!』
『は?ちょっといい加減にして』
‥‥‥酷すぎる。絶対に思い出さなくてもよかった。
僕が一人脳内で回想している内に、いつの間にか僕達は玄関に居て、ゼラは革靴を履き、ドアノブに手を掛けていた。いけない、体は動いてたけど頭ボーッとしてた。
「じゃあ、そろそろ行ってくるよ。なるべく、早く帰れるよう努力はする」
「うん。仕事、頑張って」
どこか浮かない顔のゼラを見て、は、と気付く。‥‥そっか。楽しみにしていたのは、僕だけじゃない。仕事が嫌なのも、僕だけじゃない。
「‥‥あ!待って、ゼラ。忘れ物」
「え?‥‥ああ。そうだった」
ゼラの顔が近付くと、ゼラの形の整った薄い唇がふにゅ、と僕の唇に重なる。同棲を始めてから、僕が無理矢理日課にした、行ってきますのキスである。最初は渋っていたゼラも、今では躊躇なくしてくれるようになった。きゃはっ、慣れって恐ろしいよね。
「…今度こそ、行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね。家で待ってるから」
バタンと扉が閉まる。ああ、愛しのゼラが行ってしまった。
ゼラの上司(以下、ハゲと呼ぶ。)のせいで折角の休日に家に一人、ぽつんと残されてしまった可哀想な僕。予定も丸つぶれな訳で。さて、今日一日、何をしようか。
ゼラが社会人になってからというもの、中々このハゲが厄介なヤツで。可哀想な僕のゼラは、穴が開くほど胃を痛めてしまったり、眠れなくなってしまったりとストレスと疲労に悩まされている。とはいえ幸いな事に現在はどちらも以前よりはマシになり、ゆっくりではあるものの完治へと向かっているのだが、僕はハゲを許していないし、許すつもりもない。かつては廃墟の帝王だったゼラが!今や会社でパワハラに悩まされている!なんなら先日セクハラも受けたようだ。お尻触られたって。は?ゼラの臀部に触れて良いのは僕だけだから。思い出したら尚更腹が立ってきた。いい加減あのハゲ刺しても良いかな。
今、もし僕が、医者として仕事を励んでいる立派な大人じゃなくて、あの時のようにハタから見ればぶっ飛んだ行動を平気でさも当たり前のようにやってしまう子供だったら、つまり「ジャイボ」だったら、なんの抵抗も躊躇もなくめった刺しにして臓物をズルズルしていただろう。ハゲが僕の病院に来れば合法的に刺せるんだけどな‥‥メスで。
しかし、今度こそはあの時のジャイボを捨て‥‥(きれていないし未だにジャイボと呼ばれているけれど)ゼラと二人で長生きするって、決めたんだ。ハゲはムカつくけど、お縄になりたくないし、殺すのは諦めよう。
ゼラがいない事によりやる気が起きず、しばらくソファに横になりながら何もせずボーッとしていると、ピンポーンと、家のインターフォンが鳴った。何だ、来客とは珍しい。誰だろうか。重たい腰を上げて、玄関へと向かう。
「はい、どちら様ですかー」
「宅配です。常川寛之さん宛にお荷物ですけど、お名前お間違いないですか?」
「あ、はい合ってます」
宅配業者だった。ゼラが通販で何か買ったのだろうか。
「サインをお願いします」
ボールペンを差し出され、それを受け取る。
サイン。サインか‥‥ゼラ宛てだし、ここは雨谷ではなく常川と書くべきだよね。
いつだったか、授業中、ゼラの名前をノートいっぱいに書いていたのを思い出す。おかげさまでなんの躊躇もなくスラスラと書くことが出来た。なんなら、雨谷よりも上手く書けた気がする。僕からサインを受け取った宅配のお兄さんは、それを確認すると、ニコッと愛想の良い笑みを浮かべ僕に荷物を渡した。受け取ると、意外とずっしりしていて驚く。えっ、予想以上に重。ゼラってば一体何を買ったの。すっごい気になるんだけど、勝手に開けちゃ駄目かな。
「確かに。じゃ、有難うございましたーっ」
「ご苦労さまです」
ペコリと頭を下げ、足早に帰って行く配達員。うーん、僕には絶対出来ない仕事だ。
「‥‥良いな。名字」
閉められた扉に向かってぽそりと呟く。
常川。常川典瑞か。悪くないかもしれない。逆に雨谷寛之も良い。うん。どちらもそんなに違和感はない。
「仕事の名札、常川姓に変えたくなってきた。そうすればなんかやる気出る気がする。苗字変わったんですかって聞かれたら、そうなんだよねー、こういうワケで‥‥って前にゼラから貰った指輪を見せつけちゃってみたりして‥‥」
指輪は汚したくなくて仕事の時は付けていなかったけれど、どうせなら見せびらかしてみても良いかもしれない。そう言って、は、と気が付く。
‥‥そうだ、そうだよ。結婚すればいいんだ。
気付いてしまった。なんでもっと早く気付かなかったのだろう。指輪は確かに以前ゼラから貰っているけれど、ゼラはその時、結婚のけの字も言わなかった。ただ、恋人としてこれからもよろしく、とだけ。僕の欲しい言葉はソレじゃないんだ!恋人止まりではなくどうせなら夫婦になろうよ!ね、決まり!
それからの僕の行動は早かった。どうせ一人で暇しているだろうと、携帯の通話履歴に残っていた雷蔵に電話を掛ける。
『はーい、もしもし?』
「もしもし雷蔵。僕だよあめy」
『ジャイボ?!あんたが電話なんて珍しいじゃない!何かあったの?』
‥‥やっぱり僕は「ジャイボ」のままみたいだ。まぁ、良いけど。雷蔵に今更名前で呼ばれてもなんか違和感あるし。
「突然だけどね、僕、ゼラと結婚しようと思うんだ」
『結婚?!また、急ね。式はもちろん挙げるのよね?』
式。式か。頭の硬い日本は令和となった今でも未だに同性婚は認められていない。それでも僕はこの日本で同性であるゼラと結婚しようと心に決めたのだ。例え籍がいれられなくても、まわりにゼラと結婚したと証明する為には、やはり式は挙げるべきだろう。見せびらかしてやろうではないか。ゼラのタキシード姿を!いや、和服も捨てがたいな。いや、なんならウェディングドレス姿も‥‥うーん。妄想の世界に入ってしまう。
「‥‥式は挙げる。ゼラがなんて言おうと絶対に挙げる。ねぇ、どこか良い式場はない?」
『式場ねぇ。良いな、と思う所はいくつかあるけれど。でも、ジャイボとゼラの好みなんてアタシが把握してる訳ないし、やっぱり自分で調べてみるのが一番よ!相談はいくらでも乗るから、また何かあったら連絡して頂戴。それと‥‥式には絶〜〜っ対、この雷ちゃんを呼んでよね!』
「分かったよ」
やっぱり、自分で調べた方が確実か。雷蔵との通話を終えると、携帯で早速式場を検索する。場所はどこでも良かった。遠い田舎でも、小さい離島でも。皆に見せびらかすならそれなりにかっこつけた所でやるべきかもしれないけど、それとは別に二人だけでも式を挙げたい。誰にも邪魔されない、二人だけの結婚式。
「どこかに廃墟になった教会とかあればなぁ」
◆
「ただいま」
「あっ、ゼラお帰り!」
疲れ果てた顔をして帰ってきたゼラを笑顔で出迎える。
「‥‥ん?やけに上機嫌だな。何か良い事でもあったのか?」
「ふふ、うん」
「てっきり不貞腐れているものかと思っていたが」
「ねぇゼラ、なんか大きい荷物が届いたよ」
「荷物?あぁ、先日買った模型がもう届いたのか」
「それでね、サインお願いされたから、僕、「常川」って書いたんだ。だって、常川寛之宛なのに雨谷って書くのはなんかおかしいかなって思ってさ」
「まぁ、名字が違うと宛先を間違えたのかなどと疑うな」
「それで、なんか、ゼラと結婚したみたいで。それってすごく良いなって」
だからね。僕、すごく良い事思い付いたんだ。
「結婚しよう!ゼラ!早急に!今すぐにね!」
「え、ええ?いや、気持ちは分かるが法律的にそれは、」
「法律もクソもないよ。いいから結婚しよう!そうと決まれば一緒に式場を探そう。ずっと調べてたんだけど、ゼラにも意見聞いておきたくてさ!」
「待て待て話が早い早すぎる少し落ち着け、ジャイボ」
思い付いたら即行動の僕はじっとしていられないのだ。ゼラは慎重すぎる。
「それで僕は常川の印鑑を作って職場で常川典瑞と名乗る事にして‥‥」
「だから、籍はいれられないって」
「う‥‥」
「?」
「なんで!!!!!」
ギャン!と声を上げる。
※勿論そんな事分かっているけれど急に同性婚が出来ない事に納得出来なくなった。
「いや、それは僕に言われても」
「帝王だろ?!同性婚認めて籍もいれられるようにしてよ!」
「待て。帝王‥‥今それを掘り返すなややこしくなる」
分かってはいる。いるけれど。
思わずゼラに無茶を言うが、どうどう、と興奮気味の僕を落ち着かせようとでも思ったのかゼラの隣に座らされる。そして背中をぽんぽんとあやすように叩かれる。なにこの子供扱い。別に嫌じゃないけど。
「今まで結婚のけの字も言わなかったのに。その僕の荷物を受け取るために書いたサインで突然結婚したくなってしまった、と?」
「っ、そうだよ。ゼラと一緒にいれたらそれだけでいいって思ってたのに、常川って書いた瞬間、僕の中で結婚という文字が、そりゃあもうでかでかと主張し始めたんだ。今までよく平気だったねレベルで」
「僕も実は前、お前の荷物を受け取った時に書いた事があるんだ。雨谷、と」
「どう、だった?」
「お前と同じだ。良いなと、思ったよ。縛られているというか、離れられないというか、そんな感じがして、安心出来る」
こんなに想いは通じ合っているのに、どうして籍がいれられないの。
「‥‥ねぇゼラ。これ、書いてよ」
ゼラに渡したのは、婚姻届。昼間に市役所へわざわざ行って貰ってきたものだ。僕の名前は「妻になる人」の方にもう記入済みである。
「これは、婚姻届か。実物は初めて見た」
「提出は出来ないけどさ。せめて‥‥書くだけ書こうよ。それで、額にいれてリビングに飾るんだ!」
「‥‥分かった」
ゼラは婚姻届をテーブルに置き、油性のボールペンを鞄から取り出すと、サラサラと迷いなく記入していく。いつ見ても、ゼラは綺麗な字を書く。僕のまん丸で子供っぽい、拙い字とは大違いである。
「僕が夫側なんだな」
「そこは拘りないし、別にどっちでも良いんだけどね。まぁ、一応僕が受け身な訳だから」
「あー、そういう事か。」
しかし、僕が妻って感じはあまりしない。家事はゼラの方が出来るし、どちらかといえばゼラの方が、妻が似合うかもしれない。言うと怒られそうなので本人には言わないけど。
毎朝のお弁当だって作るのはゼラだ。僕はお前が触るとろくな事がないとボロクソ言われて包丁も握らせて貰えない。確かに料理をしたらテロを起こすレベルのやばい物を生み出してしまう自覚はあるけれど。
「ん、書けたぞ」
「見せて!」
奪い取るように勢いよく婚姻届をゼラから貰うと、まじまじと見つめる。夫。ゼラが僕の夫。やばい、字だけで興奮する。
「〜〜ッ!思ってたより嬉しいね、これ」
ちょっと泣きそうだ。昔のゼラに愛されたくて必死だった哀れな僕に自慢してやりたい。ぺっしゃんこになった最期は思い出したくもない。でもあれがあったからこそ今があるのだ。長、かった‥‥まさかゼラを捕まえる為に一度、輪廻転生をするなんてね。記憶があったのは神様の情けだろう。そんな慈悲に答えるために人の命を助ける医者になったのだから、これで前世のおいたはチャラだよね。
「そうだ、記念写真撮ろうよ!」
記入された婚姻届を持ち、ゼラの肩を抱いて引き寄せる。内カメで写真を撮ると、「光クラブ」という名前のグループLINEに写真を送信する。メンバーは言わずもがなだ。
『僕達、結婚しました!!!!!』
既読の数がみるみるうちに増えていく。送られてくる祝福と驚きのメッセージとスタンプ。僕の携帯には雷蔵、ゼラの携帯にはタミヤから掛かってくる電話。あの七人に報告してしまえば、もう逃げられないよね?ゼラ♡
「ああ‥‥これは、本格的に結婚の流れに!?」
「さ、今から一緒に式場探そうね♡盛大に祝われるのも気分良いけど、二人きりでも挙げたいんだ。だから式は二回ね!」
「に、二回もやるのか?!」
そうですとも。とことん幸せになってやろうじゃないか!