04
田所さんのことばかり気にしてはいられない。私には私で仕事があるんだ。某下着メーカーの新作発表会の企画だ。「今のトレンドを把握してあるであろう、若くてかわいいあなたが最適と考えました。ぜひみょうじさんに!」と頼まれた企画。とても嬉しいお言葉を頂いたんだ、頑張らないと。
頑張らないと!と思えば思うほど頭は凝り固まるもので、煮詰まった私は自分のデスクに突っ伏していた。黒川先輩のキーボードを叩く音が心地よくて寝てしまいそうだ。
「あー、くそっ。」
突然聞こえた田所さんの声に驚いた。まだいたんですか。
「ため息つくんじゃないよ。」
「びっくりした。黒川さんまだいたんすね。」
「いましたー。おい、みょうじも寝るなら帰って寝ろよ。」
「………ねません。まだやりまーす。」
「え、なまえちゃんもいたの。」
田所さんはTシャツのデザイナーさんをまだ探していたようだ。それでもそこそこ知名度のあるデザイナーは捕まらなく、なかなかうまくいってないみたい。また新たなデザイナーを探そうとデスクに向かっていた。
「どう思います。」
「何が。」
「ニモちゃんですよ。」
「ああ。」
田所さんと黒川さんの会話に耳を傾ける。また田所さん、そんな呼び方して。
「嘘が嫌だなんて綺麗事ですよね。あいつ、俺が好き好んで嘘ついてるとでも思ってるんですかね。仕事だからやってんのに。なんでわかんないかな、引き受けてもらってから始める交渉の仕方があるってことが。」
「二流だな。」
「え、俺は二流ですか。」
「イエース。」
「あんた結局誤魔化してるだけだろ。そのやり方だったら二度目はない。信頼関係を築けること。どんな状況でも腹割って話し合って、それでも"君のために"って言ってもらえること。」
君のために、かあ。
"ぜひみょうじさんに"そう言ってもらえた。「女だから」といつもなめられてきた私が「女だから」と仕事を任せてもらえた。いつか私も"みょうじさんのために"なんて言ってもらえる日が来るだろうか。黒川さんの言葉は田所さんにだけじゃない、私にもしかと届いた。やっぱりこの人は一流だ。